バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
免疫細胞と腸内細菌と食事の関係
権威あるサイエンス専門誌『セル(細胞)』に腸内にいる免疫細胞の一種マクロファージと、腸内環境に関する論文が掲載されていました。
その論文には、次のように書かれていました。
食事と腸内の共生細菌に焦点を当て、
大腸と小腸のマクロファージの機能性(挙動)への影響の違いを明確にすること、
理想的には特定の腸内マクロファージ集団および/または
その機能に働きかけるユニークな治療法につながることを期待している
元の論文はとても長いのですが、統合食養学のヘルスコーチとして、腸内の免疫細胞と共生細菌と食事との関係には大きな関心をもっているため、食事に関する部分だけ、超簡単にした内容を小腸編と大腸編に分けて皆さんにお伝えします。
腸内環境の改善のための食事を考える上で、少なくとも現在判っていることを整理しました。
元の論文には、腸内の免疫細胞(マクロファージ)の働きについて詳しくまとめられています。全文にご関心のある方は、最後に参考文献としてリンクを掲載していますので、ご参照ください。
大腸と小腸の環境は全然違う
小腸と大腸は、長さや形状が大きく異なっているのに、それぞれに生息しているマクロファージの特徴や機能について、直接比較した研究は、あまり多くありません。
少ない研究の中から判ったことは、哺乳類の腸内細菌の環境は、小腸から大腸へと腸管に沿って大きく変化していくということです。
特に次の要素は、小腸から大腸に向かって増加していきます。
- 腸内細菌の量
- 腸粘膜の厚さ
- 酸性度
免疫細胞の行動に食事が大きく影響
消化管は、食物消化・吸収の中心です。ヒトが食品から直接吸収できない栄養素を腸内細菌が分解してくれています。
そして、免疫細胞の6割以上が腸内に棲んでいます。
腸内細菌と食事の関係は、ここ数年の世の中の注目のテーマですが、腸内の免疫細胞にとっても、食事は非常に重要な役割を果たしています。
腸内の免疫細胞の中には、腸の内容物から直接的に栄養を吸収できるものもいるかもしれませんが、多くは、腸粘膜(粘膜固有層)を通して栄養を吸収しています。
免疫細胞の栄養に影響
免疫細胞が活用できる腸内の栄養の量は、次の要因によって変わります。
- あなたの食事の量
- 腸の代謝・処理・分解能力
- 体内吸収力と吸収の速さ
免疫細胞の機能に影響
そして、免疫細胞の機能の善し悪しは、次の要因によって大きく影響を受けます。
- 食事から取り込まれた栄養素の質と量
- 腸内細菌による代謝物(二次代謝産物)
- 腸内細菌自体
免疫細胞が腸内の特定場所に集中しているのは、特定の栄養素がそこに集中しているからだと考えられています。
大腸の特性と役割
大腸には、腸内細菌が密集しています。
大腸の腸内細菌たちは、次の役割を担い、あなたとの共生関係を維持しています。
- 小腸で吸収されなかった栄養素の分解と吸収
- 水分吸収
水分吸収は、主に大腸の中央付近で行われます。
大腸内の免疫力に大きな影響を与える主要な栄養素は次の2つです。
- 胆汁酸
- 腸内細菌が造る短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸(酪酸)の役割
大腸の免疫細胞だけが短鎖脂肪酸を利用します。
短鎖脂肪酸は、大腸の腸内細菌が難消化性食物繊維を発酵させることによって造られ、免疫細胞が正常に機能するための重要な影響力を持っています。
大腸の上部と体を横断する箇所に、短鎖脂肪酸が最も多く存在しています。
大腸の腸内細菌が造る短鎖脂肪酸のひとつ酪酸は、あなたと腸内細菌と栄養素の間のコミュニケーションの統合に重要な役割を果たしています。
炎症性疾患予防
酪酸は、高脂血症を改善する作用をもっている腸内の免疫細胞の受容体(GPR109a受容体)を活性化して、炎症を抑制するサイトカイン(IL-10)を造ります。
実際、短鎖脂肪酸の低下が、いくつかの炎症性疾患に関連していることが判明しています。
そのため、なんらかの炎症性疾患がある人は、大腸に課題があるかもしれません。
抗生物質の影響
抗生物質の投与によって、次の問題が次々と大腸内に起こることが明らかにされています。
- 抗生物質の投与
↓
- 腸内細菌の死滅
- 短鎖脂肪酸の欠乏
- 大腸内の免疫細胞(マクロファージ)の過活動
- 炎症性細胞(Th1細胞)の反応が増加
- 長期に渡る腸内毒素症(腸内細菌叢の崩壊による疾患)の発生
一方で、抗生物質の投与に併せて酪酸を摂取すると、免疫機能障害が予防されたことが報告されています。
抗菌・抗がん作用
酪酸が、腫瘍の増殖に関係している酵素(ヒストン脱アセチル化酵素3、HDAC3)を阻害し、腸内の免疫細胞(マクロファージ)に抗菌・抗がん作用を学習させることが報告されています。
食事に短鎖脂肪酸を加えることで、特定の疾患に関係しているマクロファージの挙動を調節し、疾患治療となる可能性があると研究者は述べています。
なんらかのがんや腫瘍がある人の大腸内は、腸内毒素症になっていることが多くの研究によって報告されています。
短鎖脂肪酸を増やすには
バターやチーズやギーなどの乳脂肪には、短鎖脂肪酸が多く含まれています。しかし、乳脂肪の短鎖脂肪酸が酪酸のような働きをするかは、まだ判っていません。
また、酪酸のサプリメントなどもありますが、もっと安全で確実な方法は、あなたの腸内細菌に造ってもらうことです。
腸内細菌は、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)から短鎖脂肪酸を造ります。
水溶性食物繊維が多い食品
海藻類(のり、わかめ、海藻)はどれも大量に水溶性食物繊維を含んでいます。そのため、海藻類以外で、水溶性食物繊維を多く含む食品を一覧にしました。
これらの食品を食事に加えることで、あなたの腸内細菌が酪酸を造ってくれることが期待できます。
胆汁酸の役割
大腸内のもう1つの主要なプレーヤーは、コレステロールを原料に肝臓から分泌され、脂肪の消化に使用される胆汁酸です。
体内の胆汁酸は一定量に保たれるように調整されています。
排便などによって約5%の胆汁酸が失われ、その度に新しい胆汁酸が造られ補充されます。具体的には、肝臓と回腸にあるFXR受容体(ファルネソイド受容体X)が、胆汁酸量を感知し、胆汁酸の大半は回腸の上皮細胞で再吸収され、門脈を通って肝臓に戻され、胆汁酸の腸肝循環の恒常性を保っています。
二次胆汁酸へ変換
胆汁酸の形成には、腸内細菌の存在が不可欠であることが判っています。
胆汁酸は、腸内細菌によって一次胆汁酸から二次胆汁酸に変換されます。胆汁酸変換に関与している腸内細菌も特定されています。
二次胆汁酸は適度な量の時は炎症を抑えるシグナルとして働きます。
しかし、過剰になると大腸がんを誘発すると考えられています。具体的には、二次胆汁酸のひとつデオキシコール酸が多くなるほど、腸内のマクロファージは炎症を誘発するようになります。
炎症性腸疾患との関係
炎症性腸疾患(IBD)患者を対象に胆汁酸による影響の調査によると、胆汁酸の量によって消化管の免疫細胞の活動が異なることが示唆されています。
例えば、大腸内の胆汁酸が過剰になると、下痢性の症状が起こります。
また、次の特徴があることも報告されています。
- クローン病患者の胆汁酸の貯蔵量は、健常者と比較し少ない
- 潰瘍性大腸炎患者の胆汁酸量は、健常者と変わらない
- 健常者のものと比較し、クローン病と潰瘍性大腸炎の患者の糞便と新鮮な胆汁酸の中の一次非抱合型胆汁酸の割合が大きい
炎症が起こった結果として胆汁酸量が変化したのか、または、胆汁酸量が変化したことで疾患が起こったのかの因果関係はまだ判っていません。ただ、免疫細胞の異常な挙動と関係していると考えられています。
大腸のFXR受容体
クローン病患者ではFXR受容体が減少していることが報告されています。
FXR受容体は、胆汁酸を感知して、腸内細菌と宿主の免疫機能と代謝機能を結びつける役割を担っています。細菌やウイルスからの防御で働く免疫細胞(単球)の自然免疫分子(TLR 9)によってコントロールされています。
FXR受容体を欠損させたマウスでは、大腸の恒常性が異常になり、大腸炎の進行が加速することが示されています。
大腸のTGR5受容体
TGR5受容体は、免疫細胞(マクロファージ)の上に発現する二次胆汁酸受容体です。大腸に最も多く存在しています。胆汁酸を介して腸内のマクロファージ(免疫細胞)の様々な異なる機能に関与していると考えられています。
TGR5受容体を活性化すると、マクロファージに抗炎症性サイトカイン(IL-10)を産生するようにシフトさせることができます。研究者は、胆汁酸は、暴走した免疫細胞(マクロファージ)を鎮めるなど免疫機能の調節に関与していると述べています。
胆汁酸を健康に保つには
食事と胆汁酸の詳しい関係は、次の記事をご参照ください。
ヒトでの代表的な2つの胆汁酸は、コール酸とケノデオキシコール酸です。肝臓で生合成された胆汁酸は、グリシンやタウリンと結び付いている場合が多く、コール酸とグリシンとが結び付いたグリココール酸と、コール酸とタウリンとが結び付いたタウロコール酸がヒトの胆汁酸の約8割を占めています。
細胞研究ではありますが、TGR5受容体と類似した挙動をするリトコール酸とタウリンの抱合体のタウロリトコール酸は、リポ多糖と一緒に用いることで、炎症誘発性のマクロファージの挙動を修正することができたと報告されています。
そのため、次の成分を多く含む食品を食べることで、胆汁酸を健康に維持することができるのではないかと考えます。
タウリンの多い食品
タウリンは、貝類、甲殻類、軟体類、魚の血合いなどに多く含まれています。
タウリンは水溶性なので、茹でたりせずに生のまま食べるか、焼く、蒸す、あるいは、汁ごと食べられるお料理にすることをお勧めします。
グリシンの多い食品
グリシンは、アミノ酸の一種です。
こちらも海藻や魚介類に多く含まれていますね。
リポ多糖の多い食品
リポ多糖は、ヌメリのある野菜に多く含まれています。海藻類や明日葉、モロヘイヤ、オクラ、キノコ類などに多く含まれています。
東洋医学(中医学)では、ヌメリのある野菜は「腎」を健康に保つと考えられているため、上の画像ではそれをタイトルしていますが、リポ多糖の多い食品と同じです。
大腸と小腸に良い共通食材は?
「大腸編」と併せてみると、大腸にも小腸にも良い食品が見えてきます
海藻類と魚介類
和食って腸の健康に良いものだったのですね!
腸内環境を整えるのは、発酵食品だけではないということです。
ご自分の抱える不調が、大腸由来なのか、小腸由来なのか、それによって積極的に食べた方が良い食品が異なることなど理解していただけたなら嬉しいです。
統合食養学は、ミクロ栄養素(サプリメント)ではなく、食品を食べること、食事をすることが重要だと考える栄養学です。是非、今回ご紹介した食品をお食事の中に増やす工夫をしてくださいね。
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参考文献
- “Regional specialization of macrophages along the gastrointestinal tract”, Dorothée L. Berthold, Kelsey D.J. Jones, Irina A. Udalova, REVIEW| VOLUME 42, ISSUE 9, P795-806, SEPTEMBER 01, 2021, DOI:https://doi.org/10.1016/j.it.2021.07.006
- 「タウリンを多く含む食材とそのレシピ」大正製薬商品情報サイト内、「コレステロールを下げる100のコツ」辻啓介主婦の友社 (2004/1/1)
- 一般社団法人大日本水産会魚食普及推進センター 「お魚便利帳」
- 「生体におけるタウリンの役割」福井県立大学生物資源学部 教授 村上茂、一般財団法人食品分析開発センターSUNATEC
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング