バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
前置き
科学専門誌『ネイチャー』に塩分と免疫機能についての記事が掲載されていました。
WHOは1日5g未満の塩分摂取を勧めているものの、日本人の食事には、今でも1日あたり平均10g以上の塩が使われていて、塩分の摂り過ぎによる健康への問題が、以前から取りざたされています。
ソフィアウッズ・インスティテュートが参加している厚生労働省の『スマートライフプロジェクト』でも、まずは、1日6~8gの塩分摂取を目指すことを応援しています。
また、夏の終わりまでヘルスコーチングをしていたクライアントさんのおひとりがアルドステロン症(腎臓の病気)をお持ちだったこともあり、読んでみることにしました。
塩分による影響は、高血圧だけではなく、思っていたよりもかなり複雑だと感じましたので、和訳要約し、私の感想なども加えながらお伝えします。
JUNE 01, 2021
塩分の高い食事はリスク要因
塩分摂取量と高血圧の増加の関係が50年以上前に初めて指摘されて以来、先進国における高塩食は、死亡率と疾病率を牽引する危険因子であると考えられてきました。
高塩食が他の感染症、例えば、腎盂腎炎や全身性リステリア症などを悪化させることが知られています。更に最近の研究では、高塩食が免疫機能を刺激し、特定の自己免疫疾患を悪化させる可能性があること、脳卒中の損傷を悪化させる可能性のあるミクログリアの炎症性を活性化させることが報告されています。
塩分の高い食事が好ましい場合もある
しかしその一方で、高塩食が皮膚リーシュマニア症などの特定の感染症の改善に効果があること、破骨細胞の活動を促すため歯を動きやすくし歯列矯正を容易にすることも報告されています。
リーシュマニア症|寄生虫のリーシュマニア原虫を持った雌のサシチョウバエに刺されることで感染する。リーシュマニア症には3つの病型がある。内臓リーシュマニア症(最重篤な病型)、皮膚リーシュマニア症(最頻度の病型)、皮膚粘膜リーシュマニア症
塩分は少なすぎてもリスク要因となる
高塩食は、病原体とより効率的に戦うため、がんと戦うため、あるいは、より活発な自己免疫反応を誘発するために、特定の免疫機能を刺激することが報告されています。
例えば、塩分を喪失させる尿細管症によって体内の塩分が不足すると、粘膜感染症にかかりやすくなります。ナトリウムの排出を促すループ利尿薬を腎移植患者が服用すると、尿路感染症の発生率が上昇する傾向にあります。
ナトリウムは、各臓器のミクロ環境ごとに異なる免疫刺激作用あるいは免疫抑制作用をもつと現在は考えられています。ナトリウムが少なくなり過ぎると起こる疾患については『減塩し過ぎると、〇〇するって知っていました?』をご参照ください。
しかし、ナトリウムがいつどこで、免疫刺激的あるいは抑制的に作用するのかに関する十分な説明は、まだ存在していません。
食事中の塩分量と臓器のナトリウム蓄積
理論的には、直接的または間接的に、局所的または全身への影響を通して、高塩食は私たちの臓器に影響を与えています。
しかし、塩分の高い食事が、全ての臓器で同じ様にナトリウムを蓄積させるわけではありません。また、塩分の蓄積の度合いは、遺伝的な影響も受けていると考えられています。
高塩食で塩分が蓄積してしまう臓器
マウスを使った高塩食の前臨床研究で、ナトリウムは
- 皮膚
- 胸腺
- 肝臓
- 脾臓
に蓄積することが示されています。
ナトリウムが内臓の内側の細胞層に蓄積するということは、塩分が、周囲の臓器にも影響を与えていると考えることができます。
高塩食で塩分が減少する臓器
塩分の多い食事をすると、
- 腎臓
- 骨髄
からは、ナトリウムが減少することがマウスを用いた研究で示されています。
ナトリウムが臓器組織に蓄積する仕組み
ナトリウムが臓器組織に蓄積する理由やタイミング、方法などは、まだ完全に明らかにされているわけではありません。しかし、体内のあらゆる組織に存在する糖鎖グリコサミノグリカンが負に帯電し、正に帯電したナトリウムイオンと結合することがナトリウムの蓄積に部分的に関与していることが示されています。
皮膚へのナトリウムの蓄積
マウスを用いた研究では、皮膚にナトリウムが蓄積し高張性(体液よりも電解質濃度が高い=ナトリウム濃度が高い)が起こることが示されています。
普通なら腎臓から尿管そして膀胱へと流れていく尿が、おしっこをするときに膀胱から尿管、腎臓へと逆もどりする現象が腎臓で起こることがあります。皮膚にも腎臓と同じ様な逆流システムが存在していると考えると、皮膚の体液だけに高張性(高ナトリウム蓄積)が起こることが説明できます。
実際、腎臓からナトリウムを排出する尿管の役割を、皮膚ではリンパ管が果たしており、周囲の組織と比較して皮膚のリンパ管のナトリウム含有量が大幅に高いことが、マウスを用いた研究で観察されています。
顔などのお肌がむくみやすいことは私を含め多くの女性が体感していることと思いますが、お肌はそもそもナトリウムを蓄積してしまう臓器だと説明されて納得です。また、リンパ管が排水菅の役割を果たしていることについても、エステサロンなどで行われるリンパドレナージなどで、多くの女性が実感していることではないでしょうか。リンパマッサージはむくみ改善に効果抜群ですものね。
皮膚のナトリウム蓄積から血管を守っている体の仕組み
また、前臨床のマウスを用いた研究では、高塩食は、
- 適塩食と比較して、単球(免疫細胞)を増加し
- 低塩食と比較して、皮膚のマクロファージ(免疫細胞)を増加させます。
このことから、皮膚のマクロファージが、皮膚のリンパ管の逆流を調節しているのではないかと推察されています。
腎臓には、浸透圧ストレスに関与する遺伝子の発現を調節する活性T細胞核因子5(NFAT5)がいます。また、腎臓で細胞を高浸透圧から保護するために極めて多彩で重要な機能を果たしているTonEBPと呼ばれるタンパク質があります。塩分の高い食事をすると、腎臓のNFAT5は、TonEBPを増やし過剰なナトリウムを除去し、高塩食によって誘発される高血圧を予防します。
ヒトでも高塩食(1日約12 g以上の塩化ナトリウムを7〜14日間)が、皮膚にナトリウムイオンとマクロファージ(免疫細胞)の蓄積をもたらしたことから、NFAT5の仕組みがヒトでも機能している可能性が強く示されています。
簡単にまとめると、塩分の高い食事をすると、一時的に皮膚にナトリウムが蓄積され、その結果、増殖したマクロファージのような免疫細胞が皮膚のリンパ管を開き、同時に浸透圧を調整するNFATSがTonEBPを造ってナトリウムの排出を促し、高血圧を予防しているということです。
骨髄でのナトリムの減少
一方で、高塩食で骨髄中のナトリウム濃度が低下する理由は不明です。
二次リンパ管にいる樹状細胞やT細胞などの免疫細胞にナトリウムが浸み込むことで、組織浸透圧が高くなると考えると、骨髄で造血と細胞増殖が適切に行われるためには、免疫細胞の活性化よりもナトリウム濃度を低下させる必要があるのかもしれません。
また、骨髄での造血と細胞増殖に低ナトリム環境が必要だとすれば、がん細胞株の形状を維持する力(弾性)が上昇すると、造血に関与している細胞死受容体の細胞毒性の活性が強化されるその仕組みが適切に働くためには、ナトリウム濃度が適切に低下している必要がありそうです。
個人的な感想ですが、がんの食事療法で成果をあげているゲルソン療法では従来から塩分の排除が行われていますが、その効果がこうした研究からも裏付けられるかもしれませんね。
塩分の高い食事によって、浸透圧を調整する因子NFAT5が増え、ナトリウムを排出するTonEBPタンパク質を造るので、ナトリウムが減少します。しかし、塩分の少ない食事では、NFAT5が増えないので、ナトリウムを排出するTonEBPタンパク質も造られず、結果、ナトリウムが蓄積されていきます。
マウスの実験において、骨髄でNFAT5が現れないようにすると、塩分の少ない食事をしても、ナトリムの蓄積が起こらなかったことが報告されていることから、骨髄のナトリウム調節にNFAT5が関与している可能性があると推察されています。
ただし、この可能性は推察にとどまっているため、骨髄中のナトリウムに関わる調節回路を理解するには、さらなる研究が必要だと研究者は述べています。
腎臓でのナトリウムの減少
普通、腎臓はナトリウムと尿素を使って、腎皮質と髄質の間に浸透勾配(浸透圧の差)を作り、糸球体から水を再吸収します。
高塩食の下では、腎臓はナトリウムの再吸収のスイッチをオフにすることで、余分なナトリウムを排出します。
腎臓は、優先的に尿素(有機浸透圧調節物質)を使用して浸透勾配を作ります。これは「尿素依存保水」と呼ばれるプロセスで、結果、高塩食では、腎髄質で尿素が増加し、ナトリウム濃度が低下します。
その他の臓器組織のナトリム
他の臓器のナトリウム貯蔵のメカニズムは、まだよく判っていません。
食事とは関係なく蓄積するナトリムがある
ナトリウムの臓器蓄積は、食事と関係なく起こることがあります。
バイオリズム
私達のバイオリズム(体内時計)には、大きく3つのリズムがあり、24時間未満の周期のウルトラディアンリズム(縮日リズム)、約24時間の周期のサーカディアンリズム(概日リズム)、そして24時間よりも長い周期のインフラディアンリズム(長日リズム)です。
そして、全身のナトリウム濃度は、性ホルモン周期と同じインフラディアンリズム(長日リズム)であることが判っています。
生理前にムクミやすくなるのは、こうした影響もあるのですね。
感染症と炎症
感染症と炎症は、皮膚にナトリウムの蓄積を引き起こします。しかし、そのメカニズムは明確にされていません。
健常者と比較して、ナトリウム濃度の上昇が観察されている疾患と臓器は次の通りです。
- 多発性硬化症(MS)患者の脳
- びまん性全身性硬化症患者の線維性皮膚
- 脂肪腫患者の皮膚
- 腫瘍性のある脳および乳房
頭や全身の皮膚や乳房が常にむくんでいるようなら上記の病気の検査をしてもらうと良いかもしれませんね。
水分蒸発(解剖学的要因)
呼吸による気道の水分の蒸発によって、気道内の粘膜表面の液体が常に高張状態(ナトリウムの多い状態)であることが示されています。このことから、肺胞にいるマクロファージは、高ナトリウム環境下での活動に順応していると考えられています。
免疫細胞は状況ごとにナトリウムに対する挙動を変える
免疫細胞には、高ナトリウム環境に順応できる能力をもつものがいる一方で、高塩分濃度が免疫細胞の機能に大きな影響を与えます。
高塩分濃度の環境下の免疫細胞
具体的には高い塩分濃度の環境は、
- マクロファージが炎症を誘発する活動を活性化し、炎症を抑える力を抑制します。
- 炎症性サイトカインのIL-17を産生して細胞外増殖性の細菌を排除するCD4+T細胞(Th17)の発生に有利に働きますが、自己免疫疾患を予防する制御性T細胞の免疫抑制活性を阻害します。
ナトリウムの増加はマクロファージによる炎症活性を高めるだけでなく、抗菌活性も高めます。
適塩下の免疫細胞
一方、適塩下では、炎症性の環境ではないので、抗原に晒されたことの無いナイーブT細胞や記憶をもつメモリーT細胞は、寄生虫などの排除を誘導するTh2細胞に分化します。しかし、細菌を排除するTh17細胞の発生は抑制されます。
この様に、ナトリウムのT細胞への影響は、状況によって変わることが発見されています。
ナトリウムによって誘発されるT細胞の様々な反応は、浸透圧の調整因子NFAT5および/または浸透圧保護物質(血清・糖質コルチコイド調節キナーゼ1)が関与していると考えられていますが、こうした多様なT細胞の反応を駆動する分子基盤について理解するためには、更なる調査が必要です。
高塩食が与える腸内細菌への影響
腸内細菌とその代謝物がどのように宿主に影響を与え、健康や病気に寄与しているのかは、近年、広く理解され始めました。今では、腸内細菌叢は、宿主の生理機能に影響を及ぼしたり、特定のミクロ環境や離れた標的器官に影響を与える物質を産生する、内分泌器官だと考えられるようになりました。
既に、高脂肪と高糖質が腸内細菌へ与える影響については広く研究されています。
一方で、高塩分の影響については、最近になって報告されるようになったばかりです。
塩分量の多い食事が腸内細菌のバランスを崩し、善玉菌が造る有益な代謝物の量を減少させ、善玉菌ではない他の菌が作る異なる代謝物が腸粘膜から吸収されることで、腸の免疫恒常性が影響を受け、その結果、特定の炎症性疾患、自己免疫疾患、および循環器疾患の状態が変化し、その影響が宿主へ返ってくると考えられています。
腸内細菌の数と顔ぶれ
高脂肪食は、腸内細菌の組成バランス(顔ぶれ)に大きな変化をもたらすことが判っています。一方で、高塩食は、腸内細菌の数を大きく減らしてしまうことが、マウスの研究によって報告されています。
特にラクトバチルス属(乳酸菌属)の菌を激減させます。乳酸菌属だけでなく、他の多くの様々な種類の共生細菌も減らし、一方でパラサテレラ属などの細菌を増加させることが報告されています。
つまり、高塩食は、腸内細菌の数を減らすだけでなく、顔ぶれも大きく変化させてしまうのです。
高塩食が炎症性疾患を起こす仕組み
高塩食を与えたマウスでは、
- 収縮期血圧(上の血圧)
- 自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の臨床症状(麻痺スコア)
- 腸・脾臓・脊髄のTh17細胞の発現頻度
の増加が観察されました。
Th17細胞(免疫細胞)は、自己免疫疾患において極めて重要な役割を果たしている他、高血圧にも関わっています。
乳酸菌属は、疾患予防に重要な役割をもつインドール代謝物を必須アミノ酸トリプトファンから造ります。しかし塩分の高い食事は乳酸菌属を減らしてしまうため、体内のインドール代謝物が減少します。
インドール-3乳酸(インドール代謝物)は、Th17細胞の分化を阻害することから、抗炎症剤(Th17阻害剤)として作用すると考えられているものです。
乳酸菌のプロビオティクス治療を受けたマウスでは、糞便中のインドール3代謝物が増加し
- Th17細胞の数
- 収縮期血圧(上の血圧)
- 自己免疫疾患の症状
が減少したことが報告されています。
ヒトを対象とした研究では、治療歴のない高血圧症の患者に、塩分摂取を適切に減らしてもらうと、血中の短鎖脂肪酸が増加することが観察されています。短鎖脂肪酸は腸内細菌が造る物質で、血圧と動脈硬化の改善に関与しています。
高塩食を与えられた別のマウスの研究でも、高塩食は腸内の乳酸菌属だけでなく、短鎖脂肪酸の酪酸も減少させ、大腸炎を加速させることが示されています。
高塩食の内分泌系への影響
高塩食は、腸内細菌が造る代謝物を変えることで免疫反応を変化させ炎症性疾患を起こすだけでなく、内分泌系にも影響を与えています。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のホルモン
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のホルモンは、免疫調節作用を持っています。例えば、
- アンジオテンシンIIは、がんと闘うナチュラルキラー(NK)細胞の細胞毒性を活性化させたり、単球と好中球の挙動(走化性)やDC細胞とTh細胞の機能を強化することが報告されています。
- アルドステロンは、炎症性マクロファージの活性化を促進し、活性酸素種(ROS)の産生を増やし、Th17細胞の極性化(分化)を促し、CD8+T細胞の活性化を促します。また、好中球の脱顆粒とミエロペルオキシダーゼ(細胞内殺菌酵素)の放出を刺激します。
適切に分泌されれば免疫力アップとなりますが、多くなり過ぎると炎症作用を起こすことを意味します。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のホルモンは、血圧や腎臓の循環血液量の調節にも関与しています。高塩食によって減少し、腎臓に余分なナトリウムの排出を促します。
塩分の高い食事をすると、アルドステロンの前駆体であるコルチコステロンは、アルドステロンにならず、肝臓でケトン体の生成を促し、尿素の生成を促進します。尿素は腎臓で浸透圧の勾配を作るために必要な物質で、水分を組織に維持し余分なナトリウムを排出するために使われます。そのためアルドステロンの濃度が低下すると考えられています。
高塩食でアルドステロン濃度が低下するのなら、塩分の高い食事によって、アルドステロン症などによる免疫機能への影響を低下させることができるのではないかと考えられますが、この影響はまだ検証されていません。
例えば、高塩食は、アンジオテンシン、アルドステロン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)などの炎症性ホルモンの濃度を低下させることができると考えられるものの、その影響は、そこに居合わせた免疫細胞の型ごとに異なる特定の生理学的プロセスによって異なることが報告されており、結果、疾患への影響も同様ではない可能性があるのです。
東洋医学では、五行説に添って「腎機能に不調を抱えていると塩味を好む様になる」と考えられてきましたが、もしかしたらこうした仕組みが裏にあるのかもしれないと、ふと、思いました。やはり東洋医学恐るべしです。
糖質コルチコイドの影響は免疫細胞ごとに異なる
糖質コルチコイドは副腎皮質ホルモンの一種で、浸透圧の保護作用と抗炎症作用をもっていますが、マクロファージや好中球が主に起こす免疫反応に対しては、異なる影響力を示します。
例えば、好中球による食作用(病原体除去)は阻害しますが、単核食細胞による食作用(例:死んだ好中球の除去)は促し、マクロファージによる細菌の貪食も邪魔しません。
塩分の高い食事で、糖質コルチコイドは増加します。
糖質コルチコイドは、浸透圧を調整する遺伝子NFAT5の発現を腎臓で増加させます。高塩食でしばしばNFAT5の発現の増加が見られるのは、少なくとも部分的には高糖質コルチコイドによる可能性があると推測されます。
もしそうであれば、ナトリウムが蓄積しない腎臓のような臓器で、増えるはずのないNFAT5が増加する理由を説明できるかもしれないと研究者は述べています。
腎盂腎炎の予防法と治療法は異なる
尿路細菌感染症は、日常的に頻繁に発生している疾患です。中でも、上行性尿路感染症は、生命を脅かす腎臓感染症である腎盂腎炎を引き起こすことがあります。
好中球(免疫細胞)は、尿路病原性大腸菌(UPEC)を貪食し除去する役割を持つ、尿路感染症の抗菌防衛力の要です。マクロファージやDCなどの単核食細胞も、好中球の活性化に重要な役割を果たしています。
塩分の高い食事をしていると、腎臓内の環境が劇的に変化します。
単核食細胞は、腎皮質と髄質で機能が異なるのですが、浸透圧の違いによって差が生じていると考えられています。髄質の単核食細胞は、高ナトリウム環境下で、ヒト移植拒絶反応(免疫反応)において免疫細胞を抗炎症状態に傾倒させ、抗原提示能力を低下させることが報告されています(拒絶反応を緩和)
腎盂腎炎の予防には適塩が有効?
それとは反対に、ナトリウムが浸透圧を調整する遺伝子NFAT5を介して免疫細胞を刺激する可能性があるという一般的な見解に基づいて、ナトリウムイオンが腎髄質に腎内抗菌防御ゾーンを築くことによって腎盂腎炎の予防を強化する可能性が示されています。
これは、浸透圧勾配を阻害する利尿剤で治療されたマウスあるいはNFAT5遺伝子を欠損させたマウスを用いた実験で、マウスの腎盂腎炎が悪化したことが示されたことで、裏付けられています。ただ、実験で使用された利尿剤トルバプタンとデメクロサイクリンは、尿管内の保水を妨害するものなので、これらの薬が腎内の浸透圧勾配に影響を与えたかどうかは検証されていません。
更に、高浸透圧(高いナトリウム濃度)から細胞を保護するためにはNFAT5の発現が必要です。高浸透圧性の髄質環境で、浸透圧を調整する遺伝子NFAT5の発現がないと腎細胞は、細菌に感染しやすくなると考えられます。
つまり、水分を制限することでナトリウムを蓄積し、腎臓の皮質と髄質の浸透圧を上昇させ、腎臓に高ナトリウム領域を作り、 NFAT5の発現を促し、マクロファージによる腎臓の抗菌活性を強化させることで細菌感染予防ができる可能性があると研究者は述べています。
食事は適塩にして、水分もむやみに多く飲めば良いわけではないことが感染予防になるということでしょうか。
腎盂腎炎の治療にはやっぱり水分摂取が有効
高塩食あるいは水分を制限したら、マクロファージによる腎臓の抗菌活性を強化させることができるかもしれませんが、腎盂腎炎の主要な免疫エフェクターは好中球です。
マクロファージとは逆に、高ナトリムの環境では、好中球の抗菌機能は強化されません。従って、腎髄質のナトリウム濃度の上昇は、腎盂腎炎の治療にとって必要な免疫反応を起こさない可能性があります。
特に、水分摂取を制限してナトリウム濃度を上昇させると、腎臓から病原菌の洗い流しができなくなり、逆効果になる可能性の方が大きいことを強調して研究者は述べています。実際、腎盂腎炎では、水分を多く飲むという伝統的な医学的アドバイスは依然として有効であり、この意見は多くの臨床研究によって裏付けられています。
私がドイツで腎盂腎炎に罹った時にも、毎日水を2リットル飲みなさいと医者から言われました。当時、オフィスの仕事机で飲食することや、飲食物を置いておくことさえ、マナー違反だと考えられていた時代でしたが、医者からの免罪符をもって堂々と2リットルの水のボトル(当時はペットではなくガラス瓶)をデスクの上に置いて仕事をしていたことを思い出しました(笑)
整理すると、細菌感染の
- 予防には「適塩を心がけ、水分はむやみに大量に飲まない」ことが大切であるものの、
- 治療には「塩分は控えめに、お水はたくさん飲む」ということと理解しました。
統合食養学もお水をむやみに大量に飲むことは勧めません。コーヒーやお茶やジュースを飲む代わりにお水を飲むことを勧めます。
塩分の高い食事が腎盂腎炎を悪化させる理由
高塩食を与えられたマウスで
- 腎盂腎炎で局所的に
- リステリア菌感染で全身に
腎盂腎炎の主要な免疫エフェクターである好中球の機能の抑制が観察されています。
高塩食を1週間続けたヒトでも好中球の機能の抑制は観察されています。
高塩食による好中球の機能抑制は、次の2つの異なる理由で起こり、腎盂腎炎を悪化させると考えられています。
- 高塩食によってレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系が減少し、腎髄質のナトリウム濃度が低下し、代わりに尿素が蓄積することで起こります。尿素は、細胞骨格のひとつ、アクチンと呼ばれるタンパク質と干渉することで、好中球の機能を阻害します。
- アルドステロンの代わりに合成された糖質コルチコイドが、好中球の機能を直接的に抑制することで起こります。
日本に暮らす私達は適塩を心がけることが大切
高塩食の摂取が、皮膚リーシュマニア症と細菌性腎盂腎炎という2つの感染症で、まったく正反対の免疫反応を起こすことに、尿素と糖質コルチコイドが少なくとも部分的に関わっていることが窺えます。
しかし、アフリカや南米、中東などで暮らしていない限り、日本で暮らす私達がリーシュマニア症に感染する心配は小さく、それよりも尿路感染症にかかるリスクの方が大きいのですから、やはり、減塩あるいは適塩生活を心がけることが好ましいように思いました。
しかし塩分によっても善玉菌が激減するというのは、考えてみれば食品の殺菌に塩を使うので当然のことなのかもしれませんが、少なくとも私は驚きました。
適塩生活のための参考として、
- 『朝と夜どっちなら少し濃い味でも大丈夫?ライフスタイル別お塩との付き合い方』
- 『隠れ塩分を見逃すなっ!上手な減塩法とハーバード大学医学部が公表した減塩クックブック』
- 『あなたの家のお塩はどれ?お塩の個性いろいろ』
- 『減塩し過ぎると○○するって知っていました?』
もご参照ください。
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
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参考文献:
- “Sodium and its manifold impact on our immune system”, Katarzyna Jobin, Dominik N. Müller, Jonathan Jantsch, Christian Kurts, OPINION|,VOLUME 42, ISSUE 6, P469-479, JUNE 01, 2021, DOI:https://doi.org/10.1016/j.it.2021.04.002
- 「リーシュマニア症について」(ファクトシート)、2018年3月 WHO、厚生労働省検疫所
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング