医食同源|薬の代わりに食事を処方する医療が始まっている

2023/07/04/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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医食同源

サイエンス誌『ネイチャー・メディシン』の2023年の29号に「Food as medicine」、つまり「薬としての食品」というタイトルの論文が掲載されていました。

いわゆる、「医食同源」「薬食同源」です。

薬ではなく、食品や食事を処方するという試みが欧米で行われ始め、成果を示していることや、食事を処方する際に課題となるいくつかの点について記載されていました。

ヘルスコーチとしては、非常に興味深い内容でしたので和訳要約し、ところどころにソフィアウッズ・インスティテュートの感想や日本の状況などを補足してお伝えすることにします。

裏付けとなる論文などは最後に参考文献として一覧にしています。ただし、ネイチャーの元の論文内で引用されている研究については、元の論文の索引をご確認ください。

エビデンスの蓄積と導入フレームワークの構築が不可欠

バランスの良い食事が健康をサポートするという考えは、決して新しいものではありません。

しかし、食事あるいは食品を薬の代わりに処方するという医療が行われるためには、食品や食事法に関する効果だけでなく、導入方法についての大規模な研究が必要です。強力なエビデンスの蓄積と導入のフレームワークが、その達成に必要だからです。

研究によって、特定の食品と健康と病気の複雑な相互作用を解明し理解することは、糖尿病、肥満症、その他の代謝性疾患の予防と治療の可能性を広げることにつながります。

この『ネイチャー・メディシン』の号では、心血管代謝系疾患に対して、食事介入に効果があることを、既に複数の研究が裏付けていることが紹介されています。

ハイルブロン(Heilbronn)博士のグループは、時間制限を組み入れたインターミッテント・ファスティングが、カロリー制限や標準的な糖尿病治療よりも、食後血糖値を大きく改善させことを報告しています。つまりこれは、II型糖尿病のリスクをもつ成人にとって、薬よりもファスティングと食事の時間を調整することの方が有益となり得ることを示したものです。(ご参考まで『インターミッテント・ファスティングの正しいやり方』もご覧ください。)

ラパポート(Rappaport)博士のグループは、被験者の臨床検査結果と遺伝情報に基づき、個別化した栄養カウンセリングを含むライフスタイル・コーチングを処方する効果を調査しています。結果、正常な代謝の遺伝型を有している被験者よりも、代謝の遺伝型に変異を有している被験者において、より大きな改善がみられました。つまりこれは、肥満症の治療として、個別化した栄養指導にヘルスコーチングを用いることに潜在的な効果があることを意味しています。(ご参考まで『人類にとって唯一ベストな食事法はどれだ?』もご覧ください。)

欧米における医食同源の取り組み

欧米では、既に、医食同源の取り組み、つまり、薬の代わりに食品や食事の処方箋の発行を実現するための取り組みが始められています。

例えば、2022年9月、バイデン政権は、多くのNPOと企業とのコラボレーションを通して、次のイニシアティブを発表しています。

  • 健康的な食品の入手を容易にし、費用負担を軽減する
  • 栄養と健康の結びつきの更なる明確化
  • 消費者が健康的な食品を選択する上で必要な知識の提供

民間部門と公共部門によって、総額80億ドル(約1兆円超)の投資が公約され保証されています。

例えば、米国国立衛生研究所は、食糧不安を解消する取り組みを支援するために、1億4,000万ドル(約189億円)の助成金プログラムを開発しています。また、ロックフェラー財団と米国心臓協会は、2億5,000万ドル(約337億5,000万円)を「医食同源研究イニシアティブ(Food Is Medicine Research Initiative)」に投じることを誓約しています。

素晴らしいですね。

医食同源を医療に組み入れる方法

食事あるいは食品を薬の代わりに病気治療に用いる医食同源の取り組みには、いくつかの異なる方法が存在しています。

医学的にあつらえた食事

ひとつは、「医学的にあつらえた食事(medically tailored meals)」と呼ばれる方法で、ひとりひとりの医療ニーズに合わせて、栄養士がカスタマイズした食事を処方する方法です。

「医学的にあつらえた食事」を処方することによって、次の効果が示されています。

  • 糖尿病、心疾患、慢性肝疾患の患者の治癒効果の向上
  • 救急外来へ運ばれる回数の減少
  • 結果としての医療費の削減

例えば、遺伝子型や共生細菌の構成などによる、ひとりひとりの患者の特性に応じて食事をあつらえることができると考えられています。標準化された研究食を食べた後の、血中脂質や血糖値に影響を与える、個人に特有の腸内細菌の構成などによって、個別化するのです。(ご参考まで『人類にとって唯一ベストな食事法はどれだ?』もご覧ください。)

研究成果を実際の診療に反映させることが既に進行中です。

DiRECT研究は、通常の一次医療に12か月間の処方食プログラムを組み入れた集中体重管理を行っています。その結果、プログラムに参加した糖尿病患者のほぼ半数が、寛解したことを報告しています。

また、こうしたデータに基づき、英国の保険医療制度(NHS)は、肥満症とII型糖尿病の患者に低カロリー食を処方するモデルケースを用いて効果の検証に取り組んでいます。

この様に、食事を処方する医食同源の取り組みは、欧米では既に受け入れられつつあり、その兆しとして、糖尿病や心臓・肝臓の慢性疾患を有する人々へ栄養士がデザインした食事や食品を宅配するスタートアップ企業が、複数現れています。

ちなみに統合食養学のヘルスコーチは、ひとりひとりのバイオ個性に沿って、ひとりひとりの健康のために、ひとりひとりにあつらえた食事を提案します。つまり、”医療”としてではありませんが、統合食養学のヘルスコーチは既に、この「あつらえた食事(tailored meals)」をクライアントに対してコーチングしています

医学的にあつらえた食料

二つめは、「医学的にあつらえた食料(medically tailored groceries)」と呼ばれる処方です。これを処方された被験者は、食品の選び方を学ぶ栄養カウンセリングを受けます。

無作為化臨床試験では、DASH(高血圧を改善する食事法)を守ることができるよう、食料品店で実施された栄養カウンセリングによって、被験者の血圧が改善したことが報告されています。

ソフィアウッズ・インスティテュートでも、プライベート・ヘルスコーチング・プログラムの初日に必ず、クライアントさん達に「自然食品の選び方」と「加工食品の選び方」をお伝えしています。

自然食品の処方箋

三つめは、「自然食品の処方箋(produce prescription)」と呼ばれるものです。

この処方箋によって、慢性疾患をもっている人、あるいは、栄養価の高い食品が入手困難な状況にいる人々に果物や野菜が直接、提供されます

しかし、増加する子供の肥満症や糖尿病と戦うためには、果物と野菜を入手しやすくさせるだけでなく、子供達に果物や野菜をもっと食べるよう促す効果のあるプログラムが必要です。

ソフィアウッズ・インスティテュートでは、食材をクライアントさん達に直接お届けすることまではしていませんが、「食品の選び方」の基準を満たしている食品を購入できるお店や生産者さんなどを多数記載したリストをお渡ししています。

リスト上のお店や生産者さん達は、ソフィアウッズ・インスティテュートが個人的に購入したことがあるお店や生産者さん達ですが、ほとんどの購入先とは取引関係がありませんので、そこから購入してもしなくても構いません。「きっかけ」「入口」としてご紹介しています。

医食同源の取り組みを一般化するために

食品や食事は、単に体に栄養を提供するという役割を超えて、病気の予防と改善にとって強力な武器となり得ます。

食事を処方に足るエビデンスの蓄積

広がりつつある医食同源アプローチを、更に広く一般化するためには、特定の食事法が病気予防や改善に効果があることを裏付ける更に強固なエビデンスが必要です。

しかし、食事研究を正しく行うのはとても難しいのです。

栄養学の疫学研究を通して、食事要因と病気との関連性に示唆を発見することはできます。しかし、その関連性を正しく解釈するためには、困難があるのです。それは、多くの食事研究が被験者の自己申告に基づいているということです。

その意味において、ハイルブロン博士のグループが行った無作為化臨床研究は、非常に貴重です。がんや心血管代謝性疾患などの慢性疾患の予防と改善に、特定の食事や食品に効果があるという、客観的で高質なエビデンスの提供となりました。

処方された食事の継続

処方された食事を、長期間、対象者が守り続けることができるよう、行動変容を促す方法を評価する導入研究も必要です。

食事を変えることは、宗教を変えるよりも難しい」と言う言葉もあります。本人にその気がなければ長く続けることはできません。そして本人の「その気」を継続させるのに効果を示しているのがヘルスコーチの存在です。

栄養士ではなく、ヘルスコーチを活用することの効果を検証した研究が複数存在しています。詳しくは『科学に裏付けられたヘルスコーチング』をご確認ください。

食事が処方できる医師の育成

食品や食事の処方は、薬を処方するよりも複雑です。

医食同源のアプローチを採用するか否かの判断や適切なアプローチの選択を医師が正しくできるよう、医師を訓練する必要があります。

既に、私が公認ヘルスコーチ資格を取得した時には、同じクラスに多くの医師や医学生がいらっしゃいました。先見性のある学生や、あるいは、現状の医療に限界を感じた医師の中に、既に、食事について独学を進めている人達がいらっしゃるということではないでしょうか。頼もしいことです。

保険が適用できることが不可欠

食事介入を通常の医療システムに組み入れるためには、国民皆保険制度に食品や食事の処方にかかる包括的な保険適用を含める必要があります。

現在、米国の政府による健康保険制度は、食品や食事の処方箋に適用できますが、限定的な状況においてのみです。ましてや民間の保険がカバーしていることは稀です。

保険の適用範囲を拡大させるためには、食事/食品と病気の予防と改善との関係を裏付ける更に強固なエビデンスが必要です。

ちなみに、日本の国民保険制度では、処方箋で購入できる「食品」が多数ありますが、ほとんどが生薬となるハーブ(ミント、アロエ、サフラン)やスパイス類(山椒、唐辛子、クローブ、シナモン、アニス、ナツメグなど)で、食品と言えるのは胡麻とかハチミツなどでしょうか・・。

「食事」については、「健康保険及び国民健康保険の食事療養標準負担額及び生活療養標準負担額」に、入院時の食事に限り、1日3食合計460円を負担すれば残りの金額が保険で支払われることが記載されています。しかし、自宅で病気予防や改善のために準備する食事への保険適用はありません。

なお、ヘルスコーチングを受ける費用の保険適用の必要性については、2021年6月にニューヨークタイムズ紙が『保険会社はヘルスコーチ費用をカバーするプランを提供すべき時が来た』の中で既に述べています。

食事を処方することを当たり前に

最後に、ネイチャーの執筆者は、次の様に結んでいます。

「食品が心と体の健康に大きな影響をもっていることは議論の余地がありません。健康の中心に食品と食事をおくことを奨励する公共と民間のイニシアティブの融合によって、病気予防と改善への食品と食事の効果を検証する臨床研究に取り組むべき時は満ちています。患者も医師も保険会社も当たり前の様に医薬品を処方することを受け入れています。同様に、食事を処方することもまた、選択肢となるべきです。」

ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス

医師による食事を処方することが、法的にも保険の枠組み的にも可能になれば、未病段階で、あるいは慢性疾患になる前に改善できる可能性が高くなります。国の医療費負担も減り、病気に苦しむ人も減っていくはずです。医薬品の価格や医療費に比べたら、食品の価格なんてわずかなものではないでしょうか。

ただ、このネイチャー・メディシンの記事の執筆者も述べているように、医師による食事の処方が法的に可能になったとしても、処方された食事を長期に渡って継続できるかが大きな課題となるでしょう。その時、役に立つのがヘルスコーチです。ひとりでは取り組むことが難しいと感じることも、日々の不安や心配なことに対応してくれるヘルスコーチの支えがあれば、クリアしていけます。

ニューヨークタイムズ紙が述べているように、ヘルスコーチ費用までも保険適用になれば、更に確実に健康を取り戻せる人がもっと増えていくことでしょう。

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参考文献:

ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング