【翻訳シリーズ】少子化対策と出産の自由選択と『侍女の物語』|ハーバード大学産科医の寄稿論文より

2024/12/10/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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ハーバード大学医学部付属ブリガム&婦人科病院(Brigham and Women’s Hospital)の産婦人科医デボラ・バーツ医師が、現在の先進国でみられる出産奨励政策(少子化対策)が、小説『侍女の物語(The Handmaid’s Tale)』で描かれているプロネイタリズム(Pronatalism)=出産奨励主義を彷彿とさせると、NEJM(ニューインランド医学ジャーナル)に寄稿されていました。

わたしは、テレビドラマ化された『侍女の物語』を、数年前に何の予備知識もないまま観始めたのですが、第1話目から驚愕の内容の連続で、暴力シーンもありますが、多くの人に観て欲しいと願う深く重いドラマです。きっと原作はもっとずっと深いのだろうと思います。

バーツ先生の元の論文のタイトルに用いられている“Blessed Be the Fruit(果実の祝福を)”は、『侍女の物語』の中で、あいさつの言葉として用いられている聖書の記述に由来する受胎を祈る言葉です。このあいさつへは、“May the Lord Open(神が開きますように)”と応えます。こちらも、神様が子宮を開き受胎を祈る言葉です。

侍女の物語そのものもそうですが、バーツ先生の論文も、非常に考えさせられる内容でしたので、和訳要約してお伝えすることにしました。あなたはどう考えますか?

デボラ・バーツ(Deborah Bartz)M.D.
ラザドーツ・フォラティ(Rasadokht Forati)B.S.

2024年10月26日

小説家マーガレット・アトウッドは、1985 年の小説『侍女の物語』のインスピレーションは、当時の米国の政治情勢から生まれたと、インタビューの中で説明しています。はっきりと言えば、公民権運動と第二次フェミニズム運動の後に、レーガン時代に起きた有権者の人口動態と政策方針の変化によって、宗教的伝統主義者と同盟を結ぶ政治家が多く発生したことに起因しています。

このアプローチ(宗教的伝統主義)が勝利の戦略であると認識した候補者や議員は、有権者を動かす手段として、中絶や LGBTQIA+の権利や健康など、宗教的に論争の多い問題に対する二極化の大きさと深さを誇張してきました。

女性の完全な従属と強制代理出産というアトウッドのディストピアの物語からは、まだ程遠いものの、中絶、避妊補助金、体外受精に関する連邦および州の政策は、大多数のアメリカ人の価値観から外れた形で導入されてきました。

政策的な大勝利、特に「ロー対ウェイド判決」を覆したことに後押しされ、無過失離婚の拡大や避妊薬へのアクセス制限などを含めた家族の私的な判断にまで干渉する政策への支持を、現在の大統領選挙のタイミングで一部の候補者たちは表明しています。

新たに激しい非難の標的となったのは、国の将来に対して正当な投資をしていないと、一部の政治家が嘲笑する「子供をもたないキャットレディ」です。

選択か不妊かにかかわらず、出産をしない女性たちを攻撃することによって、既に起きているとされる「大置換/グレイト・リプレイスメント(Great Replacement)」を阻止するために白人至上主義と優生学を支持していることを、政治家たちは暗に表明しているのです。

「プロネイタリズム(出産奨励主義)」とは、必要かつ前向きな社会貢献として妊娠を奨励し、特に女性に対して、母親としての役割を強く求める姿勢または政策アプローチであり、多くの場合、女性の教育、統治力そして労働力としての機会を意図的に犠牲にするものです。

現在、世界中で出産奨励主義が増加しているものの、政府の出産奨励政策は、経済的懸念、民族国家主義、伝統的な家族の価値観の浸透という、主に3つの動機によって、長い間、盛衰を繰り返してきました。

これら3つの動機は相互に排他的ではなく、厳しく統制された独裁政権下では特に、相互に関係して出産奨励政策に影響を与える可能性があります。おそらく最も極端な例の1つは、冷戦下の東欧の混乱に対応してニコラエ・チャウシェスク政権 (1965~1989年) 下のルーマニアで行われた、政府による妊娠・出産の厳しい監視と操作です。あるいは、20世紀前半の米国の避妊禁止法や国家レベルの優生法に代表されるように、一部の人々の妊娠・出産を他の人々よりも優先させることで、国内の特定の人口分布に影響を与えることを目的に出産奨励政策は策定されます。

表明された動機に関係なく、このような政策は、妊娠・出産サービスへのアクセスを公然と制限したり、または逆に、女性たちが望む方法で安全な出産と子育てができるよう、資金や社会的支援、身体的または精神的な健康を欠く人々の出産を奨励することによって、実際は女性と疎外された人々の健康とウェルビーイングを脅かします。

さらに、出産奨励主義のイデオロギーは、多くの人々の妊娠・出産に関する目標や社会の男女平等の取り組みと矛盾します。私たちは、政府の生殖政策に警鐘を鳴らし、それが正常化しないよう抵抗することが重要だと信じています。この抵抗は、妊娠・出産の自由と選択が保証されたことのない、歴史的に疎外された人々において特出しています。

1950年から2021年の間に、世界の合計特殊出生数は女性1人当たり4.84人から2.23人に減少し、2050年には1.83人に、2100年までには、人口置換水準である女性1人当たり2.1人を大きく下回る 1.59人に達すると予測されています。

この大規模な人口変動による影響は、高齢者の数が増え、労働生産人口が縮小し、社会保障制度や労働市場、消費市場、そして医療など、労働者に依存するシステムへの負担増が予測されることから、当然、人々を不安にさせます。そのため、世界各地の政策立案者は、人口増加を後押しすることを期待して、育児補助金や育児休暇の延長などの支援策を含む出産奨励政策を推進・導入してきました。しかし、家族数の増加を促すことを目的としたこれらの政策は、持続的な出生率の増加には結びついていません。その主な理由として、出産と育児にかかる金銭的、社会的、精神的なコストと比較して、政府のインセンティブが不十分であることが挙げられます。

出産奨励による健康被害は、広範囲に及んでいます。最も衝撃的なことは、制限的な生殖政策は、妊産婦の死亡リスクを上昇させることです。中絶は、ロー判決によれば理論上、国によって保護されている権利であるのにも関わらず、多くの州が安全な中絶治療へのアクセスを制限しています。2015年だけでも、17の州が中絶を制限する新しい規則を合計で57本も制定しています。

国立健康統計センターによる調査は、2015年から2018年までに、州の中絶政策総合指数(中絶治療へのアクセスを制限する州レベルの8つの政策から算出されるスコア)が1単位上昇するごとに、妊産婦の死亡率が7%上昇することを示しています。いくつかの政策は、他の政策よりも危険です。例えば、中絶治療へのメディケイドの適用範囲を制限したり、中絶手術の訓練を受けた医療助手や助産師ではなく、免許を持つ医師のみに中絶治療を限定することで妊産婦の死亡率がそれぞれ29%、51%も上昇することが明らかにされています。

さらに、ロー判決後の中絶治療を取り巻く環境下で医療に従事することへの負担から、医療従事者にシフトが起きています。より厳しい中絶に関する法律をもつ州では、生殖医療に携わる臨床医が流出し、母子保健センターや婦人科病院が1つもない郡が多く発生するという、産科医療の砂漠化が最も多く発生しています。予期に違わず、健康と医療におけるこうした影響は、疎外されたコミュニティの中でも、黒人女性と先住民女性において、最も深刻です。

妊婦や妊婦になる予定の人々の健康への脅威を超えて、出産奨励文化は、不妊問題に直面している人々にも好ましくない影響を及ぼします。不妊症への支援的な社会構造を創出する政策と比較し、出産奨励主義は、不妊症の人々に対する偏見と恥の感情を増幅させるだけでなく、うつ病、不安症、そして、パートナーによる虐待の発生率の上昇と関連しています。

同様に、出産奨励政策が、同性カップル、シングルペアレント、未婚カップルなど、「非伝統的な」家族による出産や子育てを奨励することはほぼありません。実際、出産奨励主義の支持者の多くは、伝統的な家族構造を善とし、そこから外れるいかなる人も差別する政策に賛成票を投じています。

結局のところ、出産奨励主義の政策が持続的に出生率を上昇させることはありません。なぜなら、男女平等が進むにつれ、人々の妊娠・出産に関する目標が、出産奨励主義が描く結果から乖離しつつあるからです。米国では、初産時の平均年齢は、1970年の21.4歳から、2000年には24.9歳、2011年には25.6歳、2021年には27.3歳と、着実に上昇しています。

この傾向は、妊娠・出産に関する選択肢の増加と、特に、1960年に導入された経口避妊薬が大きく関係しています。1970年代初頭には、州が経口避妊薬の購入可能年齢を18歳に引き下げたことや未婚者の権利を拡大したことから、21歳未満での避妊薬の使用が大幅に増加しました。それに続き、初婚年齢が上昇し、法学、医学、歯学、経営学などの専門教育課程の全てにおいて女子学生が増加しました。過去50年の間に、女性は教育によって自立を獲得し、雇用と経済的安定を確保し、子供を産む前に個人的な目標を達成することから得られる利益をますます認識するようになりました。その結果、いくつかの分野における男女格差の縮小は大きく進み、現在では、女性の大学卒業率は男性を上回り、米国の労働力のほぼ半分を占めるにまで至っています。女性を生殖能力と人口増加の道具に貶めることで、出産奨励主義は男女平等に向けた進歩の妨げとなります。

生殖の権利と男女平等への挑戦的な取り組みにとって、しかし2022年6月のロー判決失効は、最悪の事態ではありませんでした。2024年の米国大統領選挙年における出産奨励主義のレトリックの増幅は、生殖保健とジェンダー機会とエンパワーメントの進歩をさらに後退させる計画を反映しており、不気味なほどに『侍女の物語』を彷彿とさせる軌道を描いています

出産奨励主義を奨励している人々は、自国の経済的な持続可能性を考慮しているとは思われず、出産奨励主義の巻き添えとなる、特に疎外された人々の健康への影響と医療アクセスが制限されることを認識する必要があります。

人々の妊娠・出産に関する目標が変化するにつれて、政府による強制的な出産奨励主義に断固として反対し、包括的な生殖主権とジェンダー平等を支援する政策を提唱することが不可欠だと考えます。

出典:““Blessed Be the Fruit” – The Contemporary Rise of Pronatalism”, Rasadokht Forati, Deborah Bartz, October 26, 2024, New England Journal of Medicine, doi:10.1056/NEJMp2410208, https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2410208

ソフィアウッズ・インスティテュートが思うこと

わたし個人的には、非常に残念な大統領選の結果でした。筆者の懸念が現実とならない社会になって欲しいと願うものの、その道のりは険しくなりそうです。

筆者による問題提起によって気がついたことは、「少子化対策」という言葉の裏に女性やマイノリティの尊厳が失われるような思想が隠れていないか、人生に対する自由意志や権利の侵害となるものではないか、そうした視点で、ひとりひとりがちゃんと考えることが、『侍女の物語』のような社会にさせないために必要だということ。

個々人の尊厳と自由意志を守りながら、社会としての人口動態と労働力需要にどう対応していくのが最適なのか、わたしには到底分かりません。でも、複雑に見える問題の解決策は、大抵、非常にシンプルであることが多いので、どこかの天才がその「シンプルな解」に気づく日が早くくることを祈ります。

と、いいつつ、地球環境にとって人類は害でしかない今の状況では、人類はこのまま滅んだほうが良いのではないか、その道筋を人類は単に歩んでいる自然淘汰の過程なのではないかとも考えないではありません。

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