ピロリ菌は病原菌ではなく共生細菌(1)ピロリ菌は食道がんと認知症を予防する

2015/06/16/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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この記事を初めて執筆したのは、2015年6月のことです。

その後、ピロリ菌に関する新しい研究成果が発表されるたびに追記を繰り返しています。

ピロリ菌を病原菌だと考えてきたあなたの認識が少し変わるかもしれません。

ピロリ菌はWHO指定の1級発がん性微生物

ピロリ菌が発見されたのは、1979年のことです。胃潰瘍とピロリ菌の因果関係が証明され、その後、胃がんとの因果関係も証明されました。

1994年には、WHOはピロリ菌を「1級発がん性微生物(Class I Carcinogen)」に指定しています。

ピロリ菌を発見し、胃潰瘍との因果関係を証明したロビン・ワレン博士とバリー・マーシャル博士は、その功績によって2005年にノーベル賞(生理学)を受賞されています。

日本でもピロリ菌の除菌は、今や保険適用ですし、私が住んでいる目黒区では、無料で除菌してくれます。ピロリ菌を撃退することが当たり前の時代です。

マーチン・ブレイザー博士の衝撃的な告白

そんな中、2014年、母校コロラド大学ボルダー校からマイクロバイオーム(共生細菌のDNA)についての特別コースを受講する機会があり、修了証までいただきました。

そのコースの中で推薦図書として挙げられていた本をやっとで、2015年2月に入手することができ、読んでみました。

それは、ピロリ菌と胃がんの因果関係を証明することに貢献し、その後、ピロリ菌除菌の手法確立のため、ご自身を最初の実験台にした、マーチン・ブレイザー博士のご著書『Missing Microbes(仮訳:失われた細菌)』です(冒頭の写真)。

そこには衝撃的な告白が描かれていました。

なお、ブレイザー博士のご著書以外で、この記事の執筆の裏付けとして用いた情報は、参考文献として最後に一覧にしています。

ピロリ菌を除菌すると食道がんリスクが上昇する

結論から言うと、次のとおりです。

ピロリ菌の除菌によって、胃がんになるリスクは低減できるが、
食道がんになるリスクは上昇してしまう

ブレイザー博士ご本人は、ピロリ菌と胃がんの関係を説き、除菌方法まで指南してしまった責任から、WHOや医学界に向けて、その危険性を訴え続けているそうですが、なかなか、ノーベル賞まで受賞してしまった「ピロリ菌悪玉説」や「ピロリ菌除菌の常識」を上書きしてもらえずに、苦しんでいらっしゃいます。

日本消化器病学会は、ピロリ菌除菌が胃酸過多や逆流性食道炎を引き起こす原因のひとつであることをホームページに記載しています。

胃酸の逆流を放置すると食道がんリスクが高くなります。

また、世界に先駆けて、ピロリ菌除菌をしたブレイザー博士自身も、今現在、逆流性食道炎に苦しんでいるとのことです。

ピロリ菌が食道がんを抑制する仕組み

胃がんを発症させるピロリ菌が、なぜ、食道がんの抑制になるのでしょうか?

ピロリ菌と胃がんの関係を発見した1990年代当時には判らなかったことが、最近になって判明し、ブレイザー博士ご本人がご著書の中で詳しく説明してくださっています。

ここでは簡単に、お伝えしたいと思います。

1. ピロリ菌は免疫機能の一部

食べ過ぎたり、高ストレスに晒されたりした時に起きるマイルドな胃痛や胸やけは、ピロリ菌が起こしているものです。

(ただし、食後、胃にものすごい痛みを伴う胸やけ等は、胆石の可能性があるので、特に、40代以上で肥満傾向にある人は検査してもらってくださいね。)

でも、このマイルドな胃痛は決して悪いサインではないと、ブレイザー博士はおっしゃっています。

そもそも、こうしたマイルドな胃痛を異常だと認識してきた、ご自身を含めた従来の医学が誤っていると、ブレイザー博士は指摘しています。

ピロリ菌が起こすマイルドな胃痛は、免疫細胞に胃の状態が芳しくないことを伝えるメッセージだったのです。

ピロリ菌からのメッセージを受け取ることで、免疫細胞は、胃液の量を増やしたり減らしたりして、塩酸よりも強い胃液が胃粘膜をやぶり胃壁を傷つけることを防止していることが明らかにされています。

2. マイルドな胃痛が起きた時は

ピロリ菌が起こすマイルドな胃痛が起きた時に、あなたがすべきことは、ストレスを解消し、暴飲暴食などの不摂生を止めることです。

胃薬を飲んで痛みを無理矢理に抑えてしまうことではありません。

3. 胃薬はピロリ菌のメッセージをブロックする

胃薬は、せっかくピロリ菌が免疫細胞に送っているメッセージをブロックしてしまいます

そのため、免疫細胞が正常に反応できなくなり、胃液がコントロールされない状態が放置されることとなります。

そして、胃薬を飲めば痛くなくなるので、あなたは異常事態が継続していることに気がつかないまま、ライフスタイルを改めることもなく暴飲暴食を続けます。

ピロリ菌は、いつまで経っても胃液が調整されないどころか、今まで通りの量の食事やアルコールが胃の中に入ってくるので、マイルドな炎症を起こしてメッセージを送り続けます。あなたは、繰り返し起こる胃痛を食事やアルコールを減らすことなく、胃薬で騙しながら過ごします。

結果、マイルドだった炎症は胃潰瘍となり、それがいずれ、胃がんになって行くのです。

ピロリ菌が胃潰瘍や胃がんの原因になっていることに嘘はありません。

しかし、その理由は想像していたものとはまったく異なるものだとブレイザー博士に気づかされました。

4. 胃がんを起こすのはあなたのエゴ

ピロリ菌は別に胃がんを起こしたくて痛みを発生させていたわけではなく、免疫機能に働きかけ、胃液の分泌を調整しようとしていただけなんです。

なのに、あなたの無頓着さ、生活や食習慣を省みない姿勢、薬への安易な依存が、ピロリ菌に胃がんを起こさせてしまっていたわけです。

いますよね。正しいことを言っているのに、言い方が悪いために煙たがられてしまう人。そしてそのうちに悪者扱いされちゃう人。

ピロリ菌も同じなんじゃないですかね?

胃の危険を教えてくれているのに、その伝え方が悪い(痛み)ために煙たがられて、無視されて、それでもがんばっちゃって、がんばり過ぎちゃって、その結果、危険を起こした犯人みたいに扱われちゃって、本当の原因はあなたなのに、濡れ衣着せられた可哀そうなバカ正直な人みたいじゃないですか?

胃粘膜と胃痛とピロリ菌の相互作用

上述のとおり、ピロリ菌は、胃液の分泌量の調整に関わっているので、ピロリ菌を除菌してしまうと、マイルドな胃痛が起きない代わりに、胃液の分泌も調整されなくなってしまいます

あなたの胃液は、塩酸よりも強い酸でできています。その酸から胃壁を守ってくれているのが胃粘液です。

若いうちは、胃粘液の層(胃粘膜)が十分厚いので、ちょっとくらい、胃液が過剰に分泌されても、マイルドな胃炎くらいですみます。

でも・・・

1. 胃粘膜は加齢と共に薄くなっていく

しかし、胃粘膜は、加齢と共に薄くなっていきます。

薄くなった胃粘膜の層に合わせて胃液を少なく分泌するようピロリ菌は免疫細胞にサインを送っています。

その結果、胃液が少なくなるので、胃粘膜が薄くなり始めた50代以降の人に、胃もたれや消化不良が起きやすくなるのは、そのためです。

薄くなってきた胃粘膜を守るために、ピロリ菌が免疫細胞に働きかけ胃液を少なくしてもらっているのに食べる量や飲む量を変えず、若い時と同じ様に飲食するから、胃もたれが起こるのです。

食事を改めることなく「消化を助けるために」とか言って、胃液の分泌を促す薬を飲めば、胃液が増えるので胃もたれは解消されるかもしれません。でも、胃薬は胃粘膜を厚くしてくれはしません。薄くなったままの胃粘膜に胃液が多く分泌されるのですから、胃潰瘍になる確率を高めているだけの行為です。

2. ピロリ菌を除菌すると胃もたれがおきなくなる

ピロリ菌を除菌すれば、胃粘膜の厚さに合わせて胃液を減らすよう免疫細胞に指示出しする人(ピロリ菌)がいないので、胃液の分泌は減りません。その結果、ピロリ菌を除菌した50代以降の人が、若い時と同じように飲んだり食べたりしても、胃もたれは起きません。

マイルドな胃痛も胃もたれも起きません。胃がんになる可能性もほぼなくなります。

でも、胃粘膜は、確実に加齢とともに薄くなっています

胃もたれも炎症も起きない代りに、減らない胃液によって痛みのないまま胃粘膜がやぶれ、知らない内に胃壁に穴があいていたということが起きます。

3. 余った胃液は食道へ逆流する

余った胃液は、逆流して食道の方へ流れていきます。

ピロリ菌を除菌した50代以降の人に、逆流性食道炎に罹る人が近年、増加しているはこのためです。

逆流性食道炎が慢性的になれば、食道がんになる確率が高まります

なお、逆流性食道炎のための食事については『逆流性食道炎と胃食道逆流症のための食事法』をご確認ください。

胃がんよりも難治な食道がん

米国や欧州人の胃には、ピロリ菌はほぼ皆無です。そして、食道がんで亡くなった米国人の約80%が逆流性食道炎を発症していた60歳以上の人だったと、いう驚愕的な数字があります。

1. 食道がんの5年生存率は40%

日本の公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計’13」によれば、胃がんに罹った人の5年平均生存率は、約70%です。しかし、食道がんは約40%です。

また、食道がんの5年生存率は、全種類のがんの平均よりもすべてのステージで下回っているため、食道がんの方が、胃がんよりもずっとやっかいながんだということが判ります。

ただ、食道がんも、がんがまだ粘膜内に留まっているステージ0期の段階で治療を開始すれば、ほぼ100%完治させることができるそうです。

腸内細菌移植のようにピロリ菌も移植できるのか

ブレイザー博士によれば、ピロリ菌はヒトからヒトにしか感染せず、感染は子供の時にしか起きないとのことです。そのため、大人になってから食事やライフスタイルを変更させても、一度失ったピロリ菌を再び体内に戻すことはほぼ不可能ということです。

大人に感染させようとしても、既に私達の体内外に繁殖している共生細菌(常在菌)によって除外され体外に出て行ってしまうので、定着しないのだそうです。

まさしくブレイザー博士のご著書の題名『Missing Microbes(失われた細菌)』そのものですね。

それでも、ピロリ菌を除菌しますか?

上で説明した通り、ピロリ菌を除菌すると胃酸の量が調整されないので、胃酸遮断薬(PPI)を処方される人が多いそうです。

2003年から2012年までの間に、ピロリ菌除菌を受け胃酸遮断薬を処方された人達を7.6年間追跡調査した結果、胃がん発症リスクが2.4倍だったことが報告されています。

ピロリ菌を除菌した後は、なおさら、胃酸を薬でなんとかするのは危険です。食生活やライフスタイルで調整することを心がける必要があります。

胃酸を抑える薬については『制酸剤の長所と短所』、『胃酸遮断薬の影響と止め方』をご確認ください。

ピロリ菌感染者の約20%は、前癌性胃病変を発症し、約2%が胃がんを発症します。

ピロリ菌感染によるその後の転帰は、宿主の遺伝子、環境、そして感染株の毒性因子間の複雑な相互作用によって決定されることが示されています。

ピロリ菌が放出する細胞毒素関連遺伝子A(CagA)というタンパク質の存在が胃がんの発症に重要な役割を果たし、この因子がピロリ菌を強力な発がん生物にすることが示されました。

中国の北京大学がんセンター研究所によるコホート研究の結果が発表されました。

胃がんの遺伝的リスク要因によって対象者を分類し、胃内視鏡により胃病変の変化を定期的に1989年~2022年まで10万人以上を追跡した結果です。

年齢、性、ピロリ菌感染の状況などを調整後に解析したところ、ピロリ菌除菌治療は、遺伝的高リスク群でのみ、胃がんリスクの低下(55%減)と関連しており、遺伝的低リスク群では関連がなかったことが報告されています。

2親等以内の親族に胃がんを発症した人がいなければ、ピロリ菌除菌はあまり胃がん予防にはなっていなさそうですね。

198,750人の成人を対象とした55の研究の系統的レビューとメタアナリシスによると、ピロリ菌がいない人と比較して、ピロリ菌に感染している人は、高血圧リスクが32%高いことが示されています。

具体的な数値では、次の値で高くなることが報告されています。

  • 収縮期血圧・・・1.86 mmHg 上昇
  • 拡張期血圧・・・1.12 mmHg 上昇

ピロリ菌が増殖しないよう、暴飲暴食を改めて、ピロリ菌との上手な共生をしないと胃がんだけでなく、心疾患にもなってしまう可能性があるということではないでしょうか。

更に、生後1か月以内の乳児の腸内でピロリ菌が増殖すると、小児時の血圧を上昇させることも明らかにされています。衛生環境が整っている現在の先進国では少ないようですが・・・。

スウェーデンのカロリンスカ研究所は、ピロリ菌が放出するCagA(細胞毒素関連遺伝子A)というタンパク質が、機能的なアミロイド集合体(細菌バイオフィルム)と病原性のアミロイド集合体の両方の形成を強力に阻害することを実証しました。

また、ピロリ菌に感染したマウスは、重度の胃炎と神経炎症の増加を示しましたが、脳内へのアミロイドの沈着や全身性炎症はありませんでした。

ピロリ菌感染とアルツハイマー病との正確な関係は未だ不明ですが、研究者は、CagAによる抗アミロイド作用は、ヒト疾患におけるアミロイド病理(アルツハイマー病の仕組み)にとって重要だと述べています。

また、ピロリ菌が発生するCagAに胃腸疾患との関係だけでなく、より広範に全身のさまざまな機能に影響を及ぼすことが明らかにされたことで、研究者は、ピロリ菌には、抗アミロイドタンパク質であるCagAを介して、腸内細菌叢の多様性と存在量の変化を誘導する機能があるのではないか、CagA陽性のピロリ菌株が特定の疾患に対する保護効果を発揮する可能性があると示唆しています。

なお、CagA陽性のピロリ菌への感染率は、地域によって異なることが示されています。

欧米諸国では、ピロリ菌株の約30~40%が CagA陰性ですが、東アジア諸国のピロリ菌株のほぼ全てが CagA陽性とのことです。

言い換えれば、東アジア人である日本人は、ピロリ菌に感染していることで胃がんリスクは高くなるものの、認知症リスクは低くなっている可能性があるということですね。

ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス

さて、あなたのピロリ菌に対する認識は、少しは変わったでしょうか。

ピロリ菌を即座に除菌してしまうのではなく、上手に共生していく方法を次の記事でお伝えしています。

ピロリ菌は病原菌ではなく共生細菌(2)ピロリ菌と共生する統合食養学的アプローチ

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参考文献:

ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング