バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
ウィンターブルース
冬になると気持ちが落ち込むという人いらっしゃいますか?
SADと呼ばれる季節性気分障害(Seasonal Affective Disorder)かもしれません。
SADは、クリスマスや年末年始などの寒い季節になると世界中の一部の人たちに現れやすくなる心の不調です。
ゆううつな気分のことを「ブルーな気分」と言いますが、「ウインターブルース」と呼ばれる寒い季節のブルーな気分もSADです。
SADは寒い季節に起こることが多い心の不調ですが、稀に夏や夏の終わりに現れることもあります。温かい季節に現れるSADについては、『夏季SAD』をご参照ください。
今回は、主に冬に起こる一般的なSADについてお伝えします。
SADの症状
特徴的な症状は、文字通りSAD=悲しい気分です。
具体的には、次のような症状が起こることが多いです。
- 毎日、1日中、無気力、もの悲しい、落ち込んでいる
- 今まで楽しんでいたことへの興味の喪失
- 元気がなく、怠惰な気分
- 惰眠/不眠
- 甘いもの衝動、過食、体重増加
- 集中力低下
- 頭痛、腹痛、その他の痛み
- 不安、いらだち
- 失望感、自己嫌悪、罪悪感
- 死にたいと感じる
ただし、ひとりひとり症状が異なります。また、同じひとりの人であっても、今日の症状と明日の症状が異なることもあります。
2年続いたらSAD
上記したSADの典型的な症状が2年以上繰り返して起こると「SAD」と診断されます。
例えば、今年、SADの症状が現れたとしても、昨年にはそのような症状がなかった場合には、SADと診断されません。来年もまた同じような症状が現れた時、初めてSADと診断されます。
SADの引き金となるもの
ある人たちにとっては、楽しくてしかたがないクリスマスシーズンや年末年始が、ある人たちにとっては心を沈ませることがあるのはなぜでしょうか。
次のような状況が、冬季SADの引き金となると考えられています。
- 過去の心を痛めた記憶
- 寒さによる体のこわばりや冷え
- イベントの準備をしなければならないというプレッシャーや面倒くささ
- 人混み
- 「楽しいはず、嬉しいはず」という空気感
- 皆が誰かと共に過ごす季節に、独りで過ごしている(孤立感・孤独感・隔絶感)
- など
韓国の釜山国立大学(Pusan National University)は、複数都市複数国共同研究ネットワーク(Multi-City Multi-Country Collaborative Research Network)のデータベースを用いて、1971年から2019年における26の国と地域の726都市/地域の自殺に関する情報を分析した結果を2024年に発表しています。
その結果、すべての国で月曜日は平日(月曜~金曜)の中では、自殺リスクがピークであること、ほとんどの国で元旦に自殺リスクが大幅に上昇することが示されています。そして、アジア諸国ではお正月の三が日の間、自殺リスクが高い状態が続くとのことです。
ちなみに、クリスマスと土日の自殺率は、国と地域によって傾向が異なることも示されています。クリスマスと土日のもつ意味合いが文化によって異なるからであろうとのことです。
SADが起こる原因
銃の引き金をひいたとしても、弾が込められていなければ、誰かが傷つくことはありません。SADも上記したような状況(引き金)が起きたとしても、根本的な原因(弾)がなければ発症しません。
楽しいイベントを楽しめる人と楽しめない人がいる、その違いはどこにあるのか・・。SADの根本原因の究明のために多くの研究が行われていますが、いまだこれといった一つの原因は発見されていません。ただ、原因ではないかと思われるいくつかの要因が見つかっています。
研究者は、原因はひとつだけではなく、複数の要因の相互作用としてSADが起こることがあると考えているようです。
日照時間の減少|赤道からの距離
赤道から離れた場所に住んでいるほど(北極や南極に近い地域に住んでいるほど)、SADを発症する確率が高くなることが明らかにされています。
赤道から離れている地域ほど、冬の日照時間が極端に短くなることが、SADが発症しやすくなるベースを作っていると考えられています。
確かに、北欧地域に住む人たちの自殺率は、南欧地域に住む人たちよりも高いことが、かなり昔から示されている事実です。
ちなみに、わたしが3年を暮らしたドイツの冬は、午後3時には真っ暗闇でした(笑)
日照時間の減少|体内環境の変化
日照時間の減少によって、体内環境が次のように変化することによって、SADが起こりやすくなると考えられています。
1. ビタミンD不足
ビタミンDは、紫外線による皮膚刺激によって腸内で造られるビタミンです。そのため、日照時間が短い冬には紫外線を浴びる機会が少ないため、体内のビタミンDが減少します。
夏に十分な紫外線を浴びて肝臓にビタミンDが貯蔵されていれば、冬にビタミンD不足になることはありませんが、近年、紫外線を極度に避けることが好まれていることもあり、冬にビタミンD不足に陥る人が増えている可能性があります。
ビタミンDは、天然の抗うつ剤のようなビタミンです。
ビタミンD不足とSADの発症との間には高い相関関係があります。
2. メラトニン過剰
メラトニンは、安らかな睡眠にとって大切なホルモンです。
日照時間の減少によって、脳の視床下部に変化が起き、脳の松果体に化学的なメッセージが送られ、体内時計(概日リズム)と関係している、セロトニン(覚醒のホルモン)とメラトニン(睡眠のホルモン)という2つのホルモンのバランスが崩れ、セロトニンに対してメラトニンが多く(メラトニンに対してセロトニンが少なく)なります。
セロトニンは、別名、幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質です。
そのため、メラトニンとセロトニンのバランスが崩れると、元気が失われ、さまざまなものごとに対して無関心になり、うつの症状が現れます。
この、体内時計の変化とSADの発症には高い相関関係があることが判っています。
3. セロトニン不足
セロトニンは、天然の抗うつホルモンです。
セロトニンの約2%は朝日を浴びることで脳内で分泌され、残りの90%はビタミンDによって腸内で合成されます。
日照不足になると、朝日を浴びる時間が遅くなることで脳でのセロトニンが不足しやすくなり、また、上でお伝えした通り体内のビタミンDが不足すれば、腸での合成が滞ります。
その結果、SADを発症しやすくなると考えられています。
腎機能・肝機能障害
食事から摂ったビタミンDも自前で造ったビタミンDも、腎臓と肝臓で変換されなければ体内で利用することはできません。
夏に適度な紫外線を浴びることで体内で造られたビタミンDは、肝臓に貯蔵され、冬の日照不足を補ってくれます。
腎機能や肝機能に問題があることで、ビタミンDを体内利用可能な形に変換できない、あるいは、貯蔵しておけないと、ビタミンD不足/欠乏に陥りやすくなり、そのことでSADが発症しやすくなると考えられます。
腸疾患/便秘/下痢
セロトニンの約9割は、腸内で造られます。
そのため、腸に疾患がある、あるいは、下痢や便秘など腸に不調がある場合には、セロトニンやビタミンDの合成が十分に行われない可能性があります。
女性である
SADを発症する人の約80%が女性です。
特に、20代で顕著な症状となって現れることが多く、その兆候は10代から見られます。
家族の既往歴
家族にSADまたは何らかのタイプのうつ病を発症した/している人がいると、あなたがSADを発症するリスクは、上昇します。
他の精神疾患をもっている
うつ病や双極性障害をもっている人は、SADを発症するリスクが高くなります。
特に、双極性障害のある人の中には、エピソードが特定の季節に関連していることがよくあります。たとえば、
- 春夏・・・躁状態あるいは、軽躁状態、不安、興奮、過敏症の症状が現れることが多い
- 秋冬・・・うつになることが多い
コルチゾール不足
夏と冬の唾液中のコルチゾールの量の日次推移を比較した研究があります。
コルチゾールは、ストレスからあなたの体を守るために分泌されるホルモンです。適度に分泌されれば、注意力や学習力、社交性を高める作用があります。ただし、過剰になるとストレス障害の原因となります。
この研究の被験者は52人と少ないため、この結果を以て一般論とすることは難しいのですが、SADのない人と比較して、SADがある人では、起床時にコルチゾールが増えないことが観察されています。
SADを改善する可能性のある方法
SADの予防と改善に役立つと考えられている方法にはいくつかあります。
しかし、SADの明確な根本原因が特定されていないため、科学的な裏付けや根拠はまだ十分とは言えません。
でも、とはいえ、もしかしたら、あなたのSADには効くかもしれませんので、ご紹介します。
逆半球への旅行
北半球に住んでいる人は、クリスマスや年末年始に南半球へ。南半球に住んでいる人は、8月の休暇に北半球へ。季節が逆になる地域に旅行することで、症状が楽になるかもしれないと考えられています。
気分が落ち込んでいるので、どこにも出かけたくないと感じるかもしれませんが、その気分がSADによるものなら、暖かく太陽の光が降り注ぐ場所で数日間過ごすだけで、心が楽になるかもしれないのです。
日照時間が短く寒くなる前に、暖かい場所への旅行を計画すると、冬の到来が苦手ではなくなるかもしれませんね。
日光浴
冬場の太陽光は、夏場の太陽光と比べて、ビタミンDを体内で造る力は圧倒的に弱いです。
でもだからと言って無駄にはなりません。ですから、できるだけ外出して、太陽の光を浴びることを心がけましょう。
ビタミンDとセロトニンの分泌を促す行動の具体例をいくつかご紹介します。
- ランチタイムに数分間、外出する
- できるだけ窓から自然光を取り込み、定期的に換気する
- 1時間ごとに2~3分間、体を動かす(立ち上がる、肩を伸ばす、歩き回るなど)
- リズミカルな運動をする(例えば、自転車をこぐ、フラダンス、散歩など)
- 規則正しい時間に食べる
- 白砂糖を使ったおやつを避ける
- 加工食品やインスタント食品ではなく「食事」をする
セロトニンは規則正しいリズムが好きです。規則正しい起床と就寝などの生活リズムが効果的です。また、次の記事も参考にしてくださいね。
SADの症状が毎年の冬に繰り返されるのなら、夏の間、過度に太陽を避けるのではなく、適度な日光浴を心がけ、自前のビタミンDを十分肝臓に蓄積させておくことをご検討ください。『日光浴のメリットとデメリット』も役に立つと思いますよ。
光療法
人工的な光を浴びることによって、SADの症状を軽くするための治療法です。
毎朝約30~60分間、人工光を放つ装置の近くで過ごすという簡単な方法です。
ただし、有効性について、明確な確証はまだありません。
ミネラル豊富な食事をする
情緒の安定にとって不可欠な神経伝達物資となるミネラル豊富な食事をすることが大切です。
特に、ビタミンDと関係の深いマグネシウム豊富な食品がお勧めです。マグネシウムの詳しい機能と多く含む食品については『マグネシウム』をご確認ください。
セントジョーンズワート
SADの患者を対象とした、セントジョーンズワートを用いた研究が多く行われていますが、今のところ結果に一貫性はありません。
セントジョーンズワートが効いたケースと効かなかったケースの違いについて、例えば、次のような差が考えられると研究者は述べていますが、明確なことはまだ分かっていません。
- ハーブの品質の差
- 被験者の重症度の差
イチョウの葉茶
脳への血流を増加させると言われている和のハーブです。
ただし、SADの改善効果を検証する研究は行われていません。
あまり勧めたくない方法
あまり勧めたくはない選択肢ですが、あなたのSADの症状がかなり重く、日々の生活がとても辛く感じるのであれば、医療機関を受診することも選択肢に入れておいてくださいね。
なぜあまり勧めたくないのかと言えば、次のような理由からです。
抗うつ剤
SADの症状改善のために医療機関を受診すると、次のような抗うつ剤が処方されることがあります。
- SSRI剤(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)
- ブプロピオン剤(ノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害剤)
ただし、抗うつ剤は、SADの場合、ほとんどの人に効果がないことが明らかにされています。それに、症状緩和に効果があったとしても、抗うつ薬は、SADを治すためのものではありません。あくまでも症状緩和のためのお薬です。
抗うつ剤は、簡単に止めることができないことも問題です。急激な断薬は非常に危険なため、止めることが難しいのです。
プロゲステロン(女性ホルモン)剤
男性よりも女性の方がSADを発症しやすいことから、女性ホルモンがSADに関与しているのではないかと考えられています。
確かに、SADを発症する女性では、プロゲステロンが少ないこと(エストロゲン過剰)が確認されています。
ホルモン充填療法によってエストロゲンとプロゲステロンのバランスをとることで、うつ症状が軽減し、元気が回復したという報告がある一方で、他の治療法と同様に、結果には一貫性がありません。
また、人工女性ホルモン剤の服用と、認知症や婦人科系がんなどとの関係が明らかにされていることから、安易に頼ることはお勧めできません。
悲しいのではなく無気力な場合
心が沈んだり、ブルーな気分とか、物悲しいというよりも、無気力感が強いのなら、SADではなく、ストレス性の疲労かもしれません。
慢性的な高ストレスによって、無気力感が高まることがあるからです。
次の状態に心当たりはありませんか?
- 日常の仕事や作業を負担に感じる
- 終業時間には、大抵、疲れ切っている
- リラックスやストレスを解消するためにお酒の力が必要だ
- イライラが止まらない
- 「リラックスしている時間なんてない」と感じる
こうした状態や心の状態はストレスが溜まっているサインです。
毎日リラックスする
リラックスすることは、休暇や休日にだけ許された贅沢ではありません。
あなたには、毎日、リラックスする時間が必要です。
その日の終わりに、心と頭を落ち着かせるための、静かで穏やかな時間、無心に遊ぶ時間が必要です。
お酒以外のものであなたが楽しくできることであれば何でも構いません。
1日の終わりに5分で良いので何かやってみることをお勧めします。
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
また、『この季節の隠れたテーマ|科学に裏付けられた心と体の幸せな状態を高める効果的な方法』もご覧ください。
もし、今回ご紹介した方法で、あなたの心が晴れたなら、あなたはうつ病ではなく冬季SADです。
試してはみたものの、症状が改善しなかったとしても不安にならないでくださいね。
お伝えしたように、SADの根本原因はまだわかっていないのです。さまざまな要因の組み合わせで起こっている可能性がある症状ですから、万能の治療法は、今のところないのです。
ただ、多くの人が今回お伝えした対処法の組み合わせによって改善を実感していることも事実です。どの組み合わせがあなたにとって効果的かを試行錯誤を通して見つけることが大切です。
その過程を楽しんで取り組んでいただけたら嬉しいです。
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参考文献
- “Seasonal affective disorder (SAD)“, mayo clinic
- “Association of holidays and the day of the week with suicide risk: multicounty, two stage, time series study.”, Lee W, Kang C, Park C, Bell ML, Armstrong B, Roye D, Hashizume M, Gasparrini A, Tobias A, Sera F, Honda Y, Urban A, Kyselý J, Íñiguez C, Ryti N, Guo Y, Tong S, de Sousa Zanotti Stagliorio Coelho M, Lavigne E, de’Donato F, Guo YL, Schwartz J, Schneider A, Breitner S, Chung Y, Kim S, Ha E, Kim H, Kim Y; Multi-City Multi-Country (MCC) Collaborative Research Network., BMJ. 2024 Oct 23;387:e077262. doi: 10.1136/bmj-2024-077262. Erratum in: BMJ. 2024 Oct 28;387:q2373. doi: 10.1136/bmj.q2373. PMID: 39442941; PMCID: PMC11497772.
- “Seasonal differences in the diurnal pattern of cortisol secretion in healthy participants and those with self-assessed seasonal affective disorder”, Lisa Thorn, Phil Evans, Anne Cannon, Frank Hucklebridge, Angela Clow, Psychoneuroendocrinology, 2011 Jul;36(6):816-23. doi: 10.1016/j.psyneuen.2010.11.003. Epub 2010 Dec 9, PMID: 21145663
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング