腸内細菌時代の食事と病気(がん)を科学的に考える

2020/11/10/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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ネイチャーの論文が統合食養学を正当化

科学専門誌『ネイチャー』の、更に専門誌『セル(細胞)』に掲載されたがんと食事と腸内細菌に関する論文が、統合食養学のアプローチを科学的に正当化してくださっており、興味深かったので、和訳要約してご紹介します。

ところどころに私の感想を入れています。

食事 – 病気

流行の「これがヘルシー」と、いう食事法は移り変わります。

しかし食事と腸内細菌との相互作用への理解が進むにつれ、専門家の見解は一致してきています。

食事に対する腸内細菌の反応や、免疫機能と代謝機能を調整する能力についての科学的な裏付けが、様々な種類のがんに対する新たな研究機会を生みました。

植物性の食品を多く食べ、それ以外の食品をほどほどに控えることを勧めるエビデンスベースの(科学的根拠に基づいた)食事療法は、腸内細菌の研究が黄金期を迎える40年以上も前から研究によって裏付けられ、長きに渡って、がんリスクを低減するためだけでなく、病気の罹患率と死亡率を低減するための公共衛生上の重要なメッセージとなってきました。

食事 – 腸内細菌 – 病気

そして今、心疾患やがんのリスクを

  • 上昇させる食事性要因(超加工食品、加糖、精白された穀類、四つ足動物の肉)あるいは
  • 減少させる要因(全粒穀類、ナッツとシーズ、豆類、食物繊維)

が、腸内細菌の構成を決める要因でもあることを私達は理解し始めました。

参考:『ウルトラ・プロセスフード(超加工食品)店の優良顧客は、〇〇になりやすくて、すぐ死ぬ!?

食事と病気(がん)の関係の仲介者として、重要な役割を担っていることが判明したことで、腸内細菌のへ関心が高まっています。

私達の胃腸に住んでいる細菌は、私達が食べるものを食べます。

彼等は、私達を変え、私達は彼等を変えます。

食事-腸内細菌-がんの関係軸は、大腸がんの研究から得られた知見がほとんどですが、食事と腸内細菌との相互作用は、大腸の粘膜層だけに留まらず、ヒトの健康と病気に影響を与えています。

腸内細菌の構成を決定する要因

  • 宿主の代謝能力
  • 代謝副産物と腸内細菌との関わり方

こうした相互依存関係の健全性が、腸内の健康と免疫力と関係し、がんリスクに影響を与えていることが示唆されています。

身近さと複雑さが人々の混乱を生む

栄養学と腸内細菌は、がん患者だけでなく、自分や家族の健康を守りたいと思っている、がんを発症する可能性のある全ての人にとって、ますます魅力的なものになっています。

確かに栄養学は、とても身近な科学分野です。なぜなら私達は皆、食事をし、そのことについて誰かに話すことができるからです。

しかしながら、こうした身近さと、特定の食品や栄養素(例えば、脂質やスーパーフードなど)に限定した還元主義的(ミクロ栄養素にフォーカスした)アプローチは、人々を「これを食べなさい。これはダメ」という混乱と忍耐に陥れます。

註:還元主義:すべてを構成要素に分解し、ミクロ要因から、全体の解決策を導こうとする思考

ミクロ栄養素を用いたアプローチの失敗と危険性

がん予防のために、特定のミクロ栄養素(例えば、ベータカロテンなど)に限定したアプローチは、様々なサプリメントを用いた複数の臨床研究を生みました。しかし、そのいくつかは、不幸にも、還元主義的アプローチの危険性を証明する素晴らしい教訓となりました。

初期の疫学研究は、自然食品からこうした栄養素を大量に摂取することは、有益であるとしてきました。

しかし、サプリメントを用いた介入研究では、ミクロ栄養素の大量摂取は、がんリスクや発症に何の影響もないだけでなく、潜在的な害がある可能性をも示唆しています。

にもかかわらず、興味深いことに、がん患者を含め、消費者向けサプリメントの市場は、今も拡大し続けています。

食事はミクロ栄養素ではなくホールフードで

ひとつの食品やサプリメント(またはドリンク剤)だけを摂り続けることでは、健康的な栄養バランスを得ることは決してできません。

(ソフィアウッズ・コメント:やっぱり、ホールフードですね)

こうした栄養素とがんの関係についての学びは、腸内細菌へのアプローチについても、ミクロ要因ではなく、全体にフォーカスすることの重要性を表しています。

腸内細菌の役割もホールで考えるべき

それと同様に、抗がん作用のある腸内細菌を定義する上で、一つの種(しゅ)や菌株だけにフォーカスしても効果的な結果が得られるとは思われません。

腸内環境が健康で安定している時、多様な常在菌がコロニーを形成し、腸内の空間と栄養を支配し、一時的に腸内を通過している病原菌や腸内に住んでいる悪玉菌に対して、抵抗力をもちます。

腸内細菌を健全に保つには

多くの研究データが、健康的な腸内細菌は、食物繊維が多い環境で進化し繁栄することを示しています。

そのため腸内細菌は、炭水化物の中でも特に

  • 食物繊維を多く含む難消化性炭水化物や
  • レジスタントスターチ(難消化性澱粉)

の多い植物性食品(例えば、野菜、果物、豆類、全粒穀類など)を主なエネルギー源としています。

腸内細菌はマックを好んで食べる

(ソフィアウッズ・コメント:マクドナルドのことじゃないですよ。)

腸内細菌が好む炭水化物を、腸内細菌利用可能炭水化物(MACs|マック:microbiota accessible carbohydrates)と呼びます。

腸内細菌は、それを発酵させて、

  • 宿主の健康
  • シグナル経路
  • 免疫機能

に大きな影響をもつ短鎖脂肪酸を産生します。

MACsが不足すると、腸の保護粘膜層の糖タンパク質が代替エネルギーを提供してくれますが、その状態が続くと、腸壁の崩壊し、例えば、リーキーガットが起こりかねません。

(ソフィアウッズ・コメント:やっぱり炭水化物抜いたらダメねー)

抗生物質と腸内細菌

抗生物質は、常在菌の健康を阻害し、コロニーの抵抗力を破壊します。

栄養ネットワークが侵害され、病原菌が栄養を利用できるようになり、増殖を許してしまいます。

参考:『抗生物質とどう付き合ったら良いのでしょうか。

米国におけるがん患者への一般的な食事指導

がん患者への従来の栄養カウンセリングは、後期悪性腫瘍あるいは過酷な化学療法による食欲不振や悪液質にフォーカスされてきました。

註:悪液質は、脂肪組織と骨格筋の両方が消耗する病態

しかし、現代のがん患者は、痩せすぎることを心配するよりも、肥満あるいは肥満症であることの方が多いのです。それに現代のがん標的療法と免疫療法が、体重減少を起こすことはありません。

特定のがんの原因や症状、あるいは治療に影響する食品を除いて、米国では、がん患者は現在一般的に、治療前、治療中、および治療後において、がん予防のための食事法を行うことを指示されます。

  • 主に食物繊維豊富な植物性食品(全粒穀物、野菜、果物、豆類)を食べ
  • 加工食品、赤肉(四つ足動物の肉)、加工肉(ハム・ソーセージなど)、砂糖、アルコールは制限されます。

特に、サプリメントは控えるよう言われます。

食事指導の効果はあるが、まちまち

統一食事評価を用いた無作為臨床試験は、こうした食事が、治療中の患者の症状の改善に貢献している可能性を示していますが、食事内容と改善度合いの関係に一貫性がないという介入試験による結果も報告されています。

また、現代のがん標的療法と免疫療法のどちらも、患者による効果にばらつきが大きく、確実性がありません。そのため、結果をもっと確実にするためにはどうしたらいいのか?が課題となるのです。

がん治療を開始した患者への腫瘍学者からの食事アドバイスは、その栄養素の生物学的影響そして治療への反応性を示すデータの強さによって決まります。

参考:『なぜ薬が効く人と効かない人がいるのか?

腸内細菌の顔ぶれが治療効果を左右

腸内細菌が、がん治療の効果に影響しているという事例報告が増加しています。そのため、がん患者のための栄養研究の新たな優先項目として、腸内細菌の修正方法の解明が浮上しています。

様々なタイプのがん治療への腸内細菌の反応と毒性との関係を示した最近の研究の中で最も革命的だった研究は、ジェームズ・アリソン博士と本庶佑(ほんじょう たすく)博士が2018年のノーベル医学賞を受賞した革命的ながんの治療法、免疫チェックポイント阻害剤の効果に腸内細菌が影響していることを示した研究ではないでしょうか。食事-腸内細菌-がんの相互作用の研究に新たな視点を与えることとなりました。

複数の独立したコホート研究が実施され、腸内細菌の顔ぶれが免疫療法の効果と強く関係していることを示しました。特記すべきことは、前臨床モデル(動物実験)においては、腸内細菌の変化が、治療効果を決定していたのです。

食事療法は、腸内細菌を治療効果が高まる構成へ修正できるのか

腸内細菌の顔ぶれを修正する上で、食事が果たす役割の重要性を考えると、明らかにすべき課題は次のとおりです。

  1. それぞれの患者において、食事、腸内細菌、そして免疫機能がどのように関係しあっているのか
  2. 食事療法によって、治療効果を高める腸内細菌の顔ぶれに修正できるのか

様々な病気を予防したり、治療するために、食事療法によって腸内細菌を修正することは可能であるという確信はあります。しかし、食品の栄養素がどのように共生関係を調整しているのかといった仕組みについては、ほとんどわかっていません。

例えば、特定の細菌(ヘリコバクター・ピロリやフソバクテリウム・ヌクレアタムなど)は、消化器官のがんの原因菌とされていますが、食事との関連性は、実はかなり微妙です。

参考:『腸内細菌の構成は、遺伝(変えられない)と食事(変えられる)のどっちで決まる?
ピロリ菌は病原菌ではなく共生細菌

全体は部分の総和よりも大きい

食品成分の多様性とその相互作用と同様に、それが腸内細菌となると、全体は、その部分の総和よりも更に大きいように思われます。

(ソフィアウッズ・コメント: ザッツ・ホリスティック!)

一部の腸内細菌は特殊な代謝能力を持っていますが、細菌達はお互いに依存し合ってもいます。だから、

食品の可能性を解き放つ正しい新しい方程式が必要なのです。

集団としての腸内細菌達の代謝活動は、食事の変化に対して頑なであるように思われます。控えめに言っても、誰にでも当てはまる予測可能な、あるいは、持続可能な目標値と効果を定めることは現状では困難です。

食事と腸内細菌の相互作用を理解するということは、誰がそこにいて何をしているのか、食事変化に対する宿主の反応性等を多面的に理解することであり、最終的な健康への影響を理解する上で不可欠です。

(ソフィアウッズ・コメント:それって統合食養学のバイオ個性のことでしょう!)

参考:『バクテリア・コミュニケーション

個別化医療の効果的なツールとして

食事と腸内細菌は、個別にあるいは融合して、ある疾患の原因の診断、そしてまた、予後の管理のためにも利用できる可能性があります。

それは、非常に身近な方法で、個別化医療を効果的に変革できる可能性に光をあてます。

今後の腸内細菌の研究に求められること

  • それが私達皆が待ち望んでいたバイオマーカーとして利用可能になること、
  • がん予防、がん患者、がんサバイバーに対して、エビデンスベースの食事提案を可能にすること、そして、
  • そのために必要な研究の精緻化や質の向上がなされることです。

栄養素が全身代謝を通して健康へ幅広い影響をもっていることは分かっているものの、宿主の代謝が腫瘍の代謝、そして治療効果に与える潜在的な影響については、認識され始めたばかりです。

病気分野(がん、循環器疾患、肝臓疾患、および腎臓疾患)ごとに行われている食事と腸内細菌の研究が科学コミュニティに役立つ可能性は低いでしょう。

分野を超えた研究への投資と共同研究のプラットフォームが、広範囲な進捗を促すためには不可欠です。食事と腸内細菌の相互作用への高い知見は、病気治療のための、あるいは、もっと説得力のある情報を人々に提供するための公共財産となり得るのです。

原典:“Nutrition and Cancer in the Microbiome Era”, Carrie R. Daniel,  Jennifer L. McQuade, SCIENCE & SOCIETY| VOLUME 5, ISSUE 9, P521-524, SEPTEMBER 01, 2019, DOI:https://doi.org/10.1016/j.trecan.2019.07.003

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