バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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ペットの共生細菌の研究
ハーバード大学チャン公衆衛生大学院の計算生物学および生物情報学の教授カーティス・ハッテンハワー(Curtis Huttenhower)博士は、健康と病気にマイクロバイオーム(共生細菌のゲノム)が果たす役割を研究しています。
彼の研究は、ヒトの腸内細菌を中心にしていますが、最近では犬や猫などのペットにも研究を広げているとのことで、彼へのインタビュー記事がハーバード大学医学部のブログに掲載されていました。
ペットの共生細菌と飼い主との関係については、既に数年前にロブ・ナイト博士の論文から学びソフィアウッズ・インスティテュートの講座の中でもご紹介してきました。(参考『翻訳シリーズ|腸内細菌はどのように私達を定義し形成し癒しているのか』)
今回のインタビューでは、現在、進められている研究のことなどにも触れられていますので、和訳要約してお伝えします。
また、ハッテンハワー博士が単に動物を研究対象として観ているのではなく、実際に、猫の飼い主だということ、そして、ご自分を飼い主ではなく「父親」と呼ぶこと、ペットを「モフモフ達」と呼ぶ表現など、かなり好感度、高いです(笑)
ペットとヒトの腸内細菌
Q: ペットの腸内細菌を研究しようと思われたきっかけは何ですか?また、それがヒトの健康にどのように関係しているのでしょうか。
A: 私は何十年も猫の父親をしてきました。コンパニオン動物(家族のような動物)のウエルビーイング(心と体の幸せ)は、個人的にも私の最大の情熱のひとつなので、ヒトの共生細菌の研究をペットに広げることに最初はただ興奮していただけでした。
しかし、いくつかの研究が軌道に乗るにつれ、コンパニオン動物の共生細菌研究は、モフモフ達だけなく、私たちにとっても、現実的にかなり多くの科学的なチャンスとなり得ることがわかってきました。
ペットの健康促進
第一に言えることは、誰もがペットには永遠に生きていてほしいと願っているということです。ペットの腸内細菌に関する私たちの研究は、様々な面から、動物の健康状態を改善できる可能性があります。
例えば、慢性腎臓病は、高齢の猫で最も多い病気のひとつですが、腎臓に損傷を与える尿毒症の、毒素の主な供給源は共生細菌かもしれないのです。そこに的を絞って適切な食事を与えることで、リスクを回避できるのではないかと期待しています。
更に、過去数年の間に、研究者達は、ヒトの腸内細菌を人為的にコントロールすることから多くを学んできました。これらの発見を動物の健康促進に応用できる可能性があります。例えば、治療の成功が腸内細菌に依存している特定のがんや、病原菌だけでなく善玉菌にもダメージを与える抗生物質からの回復については、動物もヒトと同じです。更に、炎症性腸疾患などの症状は、適切な善玉菌を移植することで改善させることができます。
ペットは研究しやすい
第二に、ヒトの腸内細菌と比べてペットの腸内細菌は本質的に研究がしやすいのです。多くのペットは、化学的に単一に管理された食事をしています。そのため、ある食事を長期間続けた場合の腸内細菌の反応など、かなり正確な相互作用が測定できます。
一方でヒトは、完全に同じものを二度食べることはめったにありません。ましてや毎日毎食完璧に管理された同じ料理を食べることはありません。ペットの食事を通して特定の食事成分が腸内細菌とどのように相互作用して肥満を促進または予防するのかが理解できれば、その情報をヒトの健康に応用することができます。
ペットフード会社とのコラボについて
Q: ペットフード会社のヒルズペット栄養(Hill’s Pet Nutrition)社 とコラボレーションをしていらっしゃいますが、一緒に取り組んでいる仕事についてお伺いできますか?
A: ヒルズは、共生細菌の非常に高度な研究に対応可能な、製品の栄養レベルを精緻に調整できる独自の設備を備えたペット栄養センターを運営しています。センターでは、一匹一匹の動物の名前と性格を熟知している専門の技術者によって、約450匹の犬と約450匹の猫が、最高レベルのケアを受けています。
精緻な研究が可能
このセンターでは、同じ敷地内で医療の提供と食事の製造が行われている他、個々の動物が食べた食事の種類と量を自動的に追跡するロボットシステムも備えています。食事の構成は製造時に判明できます。糞便はほぼ即座に回収され、信頼できる高度な手順で処理され、凍結され、その場で細菌のDNAや代謝物などが分析されます。言うまでもなく、このレベルの詳細さは、ヒトを対象とした研究では無理です。
ヒルズの専門家と協力して、食事と共生細菌との相互作用を調査するヒトとペットに関する一連の多様な研究に取り組んでいます。
完了した研究のひとつでは、12 種類の異なる食物繊維とその組み合わせを食事として犬に与えて調査をしました。例えば、高食物繊維 vs 低食物繊維、または、コーンスターチvs. エンドウ豆繊維などです。
ヒトと犬との共通項
最も驚いた結果のひとつは、完全に管理された食事と均一な生活環境にもかかわらず、犬ごとの腸内細菌の違いによって、消化時の腸内細菌発酵でかなり異なる物質が生成されたことです。腸内に偶然住み着いた細菌が異なるだけで、同じ食物繊維を他の犬よりも効率的に発酵できる犬がいます。
一般的に腸内細菌が造る発酵産物の多くは良いものです。そのため、より効率的な発酵はおそらく有益であると考えられます。
共生細菌の「個別性」はヒトにも同じ様に存在するため、腸内細菌による化学反応の違いは、犬とヒトの両方において適切な体重の維持と健康的な老化を説明するのに、いくつかの点で役立つ可能性があります。
私たちが以前発表したヒトを対象とした食事研究の結果、例えば、「地中海式食事法が心疾患をどれだけ改善できるかは、もっている腸内細菌の種類に依存する」という事実と、今回の研究の、「高食物繊維の食事が炎症予防に役立つ程度は、腸内にいる腸内細菌の種類に依存する」という結果は、一致しています。
共生細菌研究の基礎知識
私たちの食事研究による発見は、近年の共生細菌研究にとっての重要な基礎知識となりました。
共生細菌は、驚くべき広範な代謝をする、化学反応が詰まった小さな袋
だということです。
これは、同じ食事への反応がなぜ人によって異なるのか、あるいは、なぜ同じ薬が他の人よりもよく効く人がいるのかを説明するのに役立ちます。
私たちは、腸内に膨大な異なる細菌を抱えており、そのバラツキは同じ環境で暮らしている動物よりもはるかに大きく、共生細菌の違いは、私たちの体全体で起こっている化学反応が人によって微妙に異なることを意味します。ある化学反応に共生細菌がどのように関与しているのかを正確に解明することは、薬剤の投与量、個別化された治療法、健康的な食事のガイドラインをより良いものにすることに役立ちます。
社会全体のウエルビーイングについて
Q: あなたの仕事が広い意味で公衆衛生に与える影響は何ですか?
A:「ヒト、動物、環境の健康は全て密接に相互に影響し合っている」というコンセプトを中心に、WHO(世界保健機構)、CDC(米国疾病予防管理センター)、そして、その他の公衆衛生機関によって推進されているワン・ヘルス・イニシアチブ(健康はひとつ推進運動、One Health Initiative)に、ペットとヒトの健康のつながりは反映されています。
良い影響・悪い影響
例えば、人生の早い段階で、より多くのモフモフのペットや、緑の自然環境と接触した乳児は、後に免疫疾患やアレルギー疾患のリスクが低くなることが疫学研究によって示されています。こうした効果の一部は、共生細菌によることが判ってきました。「適切な」タイミングで「適切な」細菌を獲得することが、生涯のより良い健康につながるということです。
ただし、その逆も当てはまります。ヒトへの医療よりも、獣医療では抗生物質が多用されるため、ペットの腸内細菌が抗生物質に対して耐性を獲得してしまう可能性があります。耐性菌やその他の遺伝物質が飼い主にうつれば、ヒトの健康リスクとなる可能性があります。
これに関連して、ハーバード・チャン・スクールとブリガム・アンド・ウィメンズ病院のネットワーク医学部チャニング学科が運営する「看護師健康調査(Nurses’ Health Study )3」と「この時代に大人になる調査(Growing Up Today Study)」と協力して、別の調査に取り組んでいます。
私たちはペットとその飼い主の共生細菌を比較して、どの細菌がどのようにしてペットと飼い主の間を移動するのか、そして免疫や代謝の健康にどの様な影響を与えるのかを解明することを目指しています。
ヒトと動物の両方の健康のために、新しい研究分野がどのような結果をもたらすのかを見極めるのはエキサイティングなことです。
出所:”Gut microbiome of pets reveals insights for human health“, June 29, 2023, Jay Lau, Harvard T.H. Chan School of Public Health
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
ハッテンハワー先生がおっしゃっていた、WHOの「One Health Initiative」には次のように記載されています。
expand the One Health approach to include the environmental component (e.g., change in land use and increasingly urbanized ecosystems) to the human-animal interface approach, and consider the links between human, animal and ecosystem health
ヒト・動物共通アプローチに環境要因(例、土地活用の変化と都市化する生態系)を含め、ヒト、動物、生体系の健康とのつながりを考慮するためにワンヘルスのアプローチを拡大する
「私達は孤立して存在しているのではなく、
取り巻く環境全てとつながっている」
と、いうホリスティックの理念が反映されていますね。
動物たちの健康を維持することは、彼等だけでなく私たち自身の健康を守ることになる。
家族の一員である動物たちと私たちは健康を分け合っているという科学的な事実は、嬉しくもあり、飼い主としての責任の大きさを改めて実感する事実です。
なお、ペットとアレルギーとの関係については『翻訳シリーズ|子供の食物アレルギー原因と治療法の最新研究』もご覧ください。
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