バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
アレルギーの人が増えている
幼少期に、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどを発症する子供の数は、近年、大幅に増加しています。
世界アレルギー機構(World Allergy Organization)によれば、世界でアレルギーを持っている人の割合は次の通りです。
- 食物アレルギー・・・約2.5%
- 花粉症・・・国と地域によって異なるものの、約15%~40%
「世界人口白書2023」によれば、2023年の世界人口は80億4500万人だそうですから、食物アレルギーを持っている人は、2億112万5,000人もいることになりますね。日本の人口の2倍くらいというのは、ビックリです。
世界中の子供では、次のアレルギー疾患の割合が増加傾向にあることが報告されています。
- アトピー性皮膚炎・・・約20%(5人にひとり)
- 喘息・・・約8~10%
- 食物アレルギー・・・約10%
でも残念なことに、現状の医療では、アレルギーを予防することよりも、アレルギーを発症した後で、症状を改善したり治療したりすることに重点が置かれています。
また、アレルギー疾患には多くの原因が関与しているため、全てのアレルギーを改善させるための万能薬や単一の治療法が現在無いことも大きな課題です。
母乳オリゴ糖のアレルギー予防効果
最近の疫学研究によって、母乳に含まれているオリゴ糖(母乳オリゴ糖鎖)が、幼少期のアレルギーの発症を予防できる(アレルギー感受性を改善できる)ことが示めされています。
サイエンス誌「ネイチャー」に発表された母乳オリゴ糖に関する最新の研究について和訳要約して2回に分けてお伝えします。
第一回めの今回は、母乳オリゴ糖がアレルギーの予防と発症にどのように関係しているのか、現在までに判っている母乳オリゴ糖の機能についてお伝えします。第二回めは、この情報をどのように活用したら良いのか母親に向けた具体策をお伝えします。
なお、裏付けとなる研究論文を参考文献として最後に一覧にしています。ただし、元の論文中で引用されている研究については、元の論文の索引をご参照ください。
腸内細菌のコロニー形成
最近の研究によって、母乳オリゴ糖には直接的な免疫調節機能があることが示されています。
1. 免疫機能に直接影響
母乳オリゴ糖の約1~5%は腸で吸収され、腸管上皮を通して血液循環に入ります。
腸で吸収された母乳オリゴ糖(母乳オリゴ糖鎖)は、免疫細胞上のグリカン受容体(糖鎖と結合する受容体)と結合して、免疫機能に直接影響を与えると、考えられています。
2. 腸内善玉菌の餌(プレバイオティクス)
吸収されずに腸内に残った、95 ~ 99%の母乳オリゴ糖は、乳児期から幼少期にかけて、腸内でビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌がコロニーを形成する過程で直接的な餌になります。
3. 機能性物質の合成
更に、ビフィズス菌を中心とする善玉菌によって発酵され、短鎖脂肪酸などの有益な代謝産物に造りかえられます。
乳児の腸内環境の混乱要因
乳児期の腸内細菌は、誕生後1,000日間に構築される免疫機能のプログラミングと、その後のアレルギー予防にとって重要な役割を果たしています。
腸内環境がまだ発達途上の乳児期に、アレルギー感受性(アレルギーの発症しやすさ)を上昇させることが判明しているのは、次の要因です。
- 帝王切開
- 抗生物質の投与
- 粉ミルクによる授乳
これらは、母親の意識や価値感などを変えることや、母親に適切な情報を提供することによって、避けることができる可能性のある要因です。
例えば、生後0〜3か月の健康な乳児(176人)を対象としたランダム化比較試験は、母乳オリゴ糖を含まない粉ミルクを与えられた乳児と比較して、母乳オリゴ糖を添加した粉ミルクを与えられた乳児の腸内細菌の組成が、母乳で育てられた乳児のものと近くなるなどの有益な変化が起ることを実証しています。
腸内環境とT細胞のバランス
乳児期の腸内環境は、免疫 T 細胞のバランスに影響を与えます。
1. ヘルパーT2細胞とヘルパーT1細胞
アレルギーは、ヘルパーT1細胞(Th1)とヘルパーT2細胞(Th2)のバランスが重要だと考えられています。
アレルギー反応は、Th2細胞に偏ることで起こります。
2. 制御性T細胞(Treg)
近年では、Th2細胞だけでなく、複数の異種のT細胞、例えば、Th1、Th17、Th22、Tfh、Th9、制御性T細胞(Treg)などが、アレルギーの発症に、複雑に相互に影響しあっていることが確認されています。
特に、制御性T細胞(Treg)は、過剰なTh2細胞の反応を抑制し、抗原に対する免疫寛容を高め、アレルギー反応をコントロールする極めて重要な役割を果たします。
3. 腸内環境とT細胞バランス
実際、獲得免疫がまだ発達途上の乳児期に、さまざまな要因(例えば、抗生物質の投与など)によってT細胞のバランスが崩れると、Th2とTh17の二極化が起こり、制御性T細胞(Treg)の活性が低下してアレルギー感受性が上昇します。
乳児を誕生から3歳まで追跡調査したメタゲノム研究では、Th2細胞とTh17細胞によって引き起こされる腸炎と免疫機能の調節不全に次の2つの要因が関与していることを明らかにしています。
- 腸内のビフィズス菌の減少
- 母乳オリゴ糖を活用できる遺伝子(blon_2361、blon_2331)の欠如
母乳オリゴ糖と善玉菌の働き
試験管試験(細胞研究)では、酸性母乳オリゴ糖が、Th1細胞とTh2細胞のバランスを直接変化させることが観察されています。
母乳オリゴ糖は制御性T細胞(Treg)を活性化し、Th2細胞が増えすぎないよう、善玉菌の定着を促すなど腸内環境をより予防的な構成にします。そのことで、間接的にアレルギー感受性をコントロールしていると考えられています。
マウスを用いた研究では、次の菌を経口投与/胃内投与すると、Th2細胞の偏りが減少し、制御性T細胞(Treg)が増加し、アレルギーが予防されることが示されています。
- クロストリジウム菌属
- ビフィズス菌属
- 乳酸菌属
更に、イエダニ/卵白に対してアレルギー性喘息をもつマウス、または、牛乳/ピーナッツに対してアレルギーをもつマウスを用いた研究によっても、乳酸菌が気道の炎症を軽減することが示されています。
ビフィズス菌インファンティス
ビフィズス菌属の中でも、ビフィズス菌インファンティスは、母乳オリゴ糖鎖の全ての種類を活用できることが明らかにされています。
1. ヘルパーT細胞をバランス
マウスにビフィズス菌インファンティスを与えると、次の変化が観察されています。
- 糞便中のTh2細胞 とTh17細胞の濃度の減少
- インターフェロン(IFNβ)の増加
そのことから、ビフィズス菌インファンティスは、アレルギー感受性にとって重要なヘルパーT細胞群(Th1、Th2、Th17)をバランスさせることができると考えられています。
2. 途上国の子供に多く存在
注目すべきことに、乳児の腸内細菌の構成は、住んでいる地理的な場所や、生育上の社会的経済状況によって変化することです。
ビフィズス菌インファンティスは、経済発展途上国の乳児に多く存在していてます。実際、発展途上国の乳児のアレルギー発症率は、先進国と比較して非常に低いです。
これは、次の事情が関係していると考えられます。
- 帝王切開による出産や抗生物質を伴う医療が少ない
- 食品添加物などを用いた超加工食品が少ない
- 経済的な理由で加工食品の購入頻度が少ない
- 自然や動物との接触の機会が多い
- など
異なる母乳オリゴ糖鎖が異なる免疫経路に作用
母乳オリゴ糖鎖は、腸の上皮細胞から放出される炎症性サイトカインを抑制し、炎症を直接的に抑えることが実証されています。
そして、異なる母乳オリゴ糖鎖が、異なる免疫学的経路に作用し、異なるサイトカイン(炎症性物質)を阻害することが明らかになっています。
人の母乳には平均200以上の母乳糖鎖が含まれていると言われていますので、母乳/母乳オリゴ糖は、少なくとも200以上の免疫学的経路の正常化にとって重要だと言えます。
1. 炎症関連遺伝子を制御
母乳オリゴ糖は、腸内細菌を介して炎症反応に関連する遺伝子をコントロールし、炎症反応を予防することが示唆されています。
ビフィズス菌インファンティスとビフィズス菌ブレーベは、母乳オリゴ糖を与えると、ヒト大腸がん由来の腸管上皮細胞と結合し、アレルギーの発症に関与しているケモカイン遺伝子の発現を阻害することが観察されています。(ただし、これは生体内で実証されていません。)
マスト細胞の活性を抑制
マスト細胞は、アレルギー性の炎症性物質ヒスタミンを放出する細胞です。
ある物質が体にとって有害だと認識すると、免疫B細胞はその物質(抗原)に対して抗体を造ります。するとマスト細胞は、その抗体を受け取るためのグローブ(受容体)を発生させます。マスト細胞の受容体が、免疫B細胞が造った抗体を受け取ると、マスト細胞は抗原を排除するためにヒスタミンを血液中に放出します。
それがアレルギー反応です。
1. 直接的にヒスタミンを抑制
母乳オリゴ糖は、マスト細胞のヒスタミン放出を直接的に阻害します。
ただし、母乳オリゴ糖が阻害できるのは、母乳オリゴ糖と直接接触したマスト細胞のヒスタミン放出だけです。母乳オリゴ糖と接触する可能性が低い、消化管以外のところにいるマスト細胞がヒスタミンを放出することを阻害することはできません。
2. 間接的にヒスタミンを抑制
しかし、母乳オリゴ糖は、アレルギーに関与する主要な免疫細胞に働きかけ、間接的にアレルギー反応を予防していることが裏付けられています。母乳オリゴ糖が Treg細胞を活性化することでマスト細胞の活動が抑制されヒスタミンの放出が阻害されたことが観察されています。
例えば、乳酸菌ラムノサスなどの乳酸菌属は、マスト細胞の活動を抑制する働きがあることが分かっています。乳酸菌属は母乳オリゴ糖を餌に増殖するため、母乳オリゴ糖を食べることで、マスト細胞をコントロールする善玉菌の定着を促し、アレルギー反応を改善できると考えられています。
3. マスト細胞機能の成熟化
また、腸内の善玉菌は、マスト細胞の機能の成熟化にとって不可欠です。
母乳オリゴ糖は、腸内細菌を介してマスト細胞の成熟化に関与し、マスト細胞の適切な反応に影響力をもっていると考えられています。
短鎖脂肪酸の原料
ビフィズス菌属、乳酸菌属、バクテロイデス菌属などの善玉菌は、母乳オリゴ糖によって増加します。そして、母乳オリゴ糖から次の短鎖脂肪酸を造ります。
- 酪酸
- 酢酸
- プロピオン酸
- など
1. 短鎖脂肪酸がアレルギーを予防
短鎖脂肪酸には、次のような有益な作用があります。
- 腸管バリアの完全性の強化
- 神経保護
- 炎症の軽減
- など
糞便中の酪酸とプロピオン酸の濃度が高い子供は、6歳時点で、喘息や食物アレルギーの発症が少ないことが示されています。
なお、健康な乳児と比較して、アレルギーを発症した乳児は、炭水化物を酪酸に発酵させる酵素を造る遺伝子が欠如していることがあることも示されています。
2. 短鎖脂肪酸を食べる効果は不明
ただし、短鎖脂肪酸を直接的に食べる、例えば、酪酸やプロピオン酸のサプリメントなどを服用することでアレルギーリスクが低下するかは、まだ、実証されていません。
腸管バリアの成熟
母乳オリゴ糖は、腸管上皮細胞のバリアを強化します。
腸の上皮バリアは外部から抗原が侵入することを阻止し、特定の物質のみが血液中に入って全身を循環できるようにしています。
腸の上皮バリアが弱くなれば、本来入り込むべきでない抗原がバリアを通過してしまい、例え無害なものでも、有害な抗原として認識されるリスクが高まります。免疫細胞から有害な抗原と認識されれば、抗体(IgE抗体)が造られ、食物アレルギーが起こります。
上皮バリア機能の不全と腸管透過性(リーキーガット)は、食物アレルギーの重要な特徴です。
1. 直接的に腸粘膜を強化
母乳オリゴ糖は、腸粘膜(ムチン2 、MUC2)を刺激して粘液を増加させ、腸管上皮バリアの完全性を直接的に強化します。
2. 間接的に腸粘膜を強化
また、善玉菌が母乳オリゴ糖を発酵して造る短鎖脂肪酸には次の作用があります。
- 腸粘膜の粘液分泌の促進
- 腸壁の連続性にとって不可欠なタンパク質(タイトジャンクション・タンパク質)の増加
母乳オリゴ糖は、短鎖脂肪酸を介して間接的にも、腸管上皮バリアの強化に貢献しています。
3. 腸管上皮細胞の損傷予防
母乳オリゴ糖鎖にはさまざまな種類がありますが、腸管上皮細胞の損傷予防の効果に違いがあることが明らかにされています。
- β1-3グリコシド結合の3′-ガラクトシルラクトース・・・腸管上皮細胞の損傷予防効果あり
- α1-3グリコシド結合の3′-ガラクトシルラクトース・・・予防効果なし
母乳オリゴ糖鎖の種類によって、作用する免疫学的経路が異なることが示されています。
また、母乳オリゴ糖に類似した構造をもつガラクトオリゴ糖も、大腸がん細胞によって崩壊した腸管上皮バリアを回復できることが示されています。
なお、ムチン(腸粘膜)の詳しい機能については『ムチンの機能』をご確認ください。
>>『母乳オリゴ糖でアレルギーは予防・改善できるのか?(2)母親ができること』
その他子供のアレルギーに関する記事
これまでにアレルギーと腸内細菌に関して執筆した記事は次の通りです。こちらも併せてご確認ください。
- 『子供の食物アレルギーの原因と治療法の最新研究』
- 『赤ちゃんと共生細菌|分娩と授乳方法は健康と性格に影響するのか』
- 『炎症性腸疾患や大腸がんを予防改善する腸内細菌と腸粘膜の栄養戦略』
- 『母親の腸疾患で子が自閉症に』
- 『リーキーガットを起こす食品(グルテンじゃありません)』
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
母乳オリゴ糖がもつ免疫に対する機能について、詳しくお伝えしました。母乳オリゴ糖が非常に魅力的に思えたのではないでしょうか。そして、これがサプリメントになっていたら良いのにと。
確かに、そう考える研究者も患者も多いのでしょう。合成母乳オリゴ糖のサプリメントの開発は着々と進んでいます。しかし、続きの『母乳オリゴ糖でアレルギーは予防・改善できるのか?(2)母親ができること』で明らかにされている通り、話はそれほど簡単なことではないのようです。
ただ、ひとつ確かなことは、アレルギーの予防にも改善にも、腸内環境が非常に重要だということです。もし、腸内環境の改善に向けて、おひとりで取り組むことに難しさや不安があるのでしたら、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?
公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。
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参考文献:
- “Human milk oligosaccharides: potential therapeutic aids for allergic diseases”, Isabel Tarrant, B. Brett Finlay, VOLUME 44, ISSUE 8, P644-661, AUGUST 2023, July 11, 2023, DOI:https://doi.org/10.1016/j.it.2023.06.003
- World Allergy Organization
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング