バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
- 1 ワクチンと腸内細菌のこと
- 2 私達の免疫力に大きく影響するマイクロバイオータって何者?
- 3 マイクロバイオータとヒトとの絆が形成される過程
- 4 乳児時の抗生物質の影響とワクチン
- 5 マイクロバイオータの免疫機能への影響
- 6 ワクチンによる免疫反応とマイクロバイオータ
- 7 ワクチン効果の個人差は非常に大きい
- 8 腸内マイクロバイオータがワクチン効果を高める
- 9 プロビオティクスのサプリメントは効果があるのか?
- 10 抗生物質はワクチン効果を高めるのか弱めるのか?
- 11 これからの新しいワクチンに期待すること
- 12 ワクチン接種までに私達がやっておくべきこと
- 13 22年10月追記:コロナウイルスと腸内細菌との関係が明らかに
- 14 ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
ワクチンと腸内細菌のこと
ワクチンによって起こる免疫反応には、大きな個人差が存在することは連日の報道によって、多くの人が今では知っていることかもしれません。
個人差を生む原因と考えられる要因は膨大ですが、近年、腸内細菌が、ワクチンに対する免疫反応の現れ方に大きく影響しているという証拠(エビデンス)が蓄積されてきています。
ワクチンによる免疫反応と腸内細菌との因果関係を示すエビデンスの多くは、マウスを用いた研究からもたらされ、これまでヒトを対象とした研究は十分ではありませんでした。
しかし、広域抗生物質を投与された患者にワクチンを接種した臨床研究によって、ヒトにおいてもワクチンによる免疫反応と腸内細菌との間に因果関係が存在すること、そして、腸内細菌が免疫反応をコントロールするメカニズムについても示唆が得られたことがサイエンス誌『ネイチャー』によるレビューに掲載されていました。
註: 広域抗生物質|グラム陽性菌とグラム陰性菌の2つの主要な細菌群に作用する抗生物質、または広範囲の疾患を引き起こす細菌に対して作用する抗生物質
インフルエンザ・ワクチンについてもふれられており、ワクチン接種の是非について悩んでいる人も多いと思われるため、その骨子を和訳要約してお伝えすることにします。
ただし、今回も元の論文が非常に長かったので私の興味をひいたところだけですけどね(笑、それでも長くなっちゃいました)全文を読まれたい方は、元の論文(英語)を最後に参考文献としてリンクを掲載していますので、そちらをお読みください。
私達の免疫力に大きく影響するマイクロバイオータって何者?
私達ヒトは、マイクロバイオータとして知られる何兆個もの多様な微生物と共生しています。(マイクロバイオータについては、『バクテリア・コミュニケーション』をご参照ください。)
日本では、腸内フローラという言葉が広く知られていますが、腸内だけではなく、体全体、例えば皮膚の上にも口の中にも胃も耳も、体の全ての部位に多様な微生物達が私達と共生しています。そうした微生物・共生細菌は総称して、マイクロバイオームまたはマイクロバイオータと呼ばれます。
この2つの言葉は、しばしば同じ意味で使用されますが、マイクロバイオームは微生物のゲノム、マイクロバイオータは微生物そのものを指します。
私達と共生している微生物(マイクロバイオータ)に含まれるものには、バクテリアだけでなく、ウイルス、真菌、原生生物、古細菌もいます。
マイクロバイオータは、私達のために
- 粘膜免疫の制御
- 栄養素の分解
- 病原体のコロニー形成の防止
など、幅広く、かつ、不可欠で有益な役割を果たしてくれています。
マイクロバイオータとヒトとの絆が形成される過程
ヒトは、誕生した途端に、子宮外の世界に適応する必要性から、急速な変化に巻き込まれます。産道を通る最初のストレスに続いて、皮膚表面に付着してくる大気中の細菌、呼吸の開始とともに肺に侵入してくる外来粒子、母乳という食べ物から送られてくる様々な外来抗原、そうしたもの全てに私達の免疫システムは対処していかなくてはなりません。
私達のマイクロバイオータも、私達の誕生と共に私達の体に棲みつき、1歳になる頃までにコロニーを形成します。そして私達の一生において、無くてはならないパートナーとして共生関係を築きます。
乳児時の抗生物質の影響とワクチン
新生児の免疫機能の発達は、様々な子供で様々なスピードで進み、出産方法、早産、食事などの要因の影響を受けます。詳しくは『赤ちゃんと共生細菌 – 分娩と授乳方法は健康と性格に影響する?』をご参照ください。
マイクロバイオータが十分なコロニーを形成するまでの期間は、まだ感染症にかかるリスクが高く、抗生物質の投与によって、まだ強固ではない発生したばかりのマイクロバイオータ達に大混乱をもたらす可能性があります。
生まれたばかりの赤ちゃんは、例えば日本では、1歳になるまでに最大で13もの異なる病原体に対するワクチンの接種を受けます。バクテリアやウイルスだけでなく、ワクチンに含まれているアルミニウム(神経毒)ベースの不活剤を含む、幅広い意味での、多種多様な免疫学的刺激に直面するのです。
実はこれらのワクチンは、広く使用されているにもかかわらず、予防接種によって誘発される子供たちの自然免疫および適応反応の分子的・細胞的な性質については、まだよくわかっていないのです。
一方で、抗生物質とワクチンが、公衆衛生を改善し、平均余命を驚異的に延ばしてきたことも事実です。
マイクロバイオータの免疫機能への影響
過去10年ほどの研究によって、マイクロバイオータが次のような、多様な生理学的プロセスに対して、大きな役割を果たしていることが明らかにされています。
- 代謝
- 心血管機能
- 中枢神経系機能
- アレルギー性疾患
- 自己免疫疾患
- 炎症性疾患に対する感受性
また、『腸内細菌時代の食事と病気(がん)を科学的に考える』で紹介した通り、マイクロバイオータは、がん免疫療法の有効性にも影響を与えます。また、医薬品と腸内細菌との関係については『なぜ薬が効く人と効かない人がいるのか?』もご参照ください。
つまり、マイクロバイオータの免疫機能への影響は科学的に立証されているのです。
ワクチンによる免疫反応とマイクロバイオータ
マイクロバイオータと免疫機能に因果関係があることを示す証拠が増えているにもかかわらず、ワクチン接種で起こる免疫反応とマイクロバイオータの関係は、まだよくわかっていません。
それだけでなく、ワクチン接種と抗生物質投与は、最も広く使用されている医療手段にも関わらず、驚くべきことに、ワクチンと抗生物質の相互作用についてもほとんど判っていないと研究者は述べています。
参考まで医薬品によるマイクロバイオータへの影響については『抗生物質だけでなく数多くの医薬品が腸内細菌にダメージを与えていることを権威ある業界誌が発表。薬品の真実について』をご参照ください。
1.腸内マイクロバイオータ
消化管に棲んでいるマイクロバイオータは、非常に多様でかつニッチなコロニーを形成しています。そして、主に小腸と大腸で、免疫B細胞、免疫T細胞、そして抗原提示細胞と一緒に働いています。
註:抗原提示細胞|免疫系に関わる血球。体内に侵入してきた細菌やウイルスに感染した細胞の断片を抗原として、自己の細胞表面上に提示して、免疫T細胞を活性化する細胞
マイクロバイオータは、腸内で次の物質などを造っています。
- 短鎖脂肪酸(SCFA)
- トリプトファン代謝物
- 細菌DNA
- ビタミンA
- スフィンゴ脂質
- 多糖類A
- ムラミルジペプチド
こうした物質の生体分子は腸の上皮内層を通って運搬されます。それを、腸粘膜(粘膜固有層)にいる免疫細胞が検知して、免疫システムを調整します。
腸内マイクロバイオータが作る物質に反応して腸内の免疫システムが変化するということは、マイクロバイオータは、自らが造る物質を使って、腸内免疫システムを調教していることを意味します。
最も一般的に使用されている、ポリオ、コレラ、腸チフス、ロタウイルスに対する経口ワクチンは、病原体を弱毒化したものですから、こうした病原体に対する免疫細胞の反応の大きさに、腸内マイクロバイオータが影響を与えている可能性があるというわけです。
2.皮膚マイクロバイオータ
腸内に比べたら、皮膚マイクロバイオータのコミュニティの多様性は低く、数も少ないです。でも、皮膚のマイクロバイオータも免疫細胞達とコミュニケーションをとっています。
皮膚から細菌が侵入すると、マクロファージとよばれる免疫細胞が炎症性物質を作り、それが伝達されて、自然免疫細胞のリンパ球が動員されます。
表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌の分泌物は、自然免疫を作動させる受容体(Toll様受容体)に結合して、免疫細胞の活動を抑制する働きがあることが判っています。
皮膚の上にいる病原菌に対する、私達の皮膚マイクロバイオータと免疫細胞との協働の良し悪しが免疫関連皮膚障害と関連していることが示されていることから、皮膚マイクロバイオータも、ワクチン接種による免疫反応に影響を与える可能性があると考えられています。
やっぱり手洗いの後はちゃんと保湿クリームを塗っておかないと、ですね。詳しくは『コロナ禍で、見過ごされがちな体の自衛システムとその高め方』をご覧ください。
3.気道マイクロバイオータ
肺は無菌だと長い間信じられてきましたが、新しい検出技術と細菌細胞培養の技術によって、腸内ほどの多様性は無いものの、管腔表面にもマイクロバイオータが棲んでいることが明らかになっています。
弱毒生インフルエンザ・ワクチンは、鼻から(鼻腔内経路で)投与できる唯一のワクチンです。
現在、新型コロナウイルスのワクチン開発が進められていますが、肺で効果的に作用するためには、適切な質と量の粘膜抗体反応と免疫T細胞の反応が必要になります。当然、気管支の粘膜反応には、肺のマイクロバイオータが影響していることを考慮すべきだと研究者は述べています。
実際、肺の形質細胞や組織に存在するメモリーT細胞(TRM)は、ワクチンに含まれている細菌に反応して、周囲の細胞にシグナルを出し、抗ウイルス反応を強化することが示されています。
註:形質細胞|細菌やウイルスが体内に侵入すると、一部の免疫B細胞が形質細胞に変化する
しかし、肺以外の他の体の部位においても同様の作用が起こるかについては、まだわかっていません。
4.全身における働き
マイクロバイオータは、棲んでいる臓器(部位)の免疫環境に影響を与えるだけでなく、コロニーから遠い部位の免疫反応にも影響を与えていると考えられています。
実際、遠い部位で造られた代謝物(免疫刺激物)が、骨髄、肝臓、腹膜、脾臓など、様々な組織で発見されています。脾臓と腸間膜リンパ節に届けられた細菌抗原は、細菌感染から全身を保護するように働くIgG抗体の産生を促します。
ワクチン効果の個人差は非常に大きい
1.ワクチンの効果には個人差が100倍
ワクチンの有効性は、同じ地域(国)に住む人達の間でも、大きく異なります。
季節性インフルエンザの不活化ワクチンの接種によって、インフルエンザウイルスの赤血球凝集素を阻害する効果は、同じ地域に住む個人間でも100倍以上の差があることが報告されています。
註:赤血球凝集素|インフルエンザウイルスの活動を効果的にする現象のひとつ
これまでに開発されたワクチンの中で、最も成功したワクチンの1つと言われる弱毒生黄熱ワクチン17Dですら、免疫細胞の反応の大きさには、10倍を超える個人差があると言われます。
2.地域差も大きい
ワクチン反応は、世界の様々な地域の間でも大きく異なっています。
例えば、
- BCGワクチンの結核菌感染予防効果は、0%から80%に及び、アフリカよりもヨーロッパでの効果が高いこと
- ポリオ、ロタウイルス、マラリア、黄熱病のワクチンは、欧米諸国よりも、アフリカやアジアにおいて予防効果が低いこと
が報告されています。
3.所得差も関係している
経口ワクチンに対する免疫反応は、高所得国と比較して低中所得国で低く、一貫性が低いという観察が繰り返されています。
経口ロタウイルス・ワクチンと経口ポリオワクチンは、歴史的に低中所得国での成績が悪く、新たに認可されたワクチンであるロタリックスとロタテックを用いた最近の研究でも、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの低中所得国で有効性が低いことが示されています。
低所得国における免疫効果の低さは、人々の栄養状態や病原体への過去の感染の有無、母親の抗体、結核やHIV、寄生虫などの慢性感染症がどれくらい社会に広がっているのかなど、さまざまな要因から影響を受けていると考えられています。
こうしたワクチン接種によって起こる免疫反応の地域差や個人差は、マイクロバイオータによって説明できることを示す証拠が増えています。
腸内マイクロバイオータがワクチン効果を高める
人種や文化を超えて特定の腸内マイクロバイオータが関与
ガーナ、パキスタン、バングラデシュで腸内マイクロバイオータとワクチン反応障害との関連性が調査されました。
経口ロタウイルス・ワクチンに反応した乳児と反応しなかった乳児では、腸内マイクロバイオータの構成が大きく異なり、反応した乳児の腸内マイクロバイオータの構成は、オランダの乳児のものに近かったことが報告されています。
つまり、人種や生活環境や食生活などの違いを超えて、ワクチンに反応するマイクロバイオータの種類(構成、バランス)は共通しているということになります。
ビフィズス菌が免疫反応を高め、抗体反応を持続する
また、乳児期初期に腸内ビフィズス菌の量が多いほど、経口ポリオワクチン、非経口BCGワクチン、破傷風ワクチン、B型肝炎ウイルスワクチンに対する免疫反応が高かったことが報告されています。
更に、ワクチン接種時のビフィズス菌の量が多いほど、ワクチン接種2年後においても抗体反応が高かったことが報告されており、免疫反応の持続性にもマイクロバイオータが関係していることが示唆されています。
またスイスでも研究が行われ、高所得国においても、マイクロバイオータの構成と非経口ワクチンの免疫効果に相関関係があることが示されています。
腸内環境が乱れている時のワクチン接種は危険かもしれない
マウスを用いた最新の研究は、腸内マイクロバイオータが乱れている時には、ワクチン接種によって起こる抗体反応に深刻な障害が起こることが示されています。
同じことが、ヒトに対しても言えるかどうかは不明のままです。
しかし、腸、肺、皮膚など体全体に広く分布しているマイクロバイオータは、棲んでいる部位(臓器)に直接影響を及ぼすだけでなく、離れた場所へも作用して、体全体への影響力をもっています。そのため、ワクチン接種によって起こる免疫反応に影響を与えている可能性を否定することはできないと研究者は述べています。
腸内環境が乱れているという自覚がある人は、ワクチン接種を受ける前に腸内環境を整える、あるいは、プロビオティクスのサプリメントをしばらく飲んでみると安心かもしれません。
2021年5月追記:炎症性腸炎で次の薬を処方されている人は要注意
ブリティッシュ・メディカルジャーナル(BMJ:英国医師会誌)に2021年4月に掲載された研究報告によれば、抗腫瘍壊死因子(TNFα)抗体製剤のインフリキシマブを使用している炎症性腸疾患(IBD)患者(865例)で、新型コロナウイルスワクチンの1回目の接種の後、抗体反応が減弱していることが報告されました。
ファイザー社とアストラゼネカ社のどちらのワクチンでも同じ結果となっています。
一方で、ベドリズマブを処方されていた患者(428例)では、そうした影響は起こらなかったとのことです。ベドリズマブは、インフリキシマブとは異なる作用機序で炎症反応を抑制するため、インフリキシマブまたは免疫調節薬による治療効果が不十分な時に処方される薬です。
研究者は、インフリキシマブを服用している患者は、1回目と2回目のワクチン接種の間隔を空けすぎないようにとの注意を促しています。
プロビオティクスのサプリメントは効果があるのか?
プロビオティクスは、健康を促進するために飲食する、食用の生きた菌のことです。ここでは、発酵食品などの食事による研究ではなく、サプリメントを用いた研究について述べられています。
1. 既に健全な腸内環境にとって、プロビオティクスのサプリメントによるプラスの効果はない
プロビオティクスを食べることによる、ワクチンの免疫効果を評価した研究がいくつかありますが、乳児を対象とした研究も成人を対象とした研究も、抗原の違い、プロビオティクスの菌株の違い、生活環境の違いなど様々な要因が複雑に絡み合い、因果関係を証明できるほどの一貫した結果が得られていません。
2. 腸内環境が乱れている時は、プロビオティクスのサプリメントによってワクチン効果が高まる可能性
一方で、無菌にした子豚と、プロビオティクスを与えた子豚において、経口ロタウイルス・ワクチン接種による免疫反応を比較した研究があります。プロビオティクスを与えれた子豚は、ワクチン接種によって抗体反応と免疫反応が強化されたことが報告されています。
これを解釈すると、プロビオティクスのサプリメントは、腸内のマイクロバイオータが乱れている時には効果が期待できるかもしれないが、腸内環境が既に健全な時には、少なくともワクチンの効果に対しては、特に一定のプラスの効果を示すわけではないということでしょうか。
抗生物質はワクチン効果を高めるのか弱めるのか?
1. 抗生物質による病原菌(バクテリア)の減少とワクチン効果は不明
インドの乳児に対して、経口ポリオワクチンへの免疫反応を改善するために、ワクチン接種前にアジスロマイシン(広域抗生物質)が与えられました。
抗生物質によって、環境性腸疾患と病原性腸内細菌(バクテリア)が減少したのにもかかわらず、ワクチンによる免疫反応の改善は見られませんでした。しかし、腸内ウイルス性感染症の減少とワクチンによる免疫反応の改善には相関がありました。
この研究は、ポリオワクチンの免疫効果は、抗生物質(バクテリアの減少)ではなく、ウイルスの減少によって高まることを示していますが、実験に使用された抗生物質の種類や期間によってワクチンの効果が変わる可能性は否定できず、バクテリアの関与を完全に排除することはできないとのことです。
2. 既存免疫がある場合|抗生物質による腸内細菌へのダメージからワクチン効果は影響を受けない
システム・ワクチン学のアプローチを活用し、ヒトへの抗生物質の投与によって起こる腸内マイクロバイオータの乱れが、ワクチン接種した時の免疫反応にどのような影響を与えるかを調査しています。
健康な成人は、
- 広域抗生物質(バンコマイシン、ネオマイシン、メトロニダゾール)を5日間投与され、かつ、
- 抗生物質を中止する前日に、季節性インフルエンザ・ワクチンが接種されます。
抗生物質の投与開始から3〜5日以内に、便1グラムあたりの腸内マイクロバイオータの数は10,000分の1に大幅に減少しました。その後、数日以内に元のレベル(数)に戻りましたが、多様性は長期にわたって減少しました。
腸内マイクロバイオータの劇的な変化にも関わらず、ワクチン接種後の中和抗体価(抗体の量や強さ)に有意な低下はありませんでした。
註:中和抗体|ウイルスの増殖能を阻害する感染防御抗体。感染後 1 週間ぐらいから上昇し、長期間持続。
抗生物質によって腸内マイクロバイオータが大きくダメージを受けたのにも関わらず、季節性インフルエンザ・ワクチンの免疫効果にほとんど影響が無かった理由は、ほとんどの人が、既に季節性インフルエンザに対する既存免疫を、実際に感染した経験や予防接種によって持っているからだと研究者は説明しています。
既存免疫は、免疫学的記憶によって、免疫防御がより迅速に激しく再始動するよう働くため、腸内マイクロバイオータからの助けを必要としていない可能性があるとのことです。
3. 既存免疫がない場合|抗生物質による腸内細菌へのダメージは重大な免疫障害となる可能性がある
私達の免疫細胞が今まで遭遇したことのない未知の病原体に対する免疫反応は、マイクロバイオータからのシグナルに、大きく依存する可能性があると述べています。
この仮説を検証するために、過去3年間にインフルエンザ・ワクチン接種または感染していない個人(ワクチン接種前のインフルエンザ抗体価(抗体の量と強さ)は著しく低い)を対象に2回目の臨床試験が実施されました。
抗生物質を投与された被験者は、
- H1N1型インフルエンザ株(ウイルス)に特異的なIgG1抗体力価とIgA抗体力価が大幅に低く
- H1N1型インフルエンザ株(ウイルス)を中和する能力が低下したことが示されました。
これは、既存免疫がない場合には、腸内マイクロバイオータのバランス失調(あるいは抗生物質の投与)が、季節性インフルエンザに対する抗体反応の重大な障害につながる可能性があることを示唆しています。
と、いうことは、新型コロナウイルスのように私達の誰も罹ったことのないウイルスに対しては、やっぱり腸内マイクロバイオータの果たす役割が重大だということになります。
ただし、日本人が新型コロナウイルスに対する交差免疫を持っていると考えられていることについては『NHKスペシャル「新型コロナ 全論文読解~AIで迫る 今知りたいこと」を観て』をご覧ください。
4. 高齢者と若年者の場合|ワクチン効果は得られるが、抗生物質による腸内細菌へのダメージによって炎症反応が起こる
更に健康な若年成人と高齢者に対して行われた他の研究では、抗生物質によって誘発された腸内マイクロバイオータのバランス失調が、内臓炎症を起こし、季節性インフルエンザ・ワクチン接種に対する免疫反応を変容させてしまうことが示されています。
科学的に立証されているマイクロバイオータの役割のひとつに、一次胆汁酸の二次胆汁酸への変換があります。二次胆汁酸には炎症反応(炎症性物質の活性)を抑制する働きがあり、減少すると炎症の兆候が体内に現れてきます。
抗生物質の投与によって、二次胆汁酸の濃度が1,000分の1に減少したことが報告されており、これは、マイクロバイオータが二次胆汁酸の量を調節していること、そしてその結果、ヒトの炎症反応をコントロールしていることを示唆していると研究者は述べています。
しかし興味深いことに、炎症の兆候、または二次胆汁酸の代謝物の変化は、インフルエンザ・ワクチン接種に対する抗体反応とは相関していませんでした。つまり抗体は増えるが、炎症は減らないということ。
新型コロナウイルスによる症状は、全身で起こる炎症反応だと言われていますから、症状を軽くするという側面からもマイクロバイオータを健全にしておくことが重要だと感じます。
これからの新しいワクチンに期待すること
- 個人の免疫状態に応じたワクチンの開発、あるいは、
- ワクチンの効果を高めるベースとなる腸内マイクロバイオームの構成の判明
- 構成に沿ったワクチンの選択など
が可能になれば、ワクチン接種はより効果的で安全なものになるように思います。
加えて、病原体の不活化の目的で一般的なワクチンに使用されている、アルミやチメロサール(水銀)やホルマリンなどの有害な添加物を使用せずにワクチン開発が行われることも重要ではないかと思います。サプリメントや食品と同様に、いくら素材がよくても、加工の過程で、好ましくない添加物が加えられてしまっては元も子もありません。
でも、ワクチン開発研究が始まって200年以上経ちますが、残念ながら、特定の病原体に対して、すべての人を完全に保護するワクチンの開発には至っていません。
理想は少し横においておくとして、現実に目を向けて
ワクチン接種までに私達がやっておくべきこと
新型コロナウイルスのワクチンが開発され、安全性が確認され、広く接種されるようになるまでには、まだ間があります。
今回の「ネイチャー」のレビューを読んであらためて思ったのは、
今のうちに、腸内環境を整えて、
腸内を良いビフィズス菌で満たし、
腸内マイクロバイオータのバランスを正常化しておくこと
それが、ワクチンによる思わぬ副作用を避け、ワクチン効果を高め、抗体効果を長く継続させるためにも、今、私達ができる最大の策ではないかと思うのです。
2021年5月追記:
そして禁煙
2021年4月のブリティッシュ・メディカルジャーナルに掲載されていた研究報告は、喫煙もワクチン接種後の抗体価を低下させると報告しています。
ワクチン接種が始まった今更禁煙しても遅いと思う人もいるかもしれませんが、それでもやらないよりやった方が良いのは確実です。
22年10月追記:コロナウイルスと腸内細菌との関係が明らかに
2022年10月11日に東京医科大学が『ヒト腸内細菌と代謝物質を介した免疫応答が新型コロナウイルス感染症および合併症に与える影響を発見』したとの発表を行いました。
個人が有する腸内細菌の割合や代謝物質の濃度がCOVID-19合併症の発症リスクに関係することを証明しました。COVID-19で影響する菌種は、糖尿病、炎症性腸疾患、PPIとは異なり、関節リウマチとは類似しているのだそうです。
やはり、腸内環境は、ワクチンによる副作用だけでなく、コロナへの感染のしやすさや重篤化しやすさとも関係が深いのですね。
参考:
『腸内細菌の構成は、遺伝(変えられない)と食事(変えられる)のどっちで決まる?』
『抗生物質とどう付き合ったら良いのでしょうか』
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
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参考文献:
- “The Impact of the Microbiome on Immunity to Vaccination in Humans”, Sanne E. de Jong, Axel Olin, Bali Pulendran, REVIEW| VOLUME 28, ISSUE 2, P169-179, Cell Host Microbe, AUGUST 12, 2020, DOI:https://doi.org/10.1016/j.chom.2020.06.014
- “Infliximab is associated with attenuated immunogenicity to BNT162b2 and ChAdOx1 nCoV-19 SARS-CoV-2 vaccines in patients with IBD”, Kennedy NA, Lin S, Goodhand JR, et al, Gut Published Online First: 26 April 2021. doi: 10.1136/gutjnl-2021-324789
- 「ヒト腸内細菌と代謝物質を介した免疫応答が新型コロナウイルス感染症および合併症に与える影響を発見」、東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコ株式会社、2022年10月11日
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