
バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
誕生時の腸内細菌の顔ぶれと母乳育児の長さと、その後の子供の血圧への影響について調査した研究結果が、2025年2月27日「米国心臓協会ジャーナル(Journal of the American Heart Association)」に発表されました。
母乳育児が子供の健康にとって良いだけでなく、母親にとってもメリットがあることが次々と明らかにされていますが、今回は、腸内細菌との関係から、母乳育児の必要な長さが明らかにされていたため、和訳要約してお伝えします。
腸内細菌の多様性の是非
米国コロラド大学デンバー校の医学大学院(Anschutz Medical Campus)は、「2010年コペンハーゲン小児喘息前向き研究コホート(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010)」に参加した526人の子どもを対象に、乳児期の腸内細菌の多様性と母乳育児とその後の血圧への影響について分析しました。
腸内細菌、特に、善玉菌の多様性が大人の健康にとって重要であることは、今や常識です。
しかし、乳児においては、ただ多様性があれば良いわけではないことを今回の研究は示しています。
誕生時の腸内細菌の多様性

1. 誕生時の違い
経腟分娩で誕生した赤ちゃんの出生時の腸内細菌の顔ぶれには多様性はありません。ほぼ、ビフィズス菌と乳酸菌に独占されています。
一方で、帝王切開などで誕生した赤ちゃんの誕生時の腸内には、多様な細菌が存在しています。ビフィズス菌や乳酸菌の割合は非常に低いか皆無。その代わりに誕生の場に居合わせた大人の皮膚や口腔内に共生している菌などの割合が多く存在し、多様性をもっています。
そして、どちらの分娩方法によって誕生した赤ちゃんも2歳までには、成人と同じような多様な腸内細菌をもつようになります。
2. 成人に近くなるスピードに違い
ただ、成人と同じような腸内細菌の顔ぶれになるまでのスピードは分娩方法と授乳方法によって異なります。
体の成長に合わせて最もゆっくりと成人に近づいていくのは、経腟分娩で誕生し母乳で育てられた赤ちゃんです。一方、体の成長スピードよりも速く腸内細菌の顔ぶれが最も成人に近くなるのは、帝王切開で誕生し母乳で育てられた赤ちゃんです。帝王切開で誕生し人工乳で育った赤ちゃんは、帝王切開+母乳の赤ちゃんの次に速く成人に近づきます。
つまり、経腟分娩で誕生した赤ちゃんと比較して、帝王切開で誕生した赤ちゃんは、母乳でも人工乳でも実際の月齢よりも、腸内の月齢が速く高くなることを意味します。
詳しくは『赤ちゃんと腸内細菌』をご確認ください。
今回の研究は、こうした違いが、3歳時点、6歳時点で血圧に現れることを明らかにしたものです。
母乳育児期間と腸内細菌の多様性
母乳育児か人工乳育児かという二元的な区別だけでなく、母乳育児の期間の長さが、乳児の腸内細菌の変化と、小児時の血圧に影響することが示されています。
1. 6か月以上の母乳育児を受けた乳児

6か月以上に渡って母乳による育児を受けた乳児では、次の特徴が見られました。
- 1週齢の腸内細菌の多様性が増えるほど、6歳になった時の収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)が低下
- 1か月齢の腸内細菌の多様性が増えるほど、3歳になった時の拡張期血圧と6歳になった時の両方の血圧が低下
母乳を餌に増えるのはビフィズス菌と乳酸菌です。6カ月以上の母乳育児によって生じた腸内細菌の多様性は、主にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌によると考えられます。
母親の産道を通って誕生した赤ちゃんは、産道に溢れている乳酸菌とビフィズス菌をまとって生まれます。誕生の瞬間から腸内は乳酸菌とビフィズス菌で満たされていますので、母乳育児によって母乳オリゴ糖を餌とする乳酸菌とビフィズス菌の種類が増加する(多様性が増加する)ことは、「生物学的に妥当だ」と研究者は述べています。
腸内細菌の多様性を評価する方法にはいくつかありますが、そのひとつが「シャノン指数」です。シャノン指数は、腸内細菌の種類が多く、それぞれの種に含まれる菌の数が均等であるほど高くなります。
6か月以上の母乳育児を受けた乳児では、1か月齢の時点でシャノン指数が1単位増えるごとに、6歳になった時の収縮期血圧(上の血圧)が1.86 mmHg低下することが示されています。
2. 6か月未満の母乳育児を受けた乳児

母乳による育児が6か月に満たず、その他の期間は人工乳(粉ミルク)で育てられた乳児には、次の特徴が見られました。
- 1週齢の腸内細菌の多様性が増えるほど、6歳になった時の収縮期血圧と拡張期血圧が上昇
- 1か月齢の腸内細菌の多様性が増えるほど、3歳になった時の拡張期血圧と6歳になった時の両方の血圧が上昇
更に、6ヶ月未満の母乳育児を受けた乳児では、1か月齢の時点でシャノン指数が1単位増えるごとに、6歳になった時の収縮期血圧(上の血圧)が、0.73 mmHg上昇することが示されています。
6か月よりも短い母乳育児期間によって生じた腸内細菌の多様性は、母乳オリゴ糖を必要とするビフィズス菌や乳酸菌ではなく、母乳オリゴ糖を必要としない菌ではないかと推察されます。そのことが小児になった時の血圧の上昇と関係していると考えられます。
残念ながら人工乳(粉ミルク)には天然の母乳オリゴ糖は入っていません。その代わりとなる合成オリゴ糖の開発が進められていますが、母乳と同じ効果は得られないようですね。
ビフィズス菌の多様性と血圧

1週齢と1か月齢の時点で、ビフィズス菌属に属する2種類の菌株(ビフィズス菌a976株、ビフィズス菌78e株)の量が多いと、次の効果があることが示されました。
- 1週間以上母乳育児を受けた乳児・・・3歳になった時の収縮期血圧(上の血圧)の予防効果あり
- 6か月以上母乳育児を受けた乳児のみ・・・6歳になった時の収縮期血圧の予防効果あり
1週齢でビフィズス菌が多く存在しているためには、経腟分娩が前提になると考えられますが、乳児期初期にビフィズス菌の量が多くても(経腟分娩で誕生したとしても)、母乳育児期間が短いとその後の血圧予防効果は限定的(3歳まで)になることをこの結果は示しています。
母乳育児期間が短いと更に・・
乳児期に母乳オリゴ糖が十分に提供されないと、乳酸菌とビフィズス菌は、オリゴ糖の代わりに腸粘膜(腸管のムチン層)中のグリカンなどを分解して餌にしてしまう可能性があると研究者は述べています。
その結果、リーキーガット(腸管透過性亢進)が起こり、炎症性物質が腸管から血管内に入り込み、炎症性疾患に伴う血圧上昇を引き起こすのではないかと述べています。
つまり、経腟分娩で出産した場合には、母乳育児を6か月以上続けなければ、返って子供が食物アレルギーや高血圧やその他の炎症性疾患を発症しやすくなる可能性があるということです。
もちろん、帝王切開で出産した場合にも母乳を与えないと、そもそも少なかった乳酸菌とビフィズス菌が速く増えてくれないので、やはりその後の子供の健康に影響が現われる可能性は否定できません。
3歳と6歳時の血圧に影響する8つの腸内細菌

ビフィズス菌属に加え、生後1週め(1週齢)と1カ月目(1か月齢)の時点で、次の8つの腸内細菌の存在量が、3歳と6歳の時の血圧に影響をもっていることが示されました。
1. 血圧の低下と関連する菌
① アクチノマイセス菌
アクチノマイセス菌属は、主な口腔常在菌の構成菌です。健康なヒトの口に多く存在し、歯周炎などがある人で減少します。
1週齢でアクチノマイセス菌cdeb株の存在量が多いことは、6歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の低下と関連していました。
② クロストリジウム菌
クロストリジウム菌属は、塵埃、土壌、植物や哺乳類の消化管内などに常在している菌で、自然界に広く存在しています。
1か月齢でクロストリジウム菌1-25e4株の存在量が多いことは、3歳と6歳時の血圧の低下と関連していました。

③ エンテロバクター属(腸内細菌科菌群)
エンテロバクター属は、真正細菌の一属で腸内に広く存在している常在菌属です。
1週齢でエンテロバクター属81ff株の存在量が多いことは、6歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の低下と関連していました。
④ ブラウティア菌
ブラウティア菌は、腸内の常在菌で、酪酸や酢酸などを産生し、日本人にとって「やせ菌」として注目されている菌です。
1か月齢で、ブラウティア菌7105株の存在量が多いことは、3歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の低下と関連していました。
この子たちはみんな、基本的に成人の腸内に普通に常在している共生細菌たちで、いわゆる善玉菌(一部、日和見菌)です。だから、赤ちゃんの成長に合わせて、腸内で増えて行って構わない菌たちですね。
2. 血圧の上昇と関連する菌

⑤ ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)
胃粘膜に存在する共生菌です。
1週齢でピロリ菌45cd株の存在量が多いことは、3歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の上昇と関連していました。
ピロリ菌については、『ピロリ菌は共生細菌』もご参照ください。
⑥ 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌属は、手指・鼻・のど・耳・皮膚などに広く生息している細菌です。健康な人の40%が保菌していると考えられています。ただし、病原性が強く、典型的には皮膚感染症を引き起こすほか、ときに肺炎、心内膜炎、骨髄炎を引き起こすことがあります。
1か月齢で黄色ブドウ球菌d2a5株の存在量が多いことは、3歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の上昇と関連していましたが、6歳での拡張期血圧とは関連がありませんでした。
⑦ パラバクテロイデス菌
バクテロイデス属に分類される一属で、主に消化管に常在し、時には他の部位で感染を引き起こすこともあります。
1週齢で、パラバクテロイデス菌a68a株の存在量が多いことは、6歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の上昇と関連していました。
⑧ ルミノコッカス・グナバス菌
ルミノコッカス・グナバス菌は、腸内に存在する共生菌の一種で、炎症性腸疾患(IBD)などの炎症性疾患や、川崎病、冠動脈疾患などと関連がある炎症を誘発する菌として注目されている菌です。
1週齢で、ルミノコッカス・グナバス菌daa9株の存在量が多いことは、3歳時の収縮期血圧と拡張期血圧の両方の上昇と関連していました。
これらの菌たちも、成人の体内に普通に常在している共生細菌たちです。多くなり過ぎると病原性をもつものの、多くなり過ぎなければ問題を起こさない日和見菌です。
よほど衛生的に問題のある環境で育てない限り、ビフィズス菌で満たされている経腟分娩で誕生した赤ちゃんの腸内にこうした菌が1週齢や1か月齢で急に増えることは考えにくいものです。しかし、帝王切開で誕生した赤ちゃんの腸内には、誕生の場に立ち会っていた人たちの皮膚や口内に存在していた菌や、病院内に存在していた菌などが含まれますから、こうした菌が誕生後1週めや1か月めに増えてしまう可能性を否定できません。
望ましい母乳育児期間

今回の研究によって、生後6か月以上の母乳による育児が、特定のビフィズス菌種の多様性と6歳までの血圧を調節する鍵となることが明らかになりました。
日本の厚生労働省は生後1歳6ヶ月頃までに卒乳することを推奨していますが、完全母乳育児が望ましい期間については特に言及していません。一方、世界保健機関(WHO)は、母乳育児に関する方針として次のように述べています。
「生後6か月間は、(理想的には完全)母乳育児を行い、
6か月を過ぎたら、栄養豊富な補完食を与えながら
母乳育児は2年かそれ以上続けることが望ましい」
ただ、粉ミルクの積極的なマーケティングや不十分な産休制度や職場における支援不足といった要因によって、こうした方針を守ることが難しい国があることを研究者は危惧しています。

ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス

日本では、「育児介護休業法」によって、出産から1年間は、合法的に仕事を休むことができる権利が全ての女性に与えられています。
勤め先の就業規則に育児休業に関する規定がなくても、法律に基づき育児休業を取得することができ、会社側は休業の申し出を拒めないことになっています。
とはいえ、家計の状況やワンオペだったり、会社の就業の在り方や雰囲気や人間関係などで、1年間とは言いにくいという人もいるでしょう・・・
でも、出産後の6か月間を母乳で育てることは、その後のお子さんの人生を守ることになります。
なんとか、できる範囲で、それが可能になる準備を出産前から計画しておくことをお勧めしたいです。
もしおひとりで取り組むことに不安や難しさを感じるのでしたら、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?
公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。
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参考文献
- “Infant Gut Microbiota and Childhood Blood Pressure: Prospective Associations and the Modifying Role of Breastfeeding”, Journal Article, Liu, T., Stokholm, J., Zhang, M., Vinding, R., Sørensen, J., Zhao, N., Mueller, T., 2025, Journal of the American Heart Association, e037447, 14, 5, doi:10.1161/JAHA.124.03744
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング