母乳オリゴ糖でアレルギーは予防改善できるのか?(1)母乳オリゴ糖の効果の仕組み

2023/10/31/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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アレルギーの人が増えている

幼少期に、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどを発症する子供の数は、近年、大幅に増加しています。

世界アレルギー機構(World Allergy Organization)によれば、世界でアレルギーを持っている人の割合は次の通りです。

  • 食物アレルギー・・・約2.5%
  • 花粉症・・・国と地域によって異なるものの、約15%~40%

「世界人口白書2023」によれば、2023年の世界人口は80億4500万人だそうですから、食物アレルギーを持っている人は、2億112万5,000人もいることになりますね。日本の人口の2倍くらいというのは、ビックリです。

世界中の子供では、次のアレルギー疾患の割合が増加傾向にあることが報告されています。

  • アトピー性皮膚炎・・・約20%(5人にひとり)
  • 喘息・・・約8~10%
  • 食物アレルギー・・・約10%

でも残念なことに、現状の医療ではアレルギーを予防する手段は限られています。アレルギーを発症した後で、症状を改善したり、治療したりすることに重点が置かれています。

また、アレルギー疾患には多くの原因が関与しているため、全てのアレルギーを改善させるための万能薬や単一の治療法が現在無いことも大きな課題です。

母乳オリゴ糖のアレルギー予防効果

最近の疫学研究によって、母乳に含まれているオリゴ糖が、幼少期のアレルギーの発症を予防できる(アレルギー感受性を改善できる)ことが示めされています。

サイエンス誌「ネイチャー」に発表された母乳オリゴ糖に関する最新の研究について和訳要約してお伝えします。まずは、母乳オリゴ糖がアレルギーの予防と発症にどのように関係しているのか、現在までに判っている母乳オリゴ糖そのものの効果についての仕組みをお伝えします。

なお、裏付けとなる研究論文を参考文献として最後に一覧にしています。ただし、元の論文中で引用されている研究については、元の論文の索引をご参照ください。

腸内細菌のコロニー形成

最近の研究では、母乳オリゴ糖には直接的な免疫調節機能があることが示されています。

母乳オリゴ糖の約1~5%は腸で吸収され、腸管上皮を通過して血液循環に入ります。これらの母乳オリゴ糖は、免疫細胞上のグリカン受容体を介して免疫反応に直接影響を与えていると考えられています。

吸収されずに腸内に残った、95 ~ 99%の母乳オリゴ糖は、乳児期から幼少期にかけて、腸内で善玉菌がコロニーを形成する過程で、善玉菌の直接的な餌になるだけでなく、ビフィズス菌を中心とする腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸などの有益な代謝産物に造りかえられます

生後0〜3か月の健康な乳児(176人)を対象としたランダム化比較試験は、母乳オリゴ糖を含まない粉ミルクを与えられた乳児と比較して、母乳オリゴ糖を添加した粉ミルクを与えられた乳児の腸内細菌の組成が、母乳で育てられた乳児のものと近くなるなどの有益な変化が起ることを実証しています。

乳児期の腸内細菌は、誕生後1,000日間に構築される免疫機能のプログラミングと、その後のアレルギー予防にとって重要な役割を果たしています。

乳児の腸内細菌を混乱させる要因

一方で、次の要因は、乳児期の発展途上の腸内細菌を混乱させ、アレルギー感受性(アレルギーの発症しやすさ)を上昇させることが判明しています。

  • 帝王切開
  • 抗生物質の投与
  • 粉ミルクによる授乳

これらは、母親の意識や価値感などを変えることで、避けることができる可能性のある要因です。

ヘルパーT細胞をバランス

アレルギー反応は、ヘルパーT1細胞(Th1)とヘルパーT2細胞(Th2)のバランスだと考えられてきました。「Th2細胞の偏り」は、アレルギー発症の特徴です。

ただし近年では、Th2細胞だけでなく、複数の異種のT細胞、例えば、Th1、Th17、Th22、Tfh、Th9、制御性T細胞(Treg)などが、アレルギーの発症に、複雑に相互に影響しあっていることが確認されています。特に、制御性T細胞(Treg)は、過剰なTh2細胞の反応を抑制し、抗原に対する免疫寛容を高め、アレルギー反応をコントロールする極めて重要な役割を果たします。

試験管試験で、酸性母乳オリゴ糖が、Th1細胞とTh2細胞のバランスを直接変化させることが観察されています。

乳児期の腸内細菌の状態も、ヘルパーT細胞のバランスに影響を与えます。

例えば、獲得免疫がまだ発展途上の乳児期に、さまざまな要因(例えば、抗生物質の投与など)によって、T細胞のバランスが崩れると、Th2/Th17の二極化が起こり、制御性T細胞(Treg)の活性が低下して、アレルギー感受性が上昇します。

母乳オリゴ糖は、抗炎症性の制御性T細胞(Treg)を活性化し、「Th2細胞の偏り」を起こさない腸内細菌の定着を促すなど、腸内細菌をより予防的な構成にすることで、間接的にアレルギー感受性をコントロールしている可能性があります。

例えば、マウスの研究では、クロストリジウム菌属、ビフィズス菌属、乳酸菌属を経口あるいは胃内投与すると、「Th2細胞の偏り」が減少し、腸内で制御性T細胞(Treg)が増加し、抗炎症反応が起こることが示されています。また、イエダニまたは卵白アルブミンによって誘発された喘息をもつマウス、または、牛乳とピーナッツアレルギーを起こしたマウスを用いた研究によっても、乳酸菌が気道の炎症を軽減することが示されています。

誕生から3歳になるまで、乳児を追跡調査したメタゲノム研究は、Th2細胞とTh17細胞によって引き起こされる腸炎と免疫機能の調節不全に関係している要因は、次の2つであることを証明しています。

  • 腸内のビフィズス菌の減少
  • 母乳オリゴ糖を活用できる遺伝子(blon_2361、blon_2331)の欠如

ビフィズス菌の役割

画像出所: ヤクルト中央研究所

たくさんの種類があるビフィズス菌の中でも、ビフィズス菌インファンティスは、母乳オリゴ糖の全ての種類を活用できる遺伝子をもっていることが発見されています。

マウスにビフィズス菌インファンティスを与えると、糞便中のTh2細胞 とTh17細胞の濃度が減少し、インターフェロン(IFNβ)が増加することが観察されています。そのことから、アレルギー感受性にとって重要なヘルパーT細胞群(Th1、Th2、Th17)を、ビフィズス菌インファンティスはバランスさせることができると考えられています。

注目すべきことに、乳児の腸内細菌の構成は、住んでいる地理的な場所や、生育上の社会的経済状況によって変化することです。ビフィズス菌インファンティスは、経済発展途上国の乳児に多く存在していて、発展途上国の乳児のアレルギー発症率は、先進国と比較して非常に低いです。

これは、帝王切開による出産や抗生物質の投与などを伴う医療が発展途上国で少ないことや、食品添加物などを用いた超加工食品(コンビニフード、ファストフード、袋菓子など)が少ないこと、あるいは、経済的な理由で購入頻度が少ないこと、自然や動物との接触の機会が多いことなどが関係していると考えられます。

抗炎症反応の誘発

母乳オリゴ糖が、炎症性サイトカインが腸の上皮細胞から放出されることを直接的に阻害し、炎症を抑えることが実証されています。異なる母乳オリゴ糖が、異なる免疫学的経路に作用して、異なるサイトカインを阻害しています。

また、母乳オリゴ糖は、腸内細菌を介して、炎症関連遺伝子を制御し抗炎症反応を誘発することが示唆されています。

ビフィズス菌インファンティスとビフィズス菌ブレーベは、母乳オリゴ糖を与えると、ヒト大腸がん由来腸管上皮細胞と結合します。すると、アレルギー発症に関与していることが繰り返し報告されているケモカイン遺伝子の発現を阻害することが報告されています。一方で、乳糖とブドウ糖を与えても、遺伝子発現に影響は現れませんでした。(ただし、これは生体内で実証されていません。)

マスト細胞の活性を抑制

マスト細胞は、免疫B細胞(リンパ球)が造った抗体を受け取るための受容体を発生させます。その受容体が抗原を捉えると、抗原を排除するためにヒスタミンなどの炎症性物質を血液中に放出し、アレルギー反応を起こします。

母乳オリゴ糖は、マスト細胞の脱顆粒を直接阻害します。脱顆粒というのは、ヒスタミンなどの炎症性物質の放出のことです。

母乳オリゴ糖によって、Treg細胞がマスト細胞の活性を抑制し、T細胞がマスト細胞の脱顆粒を阻害したことが観察されています。これらの発見は、母乳オリゴ糖がアレルギーに関与する主要な免疫細胞に直接働きかけ、アレルギーの予防効果に寄与していることを示しています。

ただし、母乳オリゴ糖に接触したマスト細胞の脱顆粒だけが阻害されていることから、母乳オリゴ糖と接触する可能性が低い、消化管以外のところにいるマスト細胞の脱顆粒を阻止することはできません。

しかし、一方で、腸内細菌がマスト細胞の機能の成熟化にとって不可欠であることも明らかになっています。そのため、母乳オリゴ糖は腸内細菌を介して、間接的にマスト細胞の活性をコントロールしていると考えられています。

特に、乳酸菌ラムノサスなどの乳酸菌属は、マスト細胞の活性を抑制する働きがあることが分かっています。母乳オリゴ糖によって乳酸菌属は増えるので、母乳オリゴ糖を摂ることで、マスト細胞をコントロールする腸内細菌の定着を促し、アレルギー性炎症反応を軽減できると考えられています。

短鎖脂肪酸の増加

ビフィズス菌属、乳酸菌属、バクテロイデス菌属などの腸内細菌は、母乳オリゴ糖から酪酸、酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を造ります。

短鎖脂肪酸の有益な作用には、次のようなものがあります。

  • 腸管バリアの完全性の強化
  • 神経保護
  • 炎症の軽減

など

そして、これらの腸内細菌は、母乳オリゴ糖によって増加します。

糞便中の酪酸とプロピオン酸の濃度が高い子供は、6歳時点での喘息や食物アレルギーの発症が少ないことが示されています。なお、健康な乳児と比較して、アレルギーを発症した乳児は、炭水化物を酪酸に発酵させる酵素を造る遺伝子が欠如していることも示されています。

一方で、短鎖脂肪酸を直接的に食べることでアレルギーリスクが低下するかは、まだ、実証されていません。

腸管バリアの成熟

母乳オリゴ糖は、腸管上皮細胞のバリアを強化します。

腸の上皮バリアは、外部から抗原が侵入することを阻止し、特定の物質のみが血液中に入って全身を循環できるようにしています。

そのため、腸の上皮バリアが弱くなると、本来入り込むべきでない抗原がバリアを通過してしまい、例え無害なものでも、有害な抗原として認識されてしまいます。すると、IgE抗体が造られアレルギーを発症します。

上皮バリア機能不全と腸管透過性(リーキーガット)は、食物アレルギーの重要な特徴です。

母乳オリゴ糖は、腸粘膜(ムチン2 、MUC2)を刺激して粘液を増加させ、腸管上皮バリアの完全性を直接的に強化します。

また、腸内細菌が母乳オリゴ糖を発酵して造る短鎖脂肪酸は、腸粘膜から粘液の分泌を促し、タイトジャンクション・タンパク質などを増加させることができます。そのため、母乳オリゴ糖は、短鎖脂肪酸を介して間接的にも腸管上皮バリアの強化に貢献しているのです。

ただし、母乳オリゴ糖の中でも、β1-3グリコシド結合の3′-ガラクトシルラクトースは、腸管上皮細胞の損傷を効果的に予防できるものの、α1-3グリコシド結合の3′-ガラクトシルラクトースは、予防できないことが報告されています。

そのため、母乳オリゴ糖の種類によって、アレルギーの発症リスクをコントロールする免疫学的経路が異なるのではないかと考えられています。

なお、母乳オリゴ糖に類似した構造をもつガラクトオリゴ糖も、大腸がん細胞によって崩壊した腸管上皮バリアを回復できることが示されています。

なお、ムチン(腸粘膜)の機能については『ムチン糖鎖と病気との関係』をご確認ください。

>>『母乳オリゴ糖でアレルギーは予防・改善できるのか?(2)母親ができること

その他子供のアレルギーに関する記事

これまでにアレルギーと腸内細菌に関して執筆した記事は次の通りです。こちらも併せてご確認ください。

ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス

母乳オリゴ糖がもつ免疫に対する機能について、詳しくお伝えしました。母乳オリゴ糖が非常に魅力的に思えたのではないでしょうか。そして、これがサプリメントになっていたら良いのにと。

確かに、そう考える研究者も患者も多いのでしょう。合成母乳オリゴ糖のサプリメントの開発は着々と進んでいます。しかし、続きの『母乳オリゴ糖でアレルギーは予防・改善できるのか?(2)母親ができること』で明らかにされている通り、話はそれほど簡単なことではないのようです。

ただ、ひとつ確かなことは、アレルギーの予防にも改善にも、腸内環境が非常に重要だということです。もし、腸内環境の改善に向けて、おひとりで取り組むことに難しさや不安があるのでしたら、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?

公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。

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