バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学 佐々木敏教授の講義
今年(2016年)1月16日に読売新聞社主催で行われた読売医療サロンで、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学の佐々木敏教授の講義を聴いてまいりました。
様々なお話があった中で、昨年秋(2015年10月26日)に WHO(世界保健機関)の外部団体である国際がん研究機関(IARC: The International Agency for Research on Cancer)によって発表された『IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat(Press Release#240)』(直訳: 『赤肉と加工肉の摂取について評価』)のお話もありました。
WHO(IARC)の発表の対象となった赤肉とは?
IARCの発表の後、「まったく心配する必要はない。今まで通り肉を食べても良い。」という意見や「やっぱり肉は食べない方が良い。」という意見など、両極端な意見が飛び交いました。
そのため、今回は、佐々木先生のご説明を踏まえ、国際がん研究機関(IARC)の発表内容の意味やQ&A情報、その基になっている科学的証拠の読み解き方など、客観的事実をお伝えします。
佐々木先生も「是非多くの人達に教えてあげてください」とおっしゃっていました。
その上で、どう食べるか、食べないかはあなた次第です。
赤肉は4つ足動物の肉のこと
ちなみに、「赤肉」とは、日本人が考える脂肪分の少ない赤身肉のことではないのでご注意ください。
研究対象となった赤肉(レッドミート)とは、哺乳動物の肉と定義されています。牛、豚、羊、やぎ、馬、熊、ウサギなど、4つ足動物の肉のことです。
鶏や鴨や鳩などの鳥類や魚類は、哺乳類ではありませんし、4つ足でもありませんから、今回の研究対象ではありません。ちなみに、鳥類や魚類の肉は白肉(ホワイトミート)と呼ばれます。
IARC の発がん性評価の分類
国際がん研究機関(IARC)は、発がん性の確かさを次の5段階に分類しています。
- グループ1: 発がん性がある
- グループ2A: 恐らく発がん性がある
- グループ2B: 発がん性の恐れがある
- グループ3: 発がん性を分類できない
- グループ4: 恐らく発がん性はない
IARCは発がん性を「確かさ」で分類する
IARCは、食品の発がん性を「確かさ」で評価し分類しています。発がん性の「強さ」ではありません。
例えば、下のグラフをご覧ください。
縦軸は、「がんを起こしたり防いだりする強さ」を表しています。
- 数値が高いほど、がんを起こす強さが強いこと
- 数値がマイナスの場合は、がんを防ぐ強さが強いこと
を示しています。
グラフのひとつひとつの点は、同じ食品に関する個別の研究結果です。
食品Aに関する複数の科学的研究の成果の平均値は 0.55で、標準偏差(バラつき)が±0.16あることを示しています。
食品Bに関する研究の成果の平均値は 1.03で、標準偏差は±1.2です。
つまり、上のグラフからは次のことが判ります。
- がんを起こす「強さ」は、食品Bの方が高い(1.03 > 0.55)
- がんを起こす「確かさ」は、食品Aの方が高い(0.16 < 1.2)
IARCは、発がん性の「確かさ」で分類しますから、食品Aの発がん性の評価分類の方が食品Bよりも高くなります。
赤肉の発がん性分類
今回の発表で国際がん研究機関(IARC)は、赤肉を次の2つのカテゴリーに分類しました。
- 赤肉|グループ 2A
- 赤肉の加工肉|グループ 1
赤肉と加工肉の評価の意味すること
加工肉|グループ1(発がん性がある)
加工肉が分類されたグループ1には、ヒ素やダイオキシンやお酒やタバコも分類されています。
これは、加工肉が、ヒ素やダイオキシンと同じくらい確実にがんを起こすことを意味しています。
しかし、ヒ素やダイオキシンと同じくらいの強さで、がんを起こすことを意味しているのではありません。
赤肉|グループ2A(恐らく発がん性がある)
赤肉が分類されたグループ2A(恐らく発がん性がある)は、疫学研究の蓄積により、次の様な物質や食品などが分類されているグループです。
- がんとの正の相関関係が高い証拠、かつ、強い機構的証拠(strong mechanistic evidence、因果関係に関する証拠)が存在するものの
- しかし、他の要因の影響が全て排除されているわけではない
つまり、がんが、赤肉を食べること以外の原因で起きる可能性は否定できないものの、赤肉を食べる量が多い人ほどがんの発症率が高く、赤肉が原因しているという証拠やそのメカニズムも明らかになっているということを意味しています。
今回の発表の対象となったがんの種類
- 赤肉が原因とみられるがん|主に大腸がん、すい臓がん、前立腺がん
- 加工肉が原因とみられるがん|主に大腸がん、胃がん
どれくらいなら食べても大丈夫なのか
どれくらい食べたらがんを発症させてしまうのでしょうか。どれくらいまでなら大丈夫なのでしょうか。
例えば、ヒ素なら一口で十分です。でも、ソーセージは何本なんでしょうか?
例えば大腸がんの相対的な発症率
上のグラフは、佐々木先生が、2つの疫学研究によるデータを比較できるように統合させて作成したものへ、ソフィアウッズが加筆して作成したものです。グラフ中の「赤身肉」というのは、「赤肉」のことです。
縦軸の「大腸がんの相対的な発症率(相対危険)」は、まったく赤肉や白肉を食べてない人のがん発症率を1.0として、一日あたり何グラム食べると(横軸)、発症率が何倍になるかを示したものです。
このグラフで見ると、一日100gの赤肉を食べている人の大腸がんの発症率は、食べない人の1.25倍ということになります。リスクが25%上昇するということです。
何グラムまでなら大丈夫といえるほどの研究データはない
上でご紹介した様な他にも多くの研究によって発表された結果を総合的に判断し、国際がん研究機関(IARC)は、赤肉と加工肉の摂取量とがんの発症率との関係について、次の様に回答しています。
“赤肉 100g ごとに、大腸がん発症リスクが約 17% 増加する”
“加工肉は 50g ごとに、リスクが約 18%上昇する”
このIARC/WHOによる発表の後、「赤肉は100gまでなら大丈夫」「加工肉も50gまでなら大丈夫」「日本人は毎日それほど食べていないから、今まで通り食べていても大丈夫」と言った発言が目立ちましたが、それは誤りです。まったく科学的な情報を正しく読み取っていない発言です。
これは、赤肉も加工肉も食べたら食べるほどリスクが上昇することを述べているだけで、赤肉なら100gまで大丈夫ということを述べているのではありません。加工肉についても同じです。
食べたら食べただけリスクは上昇しますが、その上昇度合いが、赤肉なら100gごとに17%ジャンプするという意味です。
また、WHOは、何グラムまでなら大丈夫と言えるほどの科学的なデータはまだ無いとも述べています。
白肉(鳥肉・魚肉)ついても、十分な研究が行われていないので、リスクの変化については不明としています。
赤肉と加工肉が発がん性である理由
赤肉と加工肉が発がん性をもってしまう仕組みについても、未だ不明とWHOは発表しています。
ただ、次の要因が原因ではないかとIARCは述べています。
- 赤肉の処理方法や調理方法
- 加工肉の加工過程で使用される食品添加物、例えば、既に発がん性が認められている発色剤の亜硝酸ナトリウムや多環芳香族炭化水素など
多環芳香族炭化水素
EUでは10年ほど前から、米国では3年前から、発がん性物質として使用が規制されている、あるいは全廃されている物質です。
しかし、日本やその他の国々では規制や基準がありません。
昨年、経産省が日本での規制基準を作成するために実施した諸外国の実態調査の結果はこちらです。日本のハムソーセージは、欧米のハムソーセージよりも非常に危険だということではなのでしょうか・・
日本人女性の死因の第一位は大腸がんですし。
赤肉の発がん性を強める調理方法
高温調理と直火調理をIARCは挙げています。
特に、バーベキューや鉄板で焼く方法がヤバイようです。その過程で、発がん性が認められている多環芳香族炭化水素や複素環式芳香族アミンが発生することが理由に挙げられています。
でも、茹でたり、蒸したりする方法については、十分な研究がなされていないので判らないとのことです。
ソフィアウッズ・インスティテュート私見:
個人的には、食品添加物を一切使用せずに家で作ったソーセージを低温調理法(75度で長時間調理)で茹でて食べたら、比較的、大丈夫なんじゃないかと思えました。もちろん、リスクはゼロにはなりません。でも、お肉のもつメリットを得ながら、リスクを相対的に低くすることは可能ではないかと思います。
生肉なら大丈夫なのか?
生肉と発がんリスクについて十分な研究がなされていないので、国際がん研究機関(IARC)は、「何とも言えない」としている一方で、生肉の場合、がん以前に、食中毒などの感染症にかかる危険が高いので要注意としています。
ヴィーガンになればいいのか?
このグラフは、元の研究データを佐々木先生が和訳して見やすく加工してくださっているものへ、ソフィアウッズが加筆して作成したものです。グラフ中の「赤身肉」とは「赤肉」のことです。
IARC/WHOによる発表の後、「私は野菜たくさん食べてるから、がんにはならない」「ベジタリアン/ヴィーガンになれば、がんにはならない」と言う発言も目立ちました。
グラフで観るように、確かに赤肉と加工肉は、発がん性の相対リスクが1倍以上です。そして野菜や果物や魚にはがん予防の効果があることが分ります。
飲酒は発がん性グループ1
お野菜と果物によるがん予防効果をチャラにして余りあるのが飲酒だということもグラフから判ります。ダントツですね。
IARCもアルコールを赤肉やヒ素と同じグループ1に分類していることを鑑みても、ヴィーガンになるだけでは足りないようですね。
もちろん、肉食の酒飲みは完全アウトですが、
ヴィーガンの酒飲みも同じくらいアウト
お肉について大騒ぎする前に、飲酒について考え直した方が、がん予防としては効果的ということではないでしょうか。
飲酒とがんとの関係については、次の記事も参考にしてみてくださいね。
- 『「赤ワインは体に良い」は本当?~フレンチ・パラドックスに異議あり!』
- 『あなたの期待を裏切る赤ワインと乳がんの関係』
- 『Alcohol Lowers Your (Intestinal) Inhibitions(アルコールが腸内免疫力を低下させる)』 – アルコールが腸内菌共生バランス失調あるいは腸内毒素症を起こすことで、様々な病気の原因になっている仕組みを解明した研究
がん予防には運動が最も効果がある
運動に大きながん予防効果があるということも、グラフから判ります。
がん予防という意味では、食事だけでなく、禁酒・禁煙と運動が非常に重要ということではないでしょうか。
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参考文献:
- 『栄養疫学で読み解くぶれない食べ方』、佐々木敏、教授、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学、2016/1/16、読売新聞社主催、読売医療サロン「健康寿命を延ばす食生活」
- “IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat”, 26 October 2015, WHO PRESS RELEASE N° 240, The International Agency for Research on Cancer
- “IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans”, 2006, The International Agency for Research on Cancer, Lyon France
- “Q&A on the carcinogenicity of the consumption of red meat and processed meat”, 26 October 2015, The International Agency for Research on Cancer
- 『化学物質安全対策「諸外国における多環芳香族炭化水素規制に関する動向調査」報告書』、平成 27 年 3 月、平成 26 年度経済産業省委託事業、イー・アール・エム日本株式会社
- “Alcohol Lowers Your (Intestinal) Inhibitions“, Namrata Iyer, Shipra Vaishnava, DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.chom.2016.01.014 |
グラフの元データ
- “Dose-response meta-analysis of poultry intake and colorectal cancer incidence and mortality”, Shi Y, Yu PW, Zeng DZ., Eur J Nutr. 2015 Mar;54(2):243-50. doi: 10.1007/s00394-014-0705-0. Epub 2014 May 1.
- “Red and processed meat intake and risk of colorectal adenomas: a systematic review and meta-analysis of epidemiological studies.”, Aune D, Chan DS, Vieira AR, Navarro Rosenblatt DA, Vieira R, Greenwood DC, Kampman E, Norat T, Cancer Causes Control. 2013 Apr;24(4):611-27. doi: 10.1007/s10552-012-0139-z. Epub 2013 Feb 5.
- “The impact of dietary and lifestyle risk factors on risk of colorectal cancer: a quantitative overview of the epidemiological evidence”, Huxley RR, Ansary-Moghaddam A, Clifton P, Czernichow S, Parr CL, Woodward M, Int J Cancer. 2009 Jul 1;125(1):171-80. doi: 10.1002/ijc.24343.
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング