バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
私達と腸内細菌は一緒に同時に進化した
2022年1月号の『ネイチャー』誌に掲載された論文が非常に興味深かったので、私の興味を引いた部分について和訳・要約してお伝えします。その後、その情報を日常の生活の中でどのように活用できるのか、簡単な方法についてお伝えします。
なお、この記事の裏付けとなる研究論文は、参考文献として最後に一覧にしています。この記事内で紹介している研究については、ネイチャーの元の記事の索引をご参照ください。
ヒトと腸内細菌の共生の根底にあるメカニズムは、まだ不明なことが多いです。
でも、この共生関係にとって、腸粘液の主成分であるムチンと母乳の中にあるオリゴ糖などの「糖鎖」が、私達と共生細菌との関係にとって重要であることは、既に判っていることです。
- 私達の腸内環境に適応できた、ムチン糖鎖を消化できる特殊な細菌
- 共生菌からの要望に応えてムチン糖鎖を造ることのできる私達の体
等、お互いからの刺激に対して、お互いに反応し合うこの現象は、共生関係が共進化したことを意味しています。
私達の体は糖を様々に活用している
私達の体は、糖をエネルギー源として使用します。でも、それだけはありません。
「糖転移酵素」という酵素を用いて、糖(単糖)を鎖状に連ねた「糖鎖」を作り、体内で重要な役割を担わせています。
糖鎖は、タンパク質や脂質、細胞や赤血球などの周囲にくっついて、次のような役割を担っています。
- 分解酵素から細胞を守る
- 細胞の活性化
- 細胞間の情報伝達
- 細胞同士の接着
- 血液型の決定(血液型は血球上のオリゴ糖鎖の構造によって決まります)
などです。
ムチン糖鎖と病気との関係
ムチンはタンパク質にくっついた糖鎖のひとつです。
ムチンは、消化器官や呼吸器官などの表面を覆っている粘液の主成分で、食べ物を消化器官内でスムーズに通過させたり、呼吸器官から異物を排出したり、精子が子宮頸部を通過するのを助けたりする役割を担っています。
ムチンは、単糖のN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に
- ガラクトース
- N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)
- シアル酸
などがくっついて鎖状になったものです。
また、タンパク質と結合した糖鎖には、O-結合型とN-結合型があります。
O-型糖鎖は病気と関係している
O-結合型糖鎖には、次の様な様々なものがあります。更に、それぞれにα型とβ型があります。
- フコース
- マンノース
- キシロース
O-結合型糖鎖は、疾患と関連する等、特定の機能性を持っていることが多いです。特に、O-型糖鎖の中でも、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)やシアル酸を含む比較的短い糖鎖が、がん等との関係していることが確認されています。
アルツハイマー病と糖鎖との関係については『アルツハイマー病とツバメの巣』をご参照ください。
O-型糖鎖のムチンは様々ながんと関係している
ムチンもO-結合型糖鎖です。体粘液に機能的な特性を与える役割を果たしています。
ムチンは一定のアミノ酸の配列が繰り返される構造をもっていて、体のどこにあるムチンなのかによって、次のように分泌型と膜結合型に分れます。
- 分泌型ムチン|MUC2、MUC5AC、MUC5B、MUC6、MUC7
- 膜結合型ムチン|MUC1、MUC3、MUC4、MUC12、MUC13、MUC16、MUC17
膜結合型のムチンは、がんと関係しているものがあります。
- MUC1|乳がん、卵巣がん、膵臓がんなど様々ながんにおいて過剰発現することが報告されています。
- MUC4|正常な臓器でも発現しますが、発現が過剰になり過ぎたり、少なくなり過ぎたりすると、乳がん、卵巣がん、肺がんなど様々な病気に影響を及ぼします。
ムチンの構成は一人ひとり異なる
ムチンの構造は、遺伝子によっても一部影響を受けます。そのため、私達ひとりひとり、ムチンの構成が異なります。そして、ムチン構成の個人差は、乳児期だけでなく成人期においても私達の健康と共生細菌の顔ぶれに影響を与えます。
例えば、フコースの合成に関する遺伝子に異常を持っている人は、オリゴ糖とフコースを結合させることができないので、腸粘液にフコース化オリゴ糖が存在しません。
フコース/フコース化オリゴ糖と疾患
フコースを造れない人は、クローン病やシリアック病などの疾患リスクが高くなり、フコースを造れる人とは、異なる顔ぶれの腸内細菌を持っています。(シリアック病については『シリアック病/セリアック病あるいはグルテン不耐症をご存知ですか?』をご参照ください)
また、フコース化オリゴ糖を造れない母親の母乳で育った乳児は、腸内のビフィズス菌の量が少なく、下痢やアレルギー性疾患を起こすリスクが高くなります。
腸内細菌と腸粘膜と宿主である私達
ムチンを主成分とする腸粘膜は、腸の上皮細胞の保護バリアとしての役割をもつだけでなく、宿主である私達と共生細菌とのコミュニケーションにとって重要な役割を果たしています。
体内の粘膜層の中でも大腸の粘膜層は最も厚く、内層と外層に分れています。内側の粘膜層には共生細菌は住んでいませんが、外側の粘膜層の中の
- 酸素濃度が低い
- ムチンタンパク質やムチン糖鎖が豊富
などの腸内の特殊な粘膜環境に高度に適応し、特異的な条件に応じてネットワークを構築し、粘膜内コロニーを作り、安定した細菌コミュニティを形成しています。
腸粘膜の健康が宿主と共生細菌の健康にとって重要
腸粘膜を健康的に維持することは、腸内細菌を健康に保護するだけでなく、様々な粘膜関連疾患の予防と改善にまで及ぶと考えられています。
- 宿主の食事内容が、腸粘液内のムチン糖鎖の量に影響を与え、
- 腸粘液内のムチン糖鎖の量は、腸内細菌の顔ぶれと機能性に大きな影響を与え、
- 粘膜内の共生細菌は、腸粘液の成分と厚さと、宿主の免疫力と代謝機能などに影響を与えます。
腸粘液は、腸のバリア機能を強くし炎症反応を減少させ、ヒトの健康にとって重要な役割を担っていることを示す研究が増え続けています。
粘液は、糞便もコーティングしています。
糞便を粘液で包み込むことで、腸の健康を維持し炎症や過形成(過剰な細胞分裂によって起こる組織の肥大)を防ぐ追加バリアとなっています。
腸内細菌の健康との因果関係が判明している疾患
腸内の共生細菌との因果関係が判明している疾患は次の通りです。
- 壊死性腸炎(NEC)
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 大腸がん
自他共栄の腸内細菌ネットワーク
共生細菌は短い糖鎖しか栄養にできません。
私達の腸粘膜にあるムチン糖鎖は長すぎるので、事前に分解される必要があります。
しかし、ムチン糖鎖(多糖類)の分解は、一種類の腸内細菌が造るひとつの酵素だけではできません。様々な腸内細菌が造る様々な酵素の組み合わせが連続的に作用する必要があります。これは、共生細菌達が協働してムチン糖鎖を分解していることを意味します。
ムチン糖鎖などの複雑な多糖類を分解する糖鎖分解酵素(グリコシダーゼ/GH/配糖体加水分解酵素)を、多様な腸内細菌が造っています。
腸内細菌のゲノム解析の結果は、腸内細菌のほとんどが、ムチン糖鎖、O-結合型糖鎖、単糖の少なくとも1種類以上を切断したり、分解する能力を持っていることを示しています。
興味深いのは、ある酵素を造る腸内細菌が、必ずしも、自分で分解した糖を自分の栄養にしているわけではないということです。例えば、ムチンからシアル酸を分離する酵素シアリダーゼを造ることのできる腸内細菌の全てが、シアル酸を利用するわけではないのです。
腸内細菌が、分解物をお互いに与え合う行動は、環境適応力や集合体としての機能を高め、安定した腸内細菌ネットワークの構築を可能にしています。
研究者は「腸内細菌による’たすき’リレーのようなムチン糖鎖の分解の第一歩は、シアル酸から始まる。腸内細菌が造るシアリダーゼ(シアル酸分解酵素)の存在は、生態学的ネットワークの重要な特徴だ」と、述べています。
母乳オリゴ糖鎖
母乳に免疫効果がある理由
ムチンから分解・分離したシアル酸が、他の善玉菌に提供されると、病原菌による感染症が起こらなくなることが観察されています。このことは、シアル化された母乳オリゴ糖に免疫効果があることの説明になるかもしれないと研究者は述べています。
ひとつの腸内細菌がムチンからシアル酸を分離し、他の腸内細菌がそのシアル酸を利用して母乳オリゴ糖をシアル化する。そのことで乳児の免疫力が向上する・・。
母乳に含まれているオリゴ糖
母乳に最も豊富に含まれている成分のひとつがオリゴ糖です。
オリゴ糖は、異なる特異性を持つ糖転移酵素の組み合わせによって、約2〜20の単糖が直列と多少の分岐構造でつながっている非常に多様な糖鎖です。
母乳オリゴ糖は、ムチン糖鎖と似たような単糖の基礎構造と結合構造をもっています。そのため、母乳オリゴ糖とムチン糖鎖の分子特性も似ています。そして、どちらも非常に多様な構造をもっていて、私達はひとり当たり200を超える異なる構造の糖鎖をもっていることが判っています。
現在、世界中で劇的に増加し続けている免疫関連障害の発症において、次の事柄における変化が新生児と腸内細菌の共生関係に影響を与え、関係しているとする仮説があります。
- 分娩方法
- 授乳方法
- 抗生物質の使用
- 総合的な栄養状態
生後1000日間の腸内細菌叢の発達は、乳児期の栄養に大きく影響されるダイナミックなプロセスです。
乳児の腸にコロニーを形成したパイオニア的細菌は、安定した生態系構築に向けて徐々に多様化し、他の善玉菌が宿主との安定したコミュニケーションと最適な共生関係を確立する上で重要な役割を果たします。(乳児期における腸内細菌の発達と免疫との関係については『翻訳シリーズ|子供の食物アレルギーの原因と治療法の最新研究』も併せてご覧ください。)
母乳オリゴ糖の役割
母乳オリゴ糖は、乳児にとっての直接的な栄養価はありません。
母乳オリゴ糖は、乳児の腸内で共生を許可する善玉細菌を選択し、病原菌が定着することを阻害し、抗炎症効果をもっています。
つまり、母乳に含まれている糖鎖(オリゴ糖)は、
- 直接的には、病原菌が腸内に定着することを阻止し
- 間接的には、病原菌と戦う善玉菌の栄養源として
新生児を保護しているのです。
母乳は、赤ちゃんと善玉菌の共生関係を確立させる役割をもっていると言えます。
糖鎖分解菌の役割
1. 他の善玉菌のための環境づくり
乳児の粘膜層に早期に定着する菌には、
- ビフィズス菌属
- バクテロイデス菌属
- A.ムシニフィラ菌属等
があります。
これらの共生細菌達は、生き残りのために、乳児の腸内に豊富にあるムチンと類似した構造をもつ母乳オリゴ糖を活用します。母乳オリゴ糖とO-結合型ムチン糖鎖は化学的に類似しているため、共生細菌達は、これらの複雑な炭水化物の両方を分解できる酵素をもっています。
例えば、A.ムシニフィラ(腸内のムチン分解菌のひとつ)は、糖鎖分解酵素に類似する酵素を用いて、母乳オリゴ糖とムチン糖鎖の両方を分解します。
乳児の腸内で母乳オリゴ糖を餌にできるムチン分解菌は、他の善玉菌が乳児の粘膜層に早くコロニーを形成できるよう環境を整える役割をもっているのではないかと考えられています。
2. 住家となる腸粘膜の健康維持
腸内細菌が糖鎖を分解して造る代謝物は、粘膜の健康の維持に必要であることが判っています。腸内細菌が腸粘膜にコロニーを正しく形成することで、体内の粘膜、免疫、および代謝が一生涯に渡って健康に保たれます。
つまり、糖鎖分解菌の豊富さが、乳児期以降の人生においても健康な腸の良い指標となると言えます。
糖鎖を食事から効果的に摂る研究
1. プロビオティクス
善玉菌そのものを用いたサプリメントや、腸内細菌移植などの治療は、次の改善や治癒に大きな可能性をもたらすとして、大きな期待が寄せられている分野です。
- 感染症
- 免疫性疾患
- 代謝性疾患や障害
2. プレビオティクス
善玉菌の餌となるプレビオティクスを用いて共生細菌を健康に保つ方法として、糖鎖に注目が集まっています。
母乳糖鎖の活用
腸の健康と免疫力にとって重要な役割をもつ共生細菌を、効果的に調整するプレビオティクス(善玉菌の餌)として、母乳オリゴ糖と血液型抗原が有望であることが報告されています。
母乳糖鎖には
- ジシアリルラクト-N-テトラオース
- シアル化ガラクトオリゴ糖
- ジシアリルラクト-N-テトラオース
- 2′-フコシルラクトース
などがあり、これらの糖鎖を食事に加えることで、腸粘液層に顕著な欠陥を持つ炎症性腸疾患や代謝性障害の改善となることが期待されています。また、これらの糖鎖を乳児用調製粉乳に混ぜた場合、乳児の壊死性腸炎(NEC)などの疾患を軽減できることが示されていると研究者は述べています。
ムチン糖鎖の活用
腸粘膜を健康に保つために粘膜の主成分であるムチンを用いた研究も進められています。
動物実験
ブタのムチン糖鎖を経口投与されたマウスで
- 難治大腸炎を起こすC.ディフィシル菌の減少
- 食事性肥満発症の遅延
- A. ムシニフィラ菌(ムチン分解菌)の相対量の増加
が示されています。
また、粘膜シアリダーゼ(シアル酸分解酵素)を造る共生細菌が、C.ディフィシル菌感染から宿主を守っていることを複数の動物実験が示しています。
臨床実験(ヒトを対象とした実験)
ムチン分解菌とヒトの免疫・代謝機能の健康との因果関係を示す例がいくつかあります。
食事にムチン糖鎖を加えると、腸内のA.ムシニフィラ菌が増え、食事性肥満の発症を遅らせることができます。(つまり、太りにくくなる)
3. ポストビオティクス
ポストビオティクスは、死んだ善玉菌、あるいは善玉菌の組織の一部のことです。プロビオティクスが生きた善玉菌を摂取することを意味する一方で、ポストビオティクスは善玉菌の死骸や一部を摂取することを意味します。
例えば、スーパーに並んでいる殺菌後のヨーグルトや常温の棚のお味噌などに含まれている善玉菌は、実際にはプロビオティクスではなくポストビオティクスです。だって「殺菌」しているんですから・・
でも、死んだ菌のタンパク質など善玉菌の一部でも効果があることが判っています。例えば、A.ムシニフィラ菌(ムチン分解菌)の外膜線毛が宿主に健康的な代謝反応を起こし、腸のバリア機能を高めるたことが報告されています。
ポストビオティクスについては、次の記事もご参照ください。
4. やっぱり食物繊維が重要
食事に含まれる単糖類(ブドウ糖や果糖)と食物繊維の比率は、ムチン分解菌の量と活動力に影響を及ぼします。そして、食物繊維の量が少なくなると、腸炎の発症リスクが高くなります。
マウスの実験ですが、
- 単糖類に偏った餌は、腸内細菌を変化させ、疾病の可能性を高め、大腸炎にかかりやすくなる
- 食物繊維の少ない餌は、腸内細菌を変化させ、粘液の欠陥を起こす
ことが報告されています。
それだけでなく、炎症を起こす性質をもつ共生細菌が反応し、腸粘液の量と糖の構成に好ましくない変化を起こします。その結果、炎症が更に悪化するという悪循環が起こります。
低食物繊維・高糖質の食事の害
長期間に渡って、食物繊維(野菜や果物)の少ない高糖質(白米・白砂糖・白小麦)の食事を続けると次の様な連鎖が起こります。
腸粘液を活発に分解する菌が増加 ⇒ 粘液の組成が変わり厚みが減少 ⇒ 腸のバリア機能が弱化 ⇒ 炎症の発症 ⇒ 次の疾患の発症リスク上昇
- 壊死性腸炎(NEC)
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 大腸がん
5. 合成糖鎖(プレビオティクス)活用の可能性
天然に存在するオリゴ糖鎖とは別に、新しい合成糖鎖の活用が提案されています。
合成糖鎖を活用する腸内細菌の人工ネットワーク
研究者は、腸内細菌のための合成糖鎖と、それを用いた機能性糖鎖食品を作ることのできる可能性について述べています。
合成糖鎖を食べることで、それを分解できる酵素を造ることのできる腸内細菌が人工の細菌コミュニティを造り、粘膜の健康を改善する非常に高度な共生関係を構築するであろうと研究者は述べています。
腸内細菌ネットワークによる合成糖鎖の分解は、宿主の免疫と代謝を調整する成分の貯蔵となり、腸と粘膜に細菌が適切に共生し、宿主の初期および後期の人生における免疫と代謝の健康を良い方向に刺激すると考えているようです。
具体的には、プレビオティックスとなる合成糖鎖が、善玉菌の栄養素として使用されるようになり、次の様な作用をもたらすと考えているようです。
- 抗感染力による粘液の健康維持
- 有益な免疫および代謝の宿主反応の誘発
- 粘液の量とバリア機能の改善
そのため、乳児用調製粉乳に糖鎖を添加することは、乳児の腸にコロニーを形成する有益な糖鎖分解菌の増殖を促し、腸内細菌ネットワークを造り、粘膜の健康が維持され、その後の人生にとって有益な結果をもたらすことが期待できると述べています。
ちなみに次のオリゴ糖は、既に人工甘味料として販売されている天然には存在しない合成糖鎖です。
- 乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)|乳糖と果糖から造る合成オリゴ糖
- αオリゴ糖|でんぶんから造る合成オリゴ糖、無味無臭
オリゴ糖鎖/フコース/シアル酸を多く含む食品
今回の論文で、次の具体的な成分を多く含む食品を積極的に食事に取り入れることの大切さが再確認できました。
- 腸内の善玉菌の餌(プレビオティクス)となる難消化性オリゴ糖
- オリゴ糖のフコース化に必要なフコース
- 善玉菌の住家を提供する腸粘膜の健康にとって重要なシアル酸
- そして食物繊維
しかし、それぞれを合成糖鎖や人工甘味料やサプリメントとして摂るのではなく、それぞれを多く含む食品をホールフードで食べて欲しいと、統合食養学のヘルスコーチとしては思うので、それぞれを多く含む食品を次に紹介していきます。
難消化性オリゴ糖豊富な食品
複雑な炭水化物に含まれているオリゴ糖には、消化性オリゴ糖と難消化性オリゴ糖があります。難消化性オリゴ糖は、消化酵素では消化されず大腸にまで届き、今回お伝えしてきた通り、善玉菌によって分解されます。
天然に存在する難消化性オリゴ糖とそれを多く含む食品には次の様なものがあります。
大豆には、単糖が4つもつながった四糖類のスタキオースなど天然では珍しいオリゴ糖も含まれています。
難消化性オリゴ糖のうち、ラフィノースとフラクトオリゴ糖の含有量について、32の果物と41の野菜を分析した研究がありました。以下に含有量の多い順に1位から掲載します。ただし和の野菜、例えば、ゴボウや大豆などは調査対象になっていなかったので表に含まれていません。
フコース豊富な食品
フコースは海藻のヌメリ成分フコイダンから発見された糖鎖です。主にその名前の由来となったヒバマタ属の海藻(主に昆布)に多く含まれています。
海藻の糖鎖含有量について分析した研究論文から食用と思われる海藻のフコース含有量は次の通りです。
モズクがダントツですが、様々な種類のコンブに多く含まれていることが判ります。ワカメ、ヒジキなどもフコースを摂るには良い食品であることが分かります。東洋医学では免疫力アップにはヌメリ食品が良いとされ、海藻類などが代表例として挙げられますが、科学的にもその根拠が裏付けられましたね。
なお、フコイダンの市販のサプリメントなどは、メカブから抽出しているものが多いのですが、残念ながらこの研究にはメカブの登録がありませんでした。
シアル酸豊富な食品
シアル酸は、母乳や牛乳、鶏卵、ツバメの巣に多く含まれています。
シアル酸研究会によれば、ツバメの巣の重量の約10%がシアル酸、牛乳では0.2 mg/mLのシアル酸が含まれているとのことでした。また、1997年の『生物と化学』の35号に掲載されていた「鶏卵の化学とその応用」という解説書に鶏卵の各部位に含まれているシアル酸量の次の表がありました。
この表を見るとカラザに多く含まれていることが判ります。卵黄の横にちょこっとくっついている白いヒモや固まりのようなものがカラザです。取り除いてしまう人もいるようですが、絶対、食べた方が良いものです。カラザのシアル酸から造られた抗インフルエンザ薬があるくらいです。
ちなみに、シアル酸研究会によれば、卵白はO-結合型糖鎖、卵黄はN-結合型糖鎖だということです。
確かに生の卵白はヌルヌルしていて、体内の粘液に似ています。成分的にも粘液ムチンに近いということですね。しかし、子供にアレルギー(免疫反応の異常)を起こしやすいのも卵白の方だというのは皮肉です。
農林水産省の鶏卵の規格を参考に、卵1個(殻付き)の重量を60gとして全てを換算してみました。卵の重量に合わせて60g換算した時の各食品に含まれているシアル酸の量は次の通りです。
- 卵黄(卵黄膜含む)だけで60gとすると、卵3個半で、シアル酸は約57mg
- 卵白(カラザ含む)だけで60gとすると、卵1個半で、シアル酸は約6.4mg
- カラザだけで60gにするためには、卵435個必要で、シアル酸は約103.3mg
どちらにしても、ツバメの巣がダントツだということが判ります。( ツバメの巣と糖鎖については『アルツハイマー病とツバメの巣』 も併せてご覧ください。)
でも、ツバメの巣は高級食材ですから誰でもが日常的に食べられるものでは無いように思います。だからと言って、卵1個にあるカラザはほんの少しですから、それだけをたくさん食べることも難しいし不自然です。
ホリスティックに糖鎖を摂るために必要なこと
今回のネイチャーの論文から腸内環境を健康的に保つ具体的な食事戦略がとても明確になりました。
ソフィアウッズ・インスティテュートがベースとしている統合食養学のアプローチのひとつ、ボディエコロジーの4ステップで取り入れる食品について、大きな裏付けを得たと、感じました。
統合食養学(ホリスティック栄養学)の公認ヘルスコーチとして、今回判明した腸内環境や腸疾患の改善にとって有効なことが示された成分を摂る際の注意点について、「ホリスティック」の哲学的な意味に沿ってお伝えします。
全体は部分の総和よりも価値がある
繰り返しになりますが、ミクロ栄養素(人工甘味料)ではなく、ホールフードで食べるようにしてください。
例えば、「水」。これを化学的に合成したら「酸化水素 H2O」です。「純水」と呼ばれるものです。これが飲料水の代わりになるかと言えば、なりません。金魚は純水の中では生きていけません。
いわば、天然水はホールフードですが、純水はミクロ栄養素です。
食品についても同じことが言えます。バナナを食べることと、合成オリゴ糖を摂ることは同じではありません。合成オリゴ糖は新しい製品です。合成オリゴ糖(人工甘味料)を長期に渡って摂り続けた際の影響については、まだ誰も知りません。
他に選択肢のない場合を除いて、食品から、ホールフードで摂るようにしましょう。
私達は環境全てとつながった存在である
地球上の生物に微量にしか含まれていない成分は私達ヒトにとっても微量にしか必要がないと、私は思っています。不足しない程度にほどほどに食べることが私達の健康にとって有益なのだと思います。
自然界に存在しないほどの量をミクロ栄養素(サプリメントや人工甘味料)にして摂ることによって起こる体内のバランスの変化を考えると怖くなります。
私達の体は蜘蛛の巣と同じです。
蜘蛛の巣の糸を一本引っ張ったら、その一本だけがスルスルと抜けることが無いように、蜘蛛の巣全体が動くように、私達の体も何か一つ変えたら、その一つだけが変わるということはありません。体全体が動きます。
もちろん、既に腸に疾患を抱えている方が、ある栄養素を通常の食事よりも多く摂ることで改善につながる可能性について否定するものではありません。
頭の声ではなく体の声を聴く
たくさん食品を紹介してきましたが、腸内に課題を感じている人は、まずはひとつづつ食事に加えて行って、様子を診ながら、体の声を聴きながら、あなたの今の状態に合う食品を見つけてくださいね。
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参考文献:
- “Nutritional strategies for mucosal health: the interplay between microbes and mucin glycans”, Clara Belzer, OPINION| VOLUME 30, ISSUE 1, P13-21, JANUARY 01, 2022 (June 30, 2021) DOI:https://doi.org/10.1016/j.tim.2021.06.003
- ルイス抗原システム
- 「オリゴ糖(おりごとう)」、厚生労働省、e-ヘルスネット
- 「オリゴ糖開発研究の現状と将来」、中久喜輝夫、譖菓子・食品新素材技術センター理事長、静岡大学客員教授、応用糖質科学 第 1 巻 第 4 号 (2011) 特集 オリゴ糖研究の最前線 P281-285
- “A Comprehensive and Comparative Analysis of the Fucoidan Compositional Data Across the Phaeophyceae”, Nora M A Ponce, Carlos A Stortz, Front Plant Sci, 2020 Nov 25;11:556312. doi: 10.3389/fpls.2020.556312, PMID:33324429, PMCID: PMC7723892
- 「糖鎖コラム」、医化学創薬株式会社
- “Oligosaccharide Profile in Fruits and Vegetables as Sources of Prebiotics and Functional Foods”, Ruzica Jovanovic-Malinovska, Slobodanka Kuzmanova & Eleonora Winkelhausen (2014), International Journal of Food Properties, 17:5, 949-965, DOI: 10.1080/10942912.2012.680221
- シアル酸研究会
- 「鶏卵の化学とその応用」、山本武彦、L.R.ジュネジャ、八田一、化学と生物、Vol. 35、No. 4、1997
- 「畜産物の価格安定に関する法律施行規則の規定に基づく鶏卵の規格」、昭和三十七年七月六日 農林省告示第八百六十三号、最終改正: 平成一五年一〇月一日農林水産省告示第一五四〇号
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング