がん予防・治療をサポートする食事の構成(1)|がん細胞と免疫細胞の栄養争奪戦

2023/10/10/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

心と体をつなぐホリスティックな食事法について、
ニュースレター登録者限定のキャンペーン情報等も配信しています。
ご登録は、こちらから
もれなく統合食養学ホリスティック栄養学冊子が無料ダウンロードできます

がんの食事療法に関する最新研究

がん細胞も、免疫細胞も、通常細胞も、細胞が正常に機能するためには、栄養補給が不可欠です。

がん細胞が生息している周辺組織(がん細胞の縄張り)を腫瘍微小環境と呼びます。その栄養状況は、正常な組織とは異なります。がん細胞の縄張り内で活動する免疫細胞は、がん細胞と戦うために特殊な機能(エフェクター機能)を活性化させなくてはなりません。がん細胞の縄張り内の栄養環境に適応しなくてはならないのです。

がん細胞の縄張り内で免疫細胞が利用できる栄養素の種類と量や、免疫細胞とがん細胞の間の栄養争奪戦と、食事によってその戦況がどのように変化するのかについて、科学専門誌『細胞(Cell)』に最新の研究情報を記載した論文が掲載されていました。

現在までに明らかにされている、どの食事、どの栄養素が、がんに対する特殊な免疫反応を高めることができるのか、あるいは、阻害してしまうのか、和訳要約してお伝えします。

なお、裏付けとなる論文は、最後に参考文献として掲載しています。ただし、この論文中で引用されている研究については、元の論文の索引をご確認ください。

また、がん細胞がどの様に縄張りを広げていくのか、縄張りを獲得するまでの栄養補給などについては『がん細胞の協力者を体内に作ってしまう仕組みとそうさせない方法』をご確認ください。

がん細胞の縄張り内の栄養環境

免疫細胞は栄養素を感知すると、その栄養素を吸収するだけでなく、再利用したり、脂肪酸やアミノ酸などの栄養素を新たに合成する能力をもっています。一方で、こうした正常な恒常性が保たれている体内の循環や組織と比べて、がん細胞の縄張り内では、栄養素の利用の仕方が異なります。

縄張りは独特な栄養パターンをもっています。例えば、がん細胞は、正常細胞と比べて、ブドウ糖やグルタミンを大量に消費します。グルタミンは、ヒトの体内で合成することができるアミノ酸です。インスリンの分泌を刺激することなく、ブドウ糖に変換されます

成長するがん細胞の縄張り内で活動する免疫細胞は、特殊な栄養環境でも機能できるよう、必要な能力を備えています。例えば、多くのがん細胞はブドウ糖の消費量が大きく、縄張り内のブドウ糖は不足しています。そのため、そこにいる免疫細胞は、ブドウ糖が少ない環境でも機能できるように特化します。

その他にも、血液と比較して、がん細胞の縄張りには、次の栄養素の濃度が低いことが判明しています。つまり、がん細胞がこれらの栄養素を大量に消費していることを示す証拠です。

  • ピルビン酸|ブドウ糖・脂質・アミノ酸の生合成と代謝に関与している物質
  • アルギニン(アミノ酸)

また、正常細胞と比べて、さまざまな種類のヒトのがん細胞が共通して好む代謝産物は、次の3つです。

  • 乳酸
  • カルニチン
  • キヌレニン

通常細胞の代謝によって発生する乳酸などの老廃物をがん細胞は栄養素として活用できます。ただし、消費量は、がん細胞の種類ごとに異なります。(がん細胞と乳酸の関係については『乳酸シャトル』をご参照ください。)

一方で、乳酸は、免疫細胞が特化したエフェクターT細胞の反応を抑制して、T細胞の働きにブレーキをかけるT-reg細胞の機能を助け、がん細胞の増殖を促してしまうことが解っています。

また、次の栄養素は、がん細胞の縄張りに豊富にあることが判明しています。

  • グルタミン酸(アミノ酸)
  • アスパラギン酸(アミノ酸)
  • グリシン(アミノ酸)
  • 遊離脂肪酸
  • アシルカルニチン
  • セラミド
  • エステル化コレステロール

免疫細胞に必要な栄養素

近年、免疫細胞の代謝の仕組みが急速に判明し、がんの種類、ステージ、解剖学的位置によって、がん細胞の縄張りで活動する免疫細胞の顔ぶれが異なり、異なる免疫細胞には、異なる栄養素が必要だということが明らかになっています。

例えば、次の免疫細胞が、それぞれ好む栄養素です。

  • Th1細胞・・・ブドウ糖
  • Th17細胞・・・グルタミン(アミノ酸)
  • T-reg細胞・・・ 酸化脂肪酸

グルタミンとグルタミン酸

ちなみに、グルタミンとグルタミン酸の両方ともアミノ酸です。名前が似ているので紛らわしいですが、異なる物質です。

グルタミン酸は体内で合成できない、食事から摂らなければ得られない必須アミノ酸です。抗酸化物質のグルタチオンやGABAの材料になります。(上の画像を参照)

一方、グルタミンは、食事からもとれますが、グルタミン酸から体内で合成されるアミノ酸です。そのため厚生労働省のデータベースに登録がありません。

タンパク質の維持や腸の機能をサポートしています。

がん細胞の縄張り内での栄養争奪戦

がん細胞が必要とする栄養素の構成は、発生した解剖学的な位置(原発地)、遺伝子変異、ステージによって異なります。しかし、多くの場合、免疫細胞が必要とする栄養素と同じです。そのため、縄張り内にいる免疫細胞は、自らの成長と生存のために、がん細胞と栄養素の獲得競争をしています。

ブドウ糖

がん細胞はブドウ糖を大量に消費します。そして、がん細胞と戦う免疫機能に重要な役割を果たしている、エフェクターCD4細胞とCD8・T細胞のどちらも、がん細胞を殺す細胞毒性を発揮するためにブドウ糖を必要とします。

そのため、がん細胞が縄張り内のブドウ糖を大量に消費してしまうと、免疫細胞は細胞毒性を発揮できなくなってしまいます。CD8・T細胞は、機能を維持するために、がん細胞がブドウ糖を囲い込み、ブドウ糖が利用できない状況になると、利用する栄養素をブドウ糖から脂肪酸に切り替えて対応します。

しかし、多様ながん細胞を用いた最近の研究は、必ずしもがん細胞がブドウ糖を最も多く消費しているわけではないことを明らかにしています。ブドウ糖を多く利用する細胞トップ3は次の順番です。

  1. 骨髄細胞
  2. がん細胞
  3. 免疫T細胞

では、がん細胞が、最も多く消費している栄養素は、何か?

グルタミン

それは、グルタミンだということも明らかになっています。

グルタミンの利用が阻害された時、がん細胞はブドウ糖を利用するようになります。がん細胞のブドウ糖の消費量は、利用できるグルタミンの量によって決まります。だから、がん細胞がグルタミンを優先的に使ってくれれば、免疫機能が利用できるブドウ糖の量が増加すると考えられます。

実際、乳がんE0771細胞を対象とした研究では、乳がん細胞の縄張り内のグルタミンを減少させると、がん細胞の増殖が抑制され、CD8・T細胞の反応が強化されたことが観察されています。

ただ、CD8・T細胞もグルタミンを大量に利用するため、グルタミンを巡っても、がん細胞と免疫細胞の争奪戦は起こります。

グルタミンやグルタミン酸の多い食品を食べることで、免疫細胞が活用できるブドウ糖の量が増え免疫細胞を助けることになるものの、がん細胞の増殖も促してしまうため、バランスが難しいですね。

脂質

脂質も 縄張り内の主要な栄養素です。がん細胞の増殖を助ける栄養素ですしかし、免疫細胞にとっては、逆効果の栄養素です。

脂質が、CD8・T細胞の機能を抑制することが複数の研究によって報告されています。がん細胞の縄張り内が高コレステロールになると、CD8・T細胞のエフェクター機能が抑制され、疲弊します。

がんと診断された人は、食事から、極力、脂質を減らすことが重要です。

血管との距離

がん細胞と血管との距離も、縄張り内の栄養環境に大きな影響をもっています。そして、がん細胞と血管との距離は、がん細胞だけでなく、免疫細胞への栄養供給のあり方にも影響します。

血管に近いほど酸素と栄養の供給を受けやすいため、がん細胞は、縄張りを急速に拡大させるために、血管新生(新しい血管の構築)を行います。

低酸素下のがん細胞

血管新生前の、血管から遠い場所にあるがん細胞の縄張り内の酸素濃度は、大抵、低く、低酸素環境で活動するためにがん細胞は、より多くのブドウ糖を必要とします。(なお、これをワーブルグ効果と呼びますが、詳しくは『ローズマリー』をご確認ください。)

低酸素下の免疫細胞

低酸素下の免疫細胞は、グルコーストランスポーター1(ブドウ糖を運ぶタンパク質)を利用してブドウ糖を獲得します。

更に、低酸素で、かつ、低ブドウ糖の環境でも、CD8・T細胞は脂肪酸異化作用を強化することで、細胞毒性を強化できることが観察されています。ただし、この適応によって、CD8・T細胞は疲弊してしまうので、長期的な抗がん免疫機能の維持にとっては、最適な方法では無いことも判明しています。

原発地

また、マウスを用いた研究で、栄養素の構成は、がんが発生した解剖学的な位置(原発地)によっても異なることが示され、がん細胞の大きさではなく、発生した場所によって、利用する栄養素が異なると考えられています。

例えば、卵巣がんなどによって発生する腹水には、当初、栄養が欠乏していると考えられていました。しかし、卵巣は腸に近いためか、ブドウ糖などの栄養素の欠乏はないことが判明しています。

そして、がん細胞の縄張りの場所ごとに対応した特殊な免疫集団が存在していることも発見されています。

がん細胞と食事

食事は、体全体の栄養状態と体内で造られる代謝産物の種類に大きな影響力をもっています。

当然、がん細胞の成長にも影響します。実際、がんによる死亡の約20%は、食事に起因すると考えられています。食事を改善することによって、体の健康とがん細胞に対する免疫反応を大きく改善できる可能性があるのです。

しかし、食事とがんに関する情報は混とんとしていて、矛盾していることがよくあります。

>>『がん予防・治療をサポートする食事の構成(2)|炭水化物・脂質・タンパク質

ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス

私たちは、がんと診断されても食事はするのです。治療を受けている間も食事はします。

そして、その食事は、がんを弱体化させ、免疫力を高めるものであるべきです。あなたが選択した治療を後押しするものであるべきです。

そのためにも、怪しい健康食品やサプリメントではなく、科学的に裏付けられた食事法を取り入れていただけたら幸いです。そして、もし、おひとりで取り組むことに難しさや不安を感じるのでしたら、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?

公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。

ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?

プライベート・ヘルスコーチング・プログラムについて
お気軽にご相談ください。
初回相談を無料でお受けしています。

あるいは、ソフィアウッズ・インスティテュートのマインド・ボディ・メディシン講座セルフドクターコースで学びませんか?セルフドクターコースでは、あなたが食を通してご自身の主治医(セルフドクター)になるために、必要な知識とスキルを教えています。

新学期は、毎年3月と9月です。講座でお会いしましょう。

心と体をつないで健康と幸せを手に入れる
ニュースレターのご登録は、こちらから
統合食養学(ホリスティック栄養学)冊子が無料ダウンロードできます

ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング