平安時代の食べられるフレグランス躰身香の丸薬ってご存知ですか?

2024/10/15/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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2021年に執筆したものですが、2024年の大河ドラマ『光る君へ』を受けて更新することにしました。

平安時代の薫香

先日(2021年10月)、フレグランスジャーナル社のセールがあり、セール品の中に何か面白そうなものは無いかと眺めていた時、「平安時代の薫香」が目に留まりました。

以前からお香に興味があったものの、奥が深すぎて気軽に手を出したら沼にはまって迷路から抜け出せなくなってしまう様に感じ、その世界にふれることを敢えて避けてきましたが、「セール品だし、面白くない本だったとしても、まぁ、とっかかりとしてはいいか」と思い、上の写真のお香に関する書籍2冊を購入しました。

『平安時代の薫香』に書かれていたことは、冒頭から私にとって未知の事柄ばかりで、あまりに面白くて読み始めた途端に引き込まれてしまいました。

しかも、わたしにとっては難しい平安時代の言葉の漢字にふりがなが無いので、まず読み方からして、PC の IMEパッド で部首検索しながら読まなくてはならないのですが、それもまた、とても楽しいのです。

源氏物語の様々な場面に出てくる香について、とても詳しく面白く解説しているのも楽しくて飽きません。香に「格」や「家柄」があったこと、香だけで身分が判別できたり、経済状況が判明したり、教養レベルが分かったり、個人が特定できたりと、面白すぎです。

光源氏が特殊な香を使っていたことは高校時代の古典の授業で習い覚えていましたが、貴族社会全体が香をそんな風に使っていたとは知りませんでした。

『光る君へ』の中では、今のところ香に関する描写がない(と記憶していますが・・)のが残念です。

薫衣香(くのえこう)

読み始めて直ぐ、薫香の調合法が書かれている古典の書物を紹介している章「薫集類抄」 に、「薫衣香(くのえこう)」あるいは「躰身香(たいしんこう)」 と呼ばれる、衣類に香りをつける方法が記載されている平安時代の書物があることが紹介されていました。

その書物には、 躰身香として様々な方法が紹介されている他、食べられる丸薬を用いて体臭を変えることで衣類に香りをつけるという方法についても書かれていることを知りました。

躰身香(たいしんこう) の丸薬の効果

その書物には、「薫衣香/躰身香」 の丸薬について、次のように記載されているそうです。

3日かけてその丸薬13丸(1日4丸 × 3日 + 1丸)を一日中、口の中で舐めつづけ、舐め終わる頃には、次のような変化が現われると書かれているとのことです。

  • 舐め終わった時には、口臭が変わったことを自覚
  • 5日で、体臭が変わったことを自覚
  • 10日で、着ている衣類に香が移る
  • 20日で、すれ違う人が香に気づくようになる
  • 25日で、手を洗った時に手から落ちる水滴が香る
  • 1か月で、抱いた子供に香が移るようになる

面白すぎます。

更に、この丸薬には口や体内を浄化するだけでなく、万病を治す効果があるとも書かれているそうです。

五葷(ごくん)/ 五辛(ごしん)

また、五葷(ごくん)あるいは五辛(ごしん)と呼ばれる食品を口にしてはならないとも書かれているとのことです。

五葷(ごくん)あるいは五辛(ごしん)とは、香りの強い次の5つの野菜のことで、仏教では血を汚すとして忌食になっているものです。

つまり、体から好い香りを発したいなら(体臭を好い香りにしたいなら)、これらの食品を避けるようにということです。

  1. にら
  2. にんにく
  3. ねぎ
  4. らっきょう
  5. たまねぎ/のびる/しょうが (← この3つのどれかについては諸説あり)

躰身香の丸薬の作り方

「平安時代の薫香」には材料と作り方も記載してありました。

  • 丁子(ちょうじ)・・・クローブ
  • 藿香(かくこう)
  • 零陵香(れいりょうこう)
  • 青木香(せいもっこう)
  • 甘松香(かんしょうこう)
  • 白芷(びゃくし)
  • 当帰(とうき) 
  • 桂心(けいしん)・・・シナモン
  • 檳榔󠄀子(びんろうじ)
  • 麝香(じゃこう)

これを全て粉末にして、蜂蜜と混ぜて、杵で1,000回ついた後、棗(ナツメ)の種くらいの大きさに丸めて丸薬にします。

ちなみに、薫香を練る際に当時、用いられたのが、蜜と甘葛汁(あまずらじる)だそうですが、蜜はハチミツのことで、当時から養蜂が行われていたんですって!上の丸薬はハチミツを使います。

甘葛汁は、甘茶蔓(あまちゃづる) または野ブドウの汁を煮詰めて作るシロップのことです。高校時代の古典の授業の「枕草子」の中の「夏」の項で、清少納言がかき氷に甘葛汁をかけて食べると美味しいと書いていたのを思い出しました。

躰身香の丸薬の材料は医薬品

シナモンとクローブの粉末はキッチンにあるので、その他の材料を調達するため、まずひとつひとつの材料の読み方を調べることから始め、その後ネットでそれぞれがどんなものなのかを調べてみました。

まもなく、全てが生薬であることが判明したのですが、でもまぁ、言ってみればシナモンとクローブも食用できる生薬なので、その他の生薬も食品として購入できるものがあるかもしれないと思い調べを続けてみました。

様々な情報がネット上にあるものの、今一つ信頼できるか不安でしたので、結局、「薬日本堂」さんにお問い合わせしてみることにしました。「薬日本堂」さんは、私がサラリーマンをしていた時に10年以上もお世話になった漢方薬局です。

すると、直ぐにお返事がメールで送られてきました。

結論から言うと、材料は全て「医薬品」に分類されているもので「食品」ではないので、医者からの処方箋なく販売はできませんということでした。

それぞれの材料の現状

ただ、それぞれの材料について詳しい状況も教えてくださいました。

  • 藿香(かくこう)、白芷(びゃくし)、当帰(とうき)、檳榔󠄀子(びんろうじ)・・・医薬品原料に分類されているため消費者への販売不可
  • 麝香(じゃこう)・・・ワシントン条約によって商業目的の取り扱い禁止(絶滅危惧種に指定されているということ)
  • 青木香(せいもっこう)、零陵香(れいりょうこう)、甘松香(かんしょうこう)・・・メーカーでの取り扱い無し

とのことでした。

なお、青木香(せいもっこう) などがメーカーで取り扱われていない理由は、近年、腎毒性や発がん性が報告されたアリストロキア酸を含んでいる植物だからだそうです。世界中で健康被害が報告されており取り扱いが禁止されているとのことでした。薬日本堂のお客様サービス担当の三上さんが、参考文献のリンクまで送ってくださいました。(参考文献)(三上さん、本当にありがとうございます。)

POST MORTEM

平安時代(12世紀)から、現代(21世紀)までの約1,000年の間に、当然のことながら、植物の世界が大きく変わったことを改めて実感しました。

西洋にもゼラニウムの精油など、口に入れることで体臭をバラの香りに変えることができる植物がありますが、日本の平安時代に使われていた、しかも万病に効くという丸薬を再現して作ることができたら、本当に体から香がしてくるものなのか試してみたいと思ったのですが、現実の壁に挫折しました。(ゼラニウム精油については『ゼラニウム』をご参照ください。)

医薬品原料となっていたり、絶滅危惧種に指定されているのは、本当に効くからですね。

腎毒性や発がん性物質についても、人体は微量な毒を含むと返って免疫力が高まるものなので(春野菜のデトックス効果はまさしく春野菜の微量毒の効果)、生薬として用いられてきたことを考慮しても、100%悪なのではなく、扱い方次第なのではないかと思うのです。

パラケルススの言葉を思い出しました。

全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。
用量が毒か薬かを決める

あ~作りたかったなぁ~!

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