翻訳シリーズ|サイコビオティクスと呼ばれる腸内細菌は私達の気分を説明できるのか?

2015/10/14/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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腸内の住人マイクロバイオータ(腸内細菌)と体の健康について、様々な研究が進んでいます。そして、サイコビオティクス/サイコバイオティクスと呼ばれる腸内細菌と、心の健康との関係を明らかにする研究を紹介する記事が、2015年6月ニューヨークタイムズ紙に掲載されていました。

面白くまとめられていましたので、翻訳することにしました。

PETER ANDREY SMITH 2015年6月23日

腸内細菌が神経伝達物質を造ることを発見した生物学者

18本のフラスコ(バイアル)が、肉屋の秤のような形をした装置の上で、カチャカチャ音をたてながら前後に揺れていました。マーク・ライトは、興奮状態でそこにいました。

「実は昨日、フレッシュなものが手に入ったんだ。
新鮮なうちに冷凍されたものだ。」

ひとつひとつのフラスコには、米粒大くらいの猿の糞が入っています。

一昨日、ウィスコンシン州マジソン市にあるハーロウ霊長類研究室で採集され、テキサス州アビレーン市にあるテキサス工科大学ヘルス・サイエンス・センター内のライトの研究室に送られてきたものです。

ライトの興味は、糞そのものではなく、その中にいる隠れた生命体にありました。猿の消化管には、他の全ての脊椎動物と同様に、生物学者が腸内マイクロバイオータと呼ぶものが膨大に含まれています。

腸内の、そして、それ以外の身体の中や外に生息している、数兆個もの微生物の遺伝物質は、集合体としてマイクロバイオームとして知られています。体中のバクテリアを全て集めると、3キロ弱くらいの重さになります。そして、彼等はまるでひとつの臓器のような機能を作り上げています。その機能は、科学によって解き明かされ始めたばかりです。

ライトは、脳にメッセージを届ける神経伝達物質と同じ物質を腸内細菌が利用し、神経組織とコミュニケーションをとっていることの証明にキャリアを捧げています。

その日の午後、研究室にあるクローゼット・サイズの部屋の中で、フラスコの中身を確認するためにライトはかがみ込みました。フラスコの中には、遠心分離機で分離され、輝く黄金色になったスープが入っています。

ライト(60歳)は、早口で熱心に話しました。

「君は、我々がうんちから何を抽出しているのか信じられないと思うよ。僕達は、腸内にいるコイツ等が神経伝達物質を作っていることを発見したんだ。誰もそんなこと知らなかったよ。で、例えば、ここで彼等がこれを作ったら、その影響はあっちにでるだろうか?出なかったと思う?僕達人間も同じものを作るんだ。もしかしたら、こうしたコミュニケーションの全てが、僕達の行動に影響をもっているかもしれないんだ。」

我々はヒトであるよりも微生物

私達の体に棲む微生物を全てカタログ化するというヒューマン・マイクロバイオーム・プロジェクト計画を科学者達が発表した2007年以降、年を経るごとに、こうした微生物に対する深い敬意が急速に高まっています。

腸内細菌は、ビタミンを造り、食物を消化します。彼等の存在の有無と、肥満症や大腸炎、処方薬による有害な副作用との関連性が発見されてきました。今や生物学者は、私達を人間ならしめているもののほとんどは、微生物の活動によるものだと信じています

ヒト遺伝子1個に対して、200万個の微生物遺伝子が存在するということは、私達の細胞1つの中にある2万3,000個の遺伝子は、相対的にほとんど無視しても良いくらいの数でしかありません。

「自我意識にとって、これは大きな意味を含んでいます。」

と、国立精神衛生研究所(the National Institute of Mental Health)のディレクターであるトム・インゼルは私に言いました。

「少なくともDNAの観点から言えば、
我々はヒトであるよりも微生物なんです。
これは、象徴的な洞察であり、
人間の成長を考える上で、真剣に考慮しなければならないことです。」

バクテリアが人間の肉体に及ぼす影響については、ある程度、理解され始めたと言う事実をもってすれば、科学者が、次に、バクテリアの脳への影響について関心を向け始めたことは、驚くことではありません。

腸内細菌を入れ替えると神経形成が変化する

私達の腸内細菌は膨大な数の化学物質を分泌しています。

そして、ライトのような研究者は、それらの化学物質のいくつかが私達の感情を司っているニューロン(神経細胞)が使用する物質と同じものであることをつきとめました。例えば、ドーパミンやセロトニン、GABAなどです。

これらの物質は逆に、うつ病や不安症などと合併して発症することが多い腸内障害に関与しているかもしれません。

昨年、ノルウェイの研究グループは、55人の便を検査した結果、特定のバクテリアとうつの患者の症状の傾向が関連していることをつきとめました。

ライトの研究室を訪ねた時、特定の腸内細菌が精神病薬のように脳に機能する機序を確定する研究が6ヵ月めに入ったところでした。彼は乳幼児期の猿の糞から見つかった精神活性物質のリストをまとめていました。

一旦、機序が確定されれば、新生児の猿の腸内細菌を他の猿の腸に移植することを計画していました。移植を受けた猿は、まったく新しい細菌セットを所有することになります。そして、もし全てが仮説通りに進めば、その猿の神経形成が変化するはずです。

この実験は、既に判明している、不安、うつ、そしていくつかの子供の精神障害、例えば、自閉症や多動性障害などが消化器官の異常と関連しているという仮説に基づいてデザインされています。腸内細菌の移植は、脳の外科手術よりも低侵襲である(患者へ負担が低い)ことが、重要なポイントです。患者の腸内細菌を変化させることは簡単ではないかもしれませんが、遺伝子を変化させるよりもずっと判りやすいと思います。

30年経ってようやく科学として認められた研究

30年前、ライトが細菌と脳の関係について研究を始めた頃、それは、単なる好奇心を満たすだけの研究だろうと軽視されていました。しかし、2014年9月、国立精神衛生研究所は、精神病に関する腸内細菌の新しい4つの研究に、各100万ドル(約1億円)の補助金を提供しました。科学的な信ぴょう性を得るのに長い間苦労し続けてきた分野の正当性が保証されたのです。

4つの補助金のうち一つを獲得したのは、ハーロウ霊長類研究室の長年の同僚クリストファー・コウとライトでした。

「ほぼ25年前にマークが提案したことが、やっとで実った。」と、コウは私に言いました。「そして今、我々が取り組もうとしているのは、そのロジックを解明することです。」

まだ証明はされていないものの、将来、私達が細菌を使って精神形成障害を診断し、精神病を治療し、脳を修理する日がくると考えるのは、妥当に思われました

腸内細菌と脳を結びつけた最も有名な研究

2011年、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークとカナダのオンタリオ州にあるマクマスター大学の共同研究チームが国立科学アカデミーの会議録で発表した研究は、腸内細菌と脳を結びつけた研究の中で最も有名なものとなりました。

実験用マウスは、水の入った丈の高いシリンダーのような筒に投げ込まれます。これは、強制水泳テストとして知られている実験です。どんなに泳いでも、足をつくことも、壁を登ることもできないとマウスが悟り、諦めてただ浮いていることを選択するまでの間(約6分間)で、泳いでいる時間を測定するものです。

研究者は、マウスが漂っている時間の長さを“行動的絶望”と呼びます。抗うつ薬のゾロフトやプロザックは、この強制水泳テストを用いて効果を検証したものです。

この研究をデザインした時、脳科学者のジョン・クライアン率いるチームは、健康なマウスの一群に乳酸菌ラムノサスを溶かしたスープを数週間与えました。乳酸菌ラムノサスはヒトに共生している菌で、牛乳を発酵させてヨーグルトにする時に使用される一般的な菌です。

乳酸菌は、産道を通る時に赤ちゃんが飲み込む細菌の大半を占める菌です。最近の研究によって、妊娠中にストレスに晒されていた母マウスから生まれた赤ちゃんは、少ない善玉菌群しか得られないことが示されました。

母親の産道から得るタイプのバクテリアは、大量のGABAを放出することが知られています。GABAは抑制的神経伝達物質で、神経活動を穏やかにすると言われています。一般的な抗不安薬、例えば、バリウムやザナックスなどが、GABA受容体に働く仕組みになっている理由が分かりますね。

乳酸菌入りスープを与えられたマウスは、より長い時間泳ぎ続け、やる気をなくして動かずにいる時間が短いことをクライアンは発見したのです。

「彼等はまるでプロザックを飲んだかのように行動したんです。
より冷静で、リラックスしていたんです。」

この結果は、バクテリアがマウスの神経伝達物質を変化させたことを示唆していました。

脳科学と微生物学は相容れない分野だった

クライアンは、10年前にコークで同僚達に合流するまで、微生物学を疫学の観点でしか考えていませんでした。神経組織を損傷しダメージを与える梅毒菌(シフィリス)やHIVなどです。

「どう考えても相互関係が築けるとは思われない分野同士です。総論として微生物学と脳神経科学は、あまり交流のない分野です。その主な理由は、脳が、ある意味、守られた存在だからだと言えます。」

それは、脳が解剖学的に独立していること、血膜バリアは栄養素を通すものの、一般的な免疫機能反応である炎症性物質や病原菌から脳を保護していることを意味しています。

クライアンの研究は、脳のバリアを何らかの方法で善玉菌が潜り抜け、シグナルを脳に届ける術を獲得しているという証拠を提示し、科学的な事実として認知されました

具体的な方法は不明ではあるものの、腸内細菌は指の様に突起した腸の被膜内にある末端感覚神経をくすぐり、電気的信号を迷走神経にまで送り、更に脳組織の深部にまで送っていることを発見したことを2011年の論文では報告しています。脳の深部は、不安などの原始的な感情を司っています。

その後直ぐに、クライアンと共同執筆者のテッド・ダイナンは、『生物学的精神病学(Biological Psychiatry)』 に学説論文を発表しています。その中で、精神を変化させる微生物を“サイコビオティクス(psychobiotics)”と命名しています。

神経伝達物質の多く、例えば約50%のドーパミンとほとんどのセロトニンが、腸で造られていることは既にかなり前から知られていることです。これらの化学的シグナルは、食欲や満腹感をコントロールしたり、消化を促したりします。

しかし、精神病研究の本流が、こうした物質を造っている微生物の役割について、真剣に検討するようになったのは、ほんの最近になってからです。

しかし30年以上前から研究していた科学者がいた

ライト自身が興味を持ち始めたのは、1985年ピッツバーグ大学でポストドクターの研究生だった頃にさかのぼります。ちょうどその頃、新しく生まれたサイコニューロインミュノロジー(精神神経免疫学)という不格好な名前の分野に夢中になっていた頃です。

この学問の中心的な学説は、当時かなり議論の的となったのですが、

「ストレスは、免疫システムを抑制することで病気を悪化させる」

と、いうものでした。

ストレスと細菌と免疫力

1990年までには、ライトはその学説を3つの単語に集約させ、ミネソタ州マンケイト市にある彼の研究室の黒板には、

ストレス → 免疫 → 病気

と、書かれていました。

しかし、いくつかの実験の過程で、彼はひとつのパラドックスに陥っていました。

一匹で暮らしていたマウスのケージに別のマウスを侵入させると、免疫力が強化されました。免疫力の上昇は、細菌感染の恐れのある噛みつき傷やすり傷に抵抗するためではないかと彼は推測しました。

しかし、逆にストレスを感じた元のマウスが病気になったのです。ライトは、黒板の前に歩み出て、“免疫”という単語を消しました。ストレスは、感染症を引き起こす細菌に、直接、影響するのではないかと考えるようになったのです。

ストレスは感染症を悪化させるのか

微生物が如何にストレスに反応するかを確かめるために、彼は、ペトリ皿を牛の血清ベースの媒体で満たし、ある種のバクテリアを植えました。いくつかの皿には、哺乳類がストレスを感じると分泌する神経伝達物質ノルアドレナリンを垂らしておきました。

次の日、ポラロイドカメラで写真が撮れるほど、結果は目で見えるほど明らかなものでした。比較用のペトリ皿には、ほとんど何の変化もありませんでしたが、ノルアドレナリンを垂らしておいたものには、まるで雪の結晶の様な形で、バクテリアが繁殖していました。バクテリアは、明らかに、ストレスに反応したのです。

細菌はストレスを生むのか

更に、逆にバクテリアがストレスを生むのかを確かめるために、ヒトには食中毒を起こすものの、マウスの免疫を刺激することのないカンピロバクター・ジェジュナイ菌を溶かした溶液を白マウスに与えてみました。

訓練された目をもってしても、特殊なエサを与えられたマウスは、そうでない比較用のマウスと同じくらい健康でした。しかし、実験室の床から2メートルくらい上に造られた、透明のプレキシガラスの迷路を通らせた時、バクテリアを与えられたマウスは迷路の橋を渡ることを避ける傾向を示しました。人間に置き換えれば、彼等は不安で落ち着きを失っているようでした。バクテリアなしのエサを食べたマウスは、何の保護柵もなく高所に造られた狭い橋を平気で渡ったのです。

これらの結果はどれも非常に興味深いものです。しかし、ライトは、論文を発表させてくれる生物学の専門誌を見つけるのに苦労しました。

「専門家にとっては、呪いのようなものだったのだろう。」

と、彼は言いました。

病原菌を腸内に送り込むと行動が変わる

やっとで1998年に『生理学と行動』という専門ジャーナルに掲載された時も、ほとんど注目されませんでした。しかし、マクマスター大学の消化器病学のスティーブ・コリンズが私に告げたように、これらの最初の論文は、まったく新しい研究分野の種を含んでいたのです。

「あまり引用されなかったものの、
病原菌を腸内に送り込むと行動が変わることを、
マークはかなりエレガントな研究で明確に示したのです。」

ライトは、その後も、ストレス環境が如何に、生まれたての仔牛の大腸菌感染を悪化させ死に至らせるかを示しました。

食事を変えると行動が変化する

他にも、低脂肪のひき肉を食べさせたマウスの記憶力や学習能力が向上することを示しました。食事内容を変えることで腸内細菌が変化し、行動が変化することを示した証拠です。

2008年7月、数十年間の証拠の積み上げの後、研究発表のため彼はワシントンに飛びました。彼の論文は、250万ドル(約2億5,000万円)の賞金がついた“ブルースカイ生物医学研究”と呼ばれる、国立衛生研究所によるパイオニア賞の最終選考に残っていました。

とうとう、彼の時代がやってきたように思われました。彼のスピーチの番になった時、ライトは、バクテリアと中枢神経との会話について説明しました。著名な科学者達は信じられないという面持ちで、その2分後の質疑応答で質問をしています。

「ライト博士、もしあなたがおっしゃっていることが正しいとすれば、
我々が患者に抗生物質を与えた時、
なぜ患者は気が狂ったように病室を走り回ったりしないのでしょうか。」

ライトは、それが軽蔑的な質問であることは判っていました。

そして賞を獲得できなかった時、科学界はまだ、神経経路のいかなる部分においても、単細胞生物によって私達が影響を受けているということを、想像すらしたくないのだと、彼は確信したのでした。

ライトは、専門誌としてはランクの低い、非常識なアイデアの集まりだと認知されている『医学的仮説』誌に彼の学説を発表しました。予想通り、反応は芳しくありませんでした。「僕をキ○ガイと呼ぶ人達もいました。」

嘲笑された考えが検証されるべき仮説に

2011年の『バイオエッセイ』に、特定の精神病治療のために善玉菌をオーダーメイドできる可能性を提案した2つ目の学説論文を発表する頃までには、科学界は、少し寛容になっていました。

スティーブ・コリンズ率いるカナダチームが、抗生物質がマウスの慎重な行動の抑制に関与していることを実験で示していました。

そして、ライトの論文の2-3ヵ月前には、ストックホルムにあるカロリンスカ研究所の微生物学者スヴェン・ペターソンが、国立科学アカデミーの会議録に画期的な論文を発表していました。その論文には、腸内細菌を持たないまま育てられたマウスは、比較対象の健康的なマウスと比べて、屋外を非常に長い間走り回って過ごしたことが示されていました。腸内細菌を持たないマウスは、不安を示すことなく、より向こう見ずな行動をとったことが報告されていました。

アイルランドでは、クライアンが、強制水泳テストを使ったサイコビオティクスに関する研究論文を発表していました。

新しい研究のうねりが高まっていました。嘲笑された考えが、真剣な検証がなされるべき仮説になっていました。

脳科学のパラダイムシフト

2014年末、カリフォルニア工科大学の微生物学者サルキス・マツマニアンは、脳神経科学学会で『腸内細菌:脳科学のパラダイムシフト』と、題したプレゼンテーションを行いました。

タイトルの最後にクエスチョンマークを付け忘れたために、まるで事実の最終的な結論のようなタイトルになってしまいましたが、その期待に応えるチャンスをもっている者がいるとしたら、それは、マツマニアン自身です。

微生物が生成する代謝物質と呼ばれる小さくて薬のような化学物質の、多様な分子に着目し、一般的な神経化学物質の枠を超えて、彼の研究は進められています。高性能のコンピュータを活用し、今日において、サイコビオティクスに象徴される示唆的な相関関係を超えて、腸内細菌が脳機能に影響しているとする因果関係の決定的なメカニズムについての事実を発見しようとしているのです。

2年前、マツマニアンは、専門ジャーナル『細胞(Cell)』に、現在はカルテック(カリフォルニア工科大学)の脳科学者で当時は院生だったエレイン・ショウと共に、ひとつの分子と行動とを結び付ける挑発的な研究を発表しました。

マウスに2種類のバクテロイデス・フラジリス菌のどちらかひとつを与えると、異常なコミュニケーションや、小石を執着的に埋め続けるような反復行動が治まることを研究によって発見したのです。

この研究によって、腸内細菌は、脳の周りのバリアの浸透性に影響を与えるだけでなく、特定のバクテリアが外に漏れ出したり、入り込んだりすることを阻止している腸内膜にも影響するという仮説を打ち立てました。腸内バリアを実験で損傷させると、通常“善玉”であるバクテリアが分泌する毒素が、血中に染みだし脳の血膜バリアを潜り抜けてしまう可能性が高まることを発見したのです。

マツマニアンの同僚のひとり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の微生物学者マイケル・フィッシュバックは、

「科学界は、持っている全ての矢を放ちきるまで、
全ての箇所に色が塗られるまで、懐疑的でい続ける術を心得ています。
他の科学者が外枠を描いた絵に、サルキスが色を塗っていくのです。」

と、言いました。

脳の問題と考えられた病気は腸内細菌が原因かもしれない

マツマニアンは、特定の自閉症の子供に対する食事制限や抗生物質による治療がなぜ有効なのかという疑問に対して、この結果は、腸内細菌のコミュニティ(集合体)を変容させると腸の浸透性が変わるからかもしれないという、暫定的な説明を与えるだけであることは判っていました。

「これは単純な推測にすぎませんが、
大きな絵は、自閉症の様な病気は本当に脳の病気なのか、
もしかしたら腸や他の生理学的な側面の病気なのかもしれない
と、いうことです。」

全ての病気にそうしたリンクが証明されることで、細菌の中に存在する小さな分子から医薬品を開発できる未来を彼は見ていました。(彼が共同創設者となった、シンバイオティックス・バイオセラピーズ(Symbiotix Biotherapies)社は、バクテロイデス・フラジリス菌と関係のあるPSAと呼ばれる複合糖質を、腸疾患や多発性硬化症の治療薬として開発しています。)

処方すべき解決策には、土や犬や発酵食品に存在する環境細菌との接触を高めること以上のことが関係しているはずだと彼は考えています。私達が自分の共生細菌を子供に感染させたりシェアしたりする方法に根本的な誤りがあったと、彼は信じていました。しかし今のところ、彼が導ける結論は、かつて脳の問題だと考えられてきた障害は、腸内細菌の乱れによる症状かもしれないということ、そして、その乱れを慎重に定義することこそが十数年後の役に立つと、約束することになるということです。

人々の熱狂が科学を先走ってしまう危険

世界中の研究室で生まれている潜在的な治療法の数は、戸惑うほどです。

国際的ないくつかのグループは、健康的なボランティア被験者の脳スキャンと心理テストで、僅かに認知可能な効果がサイコビオティクスにあることを発見しました。

アリゾナのチームは、最近、自閉症児に腸内細菌移植を敢行しました。 (同時に、オーストラリアと英国、海外のクリニックで、多発性硬化症などの脳神経障害の治療のため、腸内細菌移植の提供が開始されました。)

しかしマツマニアンは、彼の研究は、まだ、よちよち歩きの赤ちゃんと同じだと慎重です。

「我々は、“マイクロバイオームは万能薬だ”と、
皆がいうほどの段階に辿り着いています。
そして、私もそのことに関与しているわけだが、
でも、もし本当にそうなったら、驚くだろうね。」

ライト(彼は、アイオワ州の獣医学大学に移っていました)も同じような警告を発しています。

「人々は、明らかに解決策を求めるのに必死です。」

「僕が恐れているのは、人々の熱狂が、
科学よりも先走ってしまうことです。」

彼に答えを求めてメールを送ってくる親達は、現代医療による全ての選択肢に見放された人達だということを彼は分かっていました。

「そこには未開拓の西部が広がっているんです。今やオンラインショップで、いかなる病気の治療にもプロビオティクスを様々な量で購入できます。そして、私の論文がその根拠として使用されているものもあります。でも私は一度もプロイオティクスを手に入れろ等と言ったことはありません。人々が治療として実際に使用する前に、もっと多くのリサーチが行われる必要が真剣にあります。」

サイコビオティクスという概念を生んだことが、ある意味、彼を侵食してしまったのだとしても、それは、面白い証言であり、贖罪ですらありました。古典派の微生物学者が、脳神経科学で最も注目される分野の真っただ中に押し出されてしまったのです。

その瞬間も、彼の頭の中には大まかな地図と、冷凍庫いっぱいの猿の糞がありました。

人生の終盤までには、社交的な猿とシャイな猿の違いが判別できるくらいには研究がなされているかもしれません。

性格の移植は可能になるのか

まだ少し非現実的な“性格移植”を可能にするには何が必要なのか彼に訊ねてみました。しかし、便を造り出すのと同じ臓器に、脳機能のいったい何を追跡できるのか、その謎を解くカギにはまったく近づいていないように思われました。

「僕達が理解しようとしているのは、マイクロバイオータが
脳やその成長に影響を及ぼすメカニズムだ。」

と、ライトは言いました。

「例えば、もし君がある動物のマイクロバイオータをもう一匹の動物に移植したとすると、君は行動を移植したことになると、もし君がそれを信じられるなら、今、僕達は瀬戸際に立っていると言えるのだろうか?答えは、イエスだ。それは僕達の未来なのだろうか?僕は、それはまだ長い道の先だと思う。」

原典: “Can the Bacteria in Your Gut Explain Your Mood? – The rich array of microbiota in our intestines can tell us more than you might think”, PETER ANDREY SMITH, JUNE 23, 2015

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