バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。
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目次
最近の疫学研究によって、母乳に含まれているオリゴ糖が、幼少期のアレルギーの発症を予防できる(アレルギー感受性を改善できる)ことが示めされています。
サイエンス誌「ネイチャー」に発表された母乳オリゴ糖に関する最新の研究について和訳要約してお伝えしています。前回は、母乳オリゴ糖の機能についてお伝えしました。
<<『母乳オリゴ糖でアレルギーは予防改善できるのか?(1)母乳オリゴ糖の機能』
今回は、母乳オリゴ糖の効果に影響を与える、母親由来のリスク要因と子供由来のリスク要因、そして母親が具体的にできることについてお伝えします。
なお、裏付けとなる研究論文を最後に参考文献として一覧にしています。ただし、元の論文中で引用されている研究については、元の論文の索引をご参照ください。
母乳オリゴ糖鎖のアレルギー予防効果
母乳オリゴ糖鎖のアレルギー予防効果は、下に記載したような要因同士の複雑な相互作用によって生じます。しかし、具体的な相互作用のメカニズムは、まだ判っていません。
- 母乳オリゴ糖鎖の構成
- 乳児由来のリスク要因
- ABO血液型抗原の分泌状態
- アレルギーの種類
- など
生後1,000日の重要性
生後1,000日(約2年8カ月)の間に、新生児の体内で免疫機能と腸内細菌が著しく発達します。そのため、この1,000日の間に受ける栄養と外部刺激が、その後の人生の健康状態に最も重要な影響をもっていると考えられています。
アレルギーの発症においても免疫機能がプログラムされる生後1,000日間が重要な期間です。
なお、1,000日間の重要性については『アレルギーに最も影響をもつ時期』をご参照ください。
母乳オリゴ糖鎖の構成は母親ごとに異なる
母乳にはさまざまな成分が含まれています。
母乳オリゴ糖鎖は、3番目に多い成分です。
母乳オリゴ糖鎖は、次のような糖鎖で構成されている複合糖鎖です。
- グルコース
- ガラクトース
- フコース
- シアル酸
- N-アセチルグルコサミン
- など
現在までに、母乳オリゴ糖鎖には 200を超える異なる種類(構造体)があることが発見されています。
1. 母乳オリゴ糖の組成に影響する要因
しかも、母親ごとにその組み合わせ(構成)は大きく異なります。
ひとりひとりの母親の母乳に含まれる母乳オリゴ糖の組み合わせは、次の要因によって変わります。
- ABO血液型抗原の分泌状態(ABO血液型抗原が、唾液、母乳、涙などの体液に分泌されているか状態)
- 遺伝型
- 居住環境
- 食事
- BMI
中でも母乳オリゴ糖鎖の構成に大きな影響をもっているのは、次の2つです。
- ルイス血液型
- 血液抗原が体液中に分泌されているかどうか
2. 腸管上皮細胞のフコース化
そして、これらは、次の2つの遺伝子によって決定されます。
- 分泌型遺伝子|α1-2-フコシルトランスフェラーゼ(FUT2)を造る
- ルイス型遺伝子|3/4-フコシルトランスフェラーゼ(FUT3)を造る
フコシルトランスフェラーゼは、腸管上皮細胞をフコース化する役割があります。
腸管上皮細胞のフコース化は、病原性細菌に対するバリアを形成して、感染予防効果があります。(なお、フコース化オリゴ糖については『フコース化オリゴ糖』をご確認ください。)
2. 初乳が最も重要
最も母乳オリゴ糖の濃度が高いのは、初乳です。
- 初乳1リットル中の母乳オリゴ糖・・・約20~25g
- 成熟乳1リットル中の母乳オリゴ糖・・・約10~13g
母乳の成分の変遷は、赤ちゃんの成長と密接に関係しています。
それぞれの月齢時の赤ちゃんの成長とって必要な成分につぎつぎと入れ替わっていくと考えられています。腸内細菌の顔ぶれが赤ちゃんの成長に合わせて変わっていくことと同じ原理です。(赤ちゃんの成長と腸内細菌の変化については『成長に沿って適切な菌が増える』をご確認ください。)
ともあれ、初乳は必ず赤ちゃんに飲ませたいですね。
母乳オリゴ糖鎖は組み合わせが重要
現在までに、複数の疫学研究が、子供のアレルギー発症リスクと、母乳オリゴ糖鎖の組み合わせと濃度との間に関連性があることを報告しています。また、母乳オリゴ糖鎖の組み合わせは、授乳期間を通して変化します。
1. 分泌型遺伝子(FUT2)
生後0~6か月で牛乳の遅延性アレルギーを発症した乳児の母親の母乳中には、血液型抗原が混入していたことが判明しています。これは、乳児が分泌型遺伝子(FUT2)依存性の母乳オリゴ糖(フコース化オリゴ糖)を含む母乳で育ったことを意味します。
一方で、牛乳の即時性アレルギーを発症した乳児の母親は全員、非分泌型遺伝子をもっていました。
2. ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)
生後0~6か月の乳児70人を対象とした調査は、母乳中のラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)濃度が低い場合と比べて、濃度が高い場合には、生後6か月以内に牛乳アレルギーを発症(牛乳を飲んだ後の嘔吐、下痢、喘鳴、咳、じんま疹、アトピー性皮膚炎など)するリスクが有意に低下することを示しています。
3. 食物アレルギー予防の糖鎖
また、カナダの「健康幼児縦断発達研究」に参加した421組の母子ペアの調査では、母乳中の次の糖鎖の濃度が高いほど、満1歳時点での食物アレルギーの発症リスクが低いことが示されています。
- ラクト-N-フコペンタオース I (LNFP- I)
- ラクト-N-フコペンタオース II (LNFP-II)
- フコシル-ジシアリルラクト-N-ヘキソース (FDSLNH)
- ラクト-N-ネオテトラオース (LNnT)
- シアリルラクト-N-テトラオース c (LSTc)
- フコシルラクト-N-ヘキサオース (FLNH)
4. 食物アレルギーリスクの糖鎖
一方で、次の糖鎖の濃度が高いほど、食物アレルギー発症リスクが高くなることも示されました。
- ラクト-N-ヘキサオース (LNH)
- ラクト-N-テトラオース (LNT)
- 2′-フコシルラクトース (2’FL)
- ジシアリル-ラクト-N-ヘキサオース (DSLNH)
5. 単独ではなく組み合わせが重要
ただし、特定のひとつの糖鎖が単独で食物アレルギーと関係していることはありませんでした。
全てのアレルギー疾患の予防や症状の改善ができるひとつの母乳オリゴ糖を探すのではなく、アレルギーの多様な原因ごとに、200を超える母乳オリゴ糖の中から、それぞれの感受性を低下させることのできる組み合わせを見つける必要があります。
それは研究者に任せるとして、母親/妊婦さんがお腹の中の赤ちゃんのために生活の中でできることは、「食事」です。
母乳の成分は、遺伝子によって影響を受けることが今回の研究で明らかにされていますが、あなたは食べたものでできています。体内で造られるものは全て、あなたが食べたものから造られます。あなたの食事を変えることで、母乳に含まれる母乳オリゴ糖鎖の構成に影響を与えられる可能性があるだけでなく、腸内細菌の顔ぶれを変えることもできます。
乳児由来のリスク要因
母乳オリゴ糖鎖によるアレルギー予防効果は、乳児由来のリスク要因によって異なります。
乳児由来のリスク要因ごとに予防効果が得られる母乳オリゴ糖鎖の種類と影響が異なることを示した研究は複数あります。
1. 帝王切開
帝王切開で生まれた乳児は、経膣分娩で生まれた乳児よりもアレルギー感受性が高いとする報告が多数あり、乳児のアレルギー発症リスクは、帝王切開によって上昇すると考えられています。(帝王切開による影響については『帝王切開による影響』もご参照ください)
しかし、帝王切開で生まれた乳児が、分泌型遺伝子によるFUT2依存性母乳オリゴ糖を含む母乳で育つと、2歳時点での食物アレルギー発症リスクが低下しました。ただし、5歳時点での低下は見られませんでした。発症を少なくとも3年は遅らせることができるということでしょうか。
注目すべきことに、この関連性は、帝王切開で誕生した乳児にだけに見られる現象でした。いくつかの要因の複雑な相互作用によって、帝王切開で誕生した乳児にのみ、FUT2依存性母乳オリゴ糖によるアレルギー予防効果が現れたと考えられています。
もしそうであれば、帝王切開で出産した場合においても、子供をFUT2依存性母乳オリゴ糖を含む人工乳で育てれば、アレルギー発症リスクを低下できるもしれません。もちろん、母親自身がFUT2依存性母乳オリゴ糖をもっていれば、何の心配もありませんね。
2. 抗生物質の投与
抗生物質が投与されたことのある、アレルギー発症リスクが高い乳児を18歳まで追跡調査した研究によって、酸性ルイス依存性母乳オリゴ糖を含む母乳で育った子供には、次の特徴があることが明らかされています。
- 子供時代の湿疹、喘鳴、喘息の発症が高い
- 食物アレルギーの発症は低い
乳幼児期における抗生物質の投与による影響は、『抗生物質による影響』もご確認ください。
ソフィアウッズ・インスティテュートからのアドバイス
子供のアレルギー疾患の予防にとって、母乳オリゴ糖がいかに重要な働きをしているのか、その科学的な仕組みについてお伝えしてきました。
母乳オリゴ糖の種類や組成とそれによるアレルギー予防効果は、母親に関することだけでなく、乳児由来の要因によっても変化します。
そして、そのリスク要因のいくつかは、母親や保護者が意識を変えることによって避けられるものです。
お子さんにアレルギーがある人へ
母乳オリゴ糖には、直接的にも間接的にも子供のアレルギーを予防する作用があります。もしかしたら既に発症してしまったアレルギーも改善できるかもしれません。
ただ、今回の論文から言えることは、単一の母乳オリゴ糖だけではダメだということです。200種類ある母乳オリゴ糖の組み合わせが重要です。単一な合成母乳オリゴ糖しか含まないサプリメントには、効果が期待できない可能性は大きいと言えます。
また、母親の遺伝的なリスク要因に対応した組み合わせは、まだ判っていません。そのため、複数の合成母乳オリゴ糖を含んだサプリメントがあったとしても、それがあなたのお子さんに合うかは不明です。
合成母乳オリゴ糖については『合成糖鎖の活用』をご確認ください。
あなた自身にアレルギーがある人へ
母乳オリゴ糖の予防効果は、幼少期での話です。成人になってから母乳オリゴ糖を食べても予防効果があるかは不明です。
もちろん、試してみるのはあなたの自由です。
合成母乳オリゴ糖のサプリメントが、成人向けに開発され販売されるにつれて、今後、成人期での摂取の効果が検証されていくことでしょう。
これから母親になろうとする人へ
母親の遺伝子からの影響による母乳内の母乳オリゴ糖の構成や、母乳への抗体の分泌状態などは、努力によっては簡単には変更できません。でも、分娩方法(経腟分娩か帝王切開か)の選択や授乳の方法(母乳が粉ミルクか)の選択は、あなたの考え方次第で決められます。
もちろん、妊娠中の体調の急変や基礎疾患などによって、帝王切開を選ばざるを得ないケースや、何等かの事情で母乳での授乳が難しいケースもあるでしょう。
でももし、そうした事情がないのであれば、お子さんの人生にとって、アレルギーや免疫機能にかかわる様々な病気というリスクを残さない選択をしませんか?
この記事を読んでいる全ての人へ
遺伝子のスイッチは、食事やライフスタイル(運動、禁煙、禁酒など)の改善によって、オンオフできるものがあります。エピジェネティクスと呼ばれる作用です。
ビフィズス菌や乳酸菌がアレルギー症状改善の鍵を握っているのなら、そうした善玉菌が腸内に増える食事とライフスタイルを取り入れましょう。
腸内環境を壊すような生活をしつつ、サプリメントを放り込んでも、得られる効果はきっと限定的です。
まずは、ご自身の腸内環境を整え、乳酸菌とビフィズス菌豊富な体を作ること、せめて慢性的な便秘や下痢、胃腸不良などは改善しておくことから始めましょう。
その他子供のアレルギーに関する記事
これまでにアレルギーと腸内細菌に関して執筆した記事は次の通りです。こちらも併せてご確認ください。
- 『子供の食物アレルギーの原因と治療法の最新研究』
- 『赤ちゃんと共生細菌|分娩と授乳方法は健康と性格に影響するのか』
- 『炎症性腸疾患や大腸がんを予防改善する腸内細菌と腸粘膜の栄養戦略』
- 『母親の腸疾患で子が自閉症に』
- 『リーキーガットを起こす食品(グルテンじゃありません)』
そして、もし、おひとりで取り組むことに難しさや不安を感じるのであれば、ヘルスコーチと、一度、話をしてみませんか?
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参考文献
- “Human milk oligosaccharides: potential therapeutic aids for allergic diseases”, Isabel Tarrant, B. Brett Finlay, VOLUME 44, ISSUE 8, P644-661, AUGUST 2023, July 11, 2023, DOI:https://doi.org/10.1016/j.it.2023.06.003
ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング