バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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日経ウーマンオンラインが2019年2月をもって閉鎖されることとなり、それに伴い、2014年2月~2014年12月まで連載していた『なりたい自分になるNY流栄養学 ホリスティック美女講座』の記事をこちらに再掲しています。
2014年9月1日
目次
運命はDNAで決まるのか?
DNAってご存知ですよね。犯罪捜査や人物特定のため、親子確認のため、そして病気の可能性の有無の確認のため、近年、使用されるようになった遺伝子検査の根幹をなすものです。
DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)、の4つの塩基の組み合わせ(塩基配列)で成り立っています。この配列は、ヒトでは99%以上同じと言われています。残りのたった1%弱の組み合わせや順番が異なることで、特定の病気や特定の体質、体の特徴として、私達ひとりひとりを個性づけていることになります。
エピジェネティクス
でも、その組み合わせだけで、病気や体質や体の特徴が決まるわけではありません。様々な環境条件がそろうことで初めて遺伝子の特徴が発現されるのです。太りやすいDNAを持っている人が、かならず太るわけでも、背が高くなるDNAを持っている人が、必ず背が高くなるわけでもありません。癌のDNAを持っている人が、必ず癌になるわけでもありません。そのDNAをもっているだけで、そのDNAが必ず発現するわけではないのです。
乳がんになりやすい遺伝子を持っている人が必ず乳がんになるわけではないし、持っていない人が乳がんにならないわけでもない。
遺伝子の発現方法はどのような要因から影響を受け、決まるのか、化学的、医学的、生物学的、栄養学的に研究する、エピジェネティクスという研究領域があります。更に、エピジェネティクスと関係し、ニュートリジェネティクス(栄養遺伝子解析学)やニュートリゲノミクス(栄養ゲノム解析学)という、特に、食品栄養素と遺伝子の関係を研究する学問もあります。
食事と遺伝子発現
女子栄養大学栄養科学研究所は、高血圧・肥満に関連する遺伝子多型に異常を持つ人の血圧、体重、体脂肪率と食事や運動との関係を調査した結果、
「食事と運動療法は、遺伝的な体質よりも影響が大きい」
と報告しています。
また、東北大学大学院農学研究科は、個々の栄養素ではなく、食品の組み合わせや調理法などの集合体としての食事が、どのように私達の遺伝子に影響を与えるのか研究し、食事が遺伝子の修復や代謝能力、がんの前兆とも言われる臓器炎症の悪化や改善に直接関係していることを報告しています。
遺伝子異常は発病の約束ではない
昨年、BRCA1とBRCA2遺伝子に異常が発見され、乳がん予防として乳腺の予備的切除を行った女優のアンジェリーナ・ジョリーさんですが、今年は更に、卵巣や子宮の摘出を行うという報道がなされました。
変異した遺伝子を持っている人が、生涯で乳がんを発症する確率は45-84%、卵巣がんでは11-62%だと言われています。ご覧のとおり、この確率には大きなばらつきがあります。そして、最も大切なことは、100%ではないということです。
また、乳がんや卵巣がんを発症した人の全てが、変異した遺伝子を持っているわけでもありません。乳がん患者の3人に2人は遺伝子異常をもっていないんですよ。
遺伝子に異常があることが、100%の発症を約束するわけではないように、遺伝子に異常がないことも健康の約束ではありません。遺伝子に異常がない人も、生活習慣が健康的でなければ病気になります。言い換えれば、食生活やライフスタイルは、遺伝子異常の有無にかかわらず、病気の発症の可能性を左右できるということです。
アンジェリーナ・ジョリーさんは遺伝子検査に基づいた人生の選択をしたわけですが、ホリスティック・ヘルスコーチの立場から見ると、その行動は「人間は遺伝子の前に無力。今のライフスタイルや食事を変えるくらいなら、体の一部を切除する方がまし」という価値観にもとれます。それは、食べ過ぎて太っても、痩せるために食事やライフスタイルを変えるくらいなら、ダイエット薬や脂肪吸引すればよいと言う、ファストなライフスタイルの行きつく先のように思えます。彼女の行為を勇気ある決断だと称賛する声も多いですが、果たして本当にそうなのでしょうか。
さて、ここまでは、DNAについてお話しましたが、近年、私達は自己のDNAだけで存在しているわけではないという研究が進んでいます。
新発見の「マイクロバイオーム」って?
私達の腸内には、1,000種類以上、100兆個以上の微生物が存在しています。もちろん、腸内だけでなく、皮膚や口の中などの微生物達とも共存しています。それらの微生物達もそれぞれDNAを持っており、その数は、消化器官の中だけでも330万個超になると言われています。私達の遺伝子数が約2~2万5千個ですから、100倍以上の他の生物の遺伝子が私達の体内外に存在し、共存していることになります。
これらの微生物は総称してマイクロバイオータと呼ばれ、マイクロバイオータのDNAを総称してマイクロバイオームと呼びます。そしてこれらのマイクロバイオータは、私達が他の生き物とふれあう度に相互に交換されています。
そのためマイクロバイオータの編成はひとりひとり異なります。DNAがまったく同じ一卵性の双子も、訪れた場所や友人関係が異なれば、マイクロバイオーム(DNA)の構成が異なるのです。もちろん家族同士は似る傾向にありますが、同じにはなりません。マイクロバイオータの構成そのものが、私達のバイオ個性(第一回目参照)の源と言えるかもしれませんね。
マイクロバイオームが病気の発現を左右する
そのため、個人のDNAだけでなく、個人と共存するマイクロバイオーム(DNA)の発現が正常に行われるような食事やライフスタイルが、宿主である私達の健康に有益につながっているというのが最新の発見です。マイクロバイオータは、私達の代謝効率、免疫力、情緒、ホルモンバランスなどに大きな影響力をもち、病気の発現を左右しているのです。マイクロバイオータのバランスが崩れると私達は病気になりやすくなります。
6月と7月に開催したワークショップでは、このマイクロバイオータのバランスを整えて、幸福感や免疫力を高めて幸せ体質になるための方法論「ボディ・エコロジー(R)(体内生態学)」について学んでいただきました。
マイクロバイオータはどこからくるのか
私達がマイクロバイオータと出会うのは、母親の胎内にいる時です。今まで、胎盤内は無菌だと言われてきましたが、実は、胎盤にもマイクロバイオータが発見され、その構成は、母親の口内細菌の構成と非常に類似していることが報告されています。その後、母親の産道を通る際に、私達は、母親の腸内細菌や皮膚細菌など、母親を取り巻くマイクロバイオータを受け継ぎます。母親のものだけでなく、誕生の場に立ち会った医師や看護師、父親などの皮膚のマイクロバイオータも含まれます。そして母乳がその繁殖を促進させます。
マイクロバイオータが赤ちゃんの腸内で繁殖する(ミクロフローラが形成される、※便秘の回参照)のに3カ月、構成が成人に近くなるには、約3年かかると言われています。腸内には、免疫細胞の60%以上が存在しているため、ミクロフローラの健康的な繁殖が、宿主である私達の免疫力や健康に大きく影響します。例えば、近年、アレルギーなどの免疫疾患をもって生まれてくる赤ちゃんが多いことのひとつの理由として、ミクロフローラの形成不全やアンバランスが挙げられています。これは継承元の母親のバランスが既に乱れていたことや産後の過剰な殺菌・消毒、母乳不足などによって有益なマイクロバイオータが十分に継承・繁殖しなかったこと等が原因と言われています。
マイクロバイオータの宿主である私達には、マイクロバイオータの数を増やし、種類豊富でバラエティに富み、また、その種類や分布が偏りなくバランスするような食生活やライフスタイルが求められます。マイクロバイオータは、分類学上の「界」や「門」のレベルで異なる微生物の集合体です。東洋人と西洋人程度の差ではなく、人類と鳥類くらいまったく異なるレベルの超多様な微生物の集合体なんです。
マイクロバイオータを好ましく増やすには?
その多様なマイクロバイオータの分布バランスを整え、好ましいものの数を増やすためには、ミクロフローラの住みやすい腸内環境を整える “プロ”ビオティクスと呼ばれる食品を食べることや“プレ”ビオティクスと呼ばれる「ミクロフローラの食べ物」を食べることの他に、抗生物質などをむやみに使わないことや、マイクロバイオータが住みやすい皮膚環境や口内環境を整え、むやみに殺菌剤や洗剤を使わないことが大切です。
ほかにもできることはあります。
種類を増やしてバラエティ豊富にするためには、自然や動物と交わることが有効です。自然は、微生物の宝庫です。ガーデニングで土に触る、公園を散歩する、森、山、海、川、池に入る、土で育った野菜や果物を食べることで土のマイクロバイオータを取り込むことができます。質の良いマイクロバイオーム(DNA)を摂りいれるには、その食物が育った土壌や水質、栽培方法などが、とても重要です。
動物も固有のマイクロバイオータと共存しています。動物と生活することで、お互いのマイクロバイオータの交換が自然と行われ、バラエティ豊富な構成をつくることができます。
また、マイクロバイオータの分布は、人種ごとに異なりますから、海外に行って、知らない土地の料理を食べる、人々とふれあう等もバラエティ豊富なマイクロバイオータをもつことに有効です。マイクロバイオータの種類が多いということは、多様な環境の変化への対応力があることを意味します。
余談ですが、母親が直接手で結んだおにぎりの方が、手袋をして握るコンビニやスーパーの“手作り”おにぎりよりも美味しい理由にもマイクロバイオータが関わっています。母親の手のマイクロバイオータは、お米と交じり合って、様々な有益な酵素反応(生野菜の回参照)を起こします。母親のおにぎりが美味しいのには、科学的な理由もあるんですよ。ちなみに自家製のお味噌も糠漬けも手袋をつけずに直接手で混ぜることで、その家独自の美味しい味となります。
運命はDNAだけでは決まらない
私達は自己のDNAだけが形作っている存在ではありません。自己のDNAの100倍以上のマイクロバイオーム(DNA)と共生している存在です。DNAの塩基配列だけで運命は決まりません。環境によってDNAは発現方法(運命)を変えるのですから。
遺伝子検査だけで、本当に人生を決めてしまってもいいのですか?
体の一部を切除する前に、マイクロバイオータとの戦略的互恵関係を築くことを考えてみませんか?
食事やライフスタイルを変えることで、運命を変えることができるかもしれないんですよ。
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
もしおひとりで取り組むことに不安や難しさを感じるのでしたら、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?
公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。
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新学期は、毎年3月と9月です。講座でお会いしましょう。
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【参考文献】
- “Some of My Best Friends Are Germs“, MICHAEL POLLAN, May 15, 2013
- “Genetic/Familial High-risk Assessment: Breast and Ovarian” Version 1.2012, NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, National Comprehensive Cancer Network
- “The Coming of Age of Nutrigenetics and Nutrigenomics” Kang, Jing X. MD., Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School. 2012, Karger AG, Basel
- “A Clinician’s Primer on the Role of the Microbiome in Human Health and Disease”, Sahil Khanna, MBBS, MS, Pritish K. Tosh, MD., Mayo Clinic Proceedings, Volume 89, Issue 1, Pages 107-114, January 2014
- “The core gut microbiome, energy balance and obesity”, Peter J Turnbaugh and Jeffrey Gordon, Jun 2, 2009, J Physiol. Sep 1, 2009; 587(Pt 17): 4153-4158., PMCID: PMC2754355
- “MICROBIOME – The Placenta Harbors a Unique Microbiome”, Kjersti Aagaard, Jun Ma, Kathleen M. Antony, Radhika Ganu, Joseph Petrosino and James Versalovic, 21 May 2014: Vol. 6, Issue 237, p. 237ra65, Science Translational Medicine, DOI:0.1126/scitranslmed.3008599
- 「メタボリックシンドローム関連の遺伝子多型を利用したテイラーメイド食事療法の開発」平成23年度健康科学部門活動報告、田中明、臨床栄養医学教授
- 「遺伝子解析でみた日本食の栄養特性」東北大学大学院農学研究科機能分子解析学、教授、宮澤陽夫
- 「腸管免疫系と腸内細菌の共生関係の構築に必須の分子を発見」平成26年4月29日、科学技術振興機構(JST)、東京大学 医科学研究所、理化学研究所、慶應義塾大学,
- “Angelina Jolie Plans More Surgery in Lieu of Cancer Prevention Lifestyle.”, Sarah, Celebrity Health, The Healthy Home Economist, June 1 2014
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング