抗がん剤などの治療薬は、必ずしも万人に対して同じ様に効くとは限りません。なぜ、効かない人達がいるのでしょうか。
2017年8月31日の『ネイチャー』には、免疫療法が効かないがん患者の腫瘍にT細胞が分泌するタンパク質(アペリン)の機能を喪失させる遺伝子変異が起きていることを発見したと報告されていました。
なぜ、どのようにして、遺伝子変異が起きたのかについては、まだ不明です。
ただ、2017年6月6日のネイチャーに掲載された論文にヒントがあるように思い、要約しながらお伝えします。
この論文を読んで、バイオ個性にそって食べることが大切なのだと改めて思いました。
ヒトゲノム解析によるパーソナル・メディシン開発の限界
従来の個別化医療(パーソナル・メディシン)の研究は、特定の薬に対する体の反応を、個々人のゲノムに合わせてコントロールすることに焦点があてられてきました。
しかし、近年、特定の薬が、ある人に効くのかどうかを判別するために、個々人に固有の共生細菌のゲノム(マイクロバイオーム)が、鍵となり得ることを示す証拠が増えてきています。
6月4日、米国ルイジアナ州のニューオリンズで開かれた米国米生物学会(the American Society for Microbiology)の会合で、データが公開され、
健康な人であっても、共生細菌の構成の違いによって、薬を代謝する過程が異なる
と、いう証拠が提出されました。
人間に共生しているバクテリア(共生細菌)は、そこに存在する栄養素を食べて生存します。つまりそれは、宿主が食べる食事です。
宿主が好んで食べる食事を、好んで代謝できる細菌が、結果として腸内に多く繁殖するわけですから、食事によって、腸内に棲んでいる細菌の顔ぶれは変わります。
その顔ぶれの中に、薬を無効化してしまう細菌や、有毒化してしまう細菌がいるとしたら?
特定の腸内細菌が発生する酵素が薬の構造を変容させてしまう
ニューヨーク市にあるアルバートアインシュタイン医科大学(the Albert Einstein College of Medicine)の数理分析生物学者のリー・ガスリー(Leah Guthrie)博士は、特定の患者に下痢などの副作用を起こしてしまうイリノテカンと呼ばれる抗がん剤について論じています。
通常、薬は、肝臓のグルクロン酸抱合と呼ばれる化学物質群を通して無毒化され代謝されます。しかし、ある種の腸内細菌の酵素は、グルクロン酸抱合群を除去し、薬を有毒化することが判明しました。
マウスを使った研究によって、ある種の腸内細菌が産生するβ-グルクロニダーゼと呼ばれる酵素が、イリノテカンや他の薬の化学構造を変化させてしまうことが、観察されています。
腸内細菌が、薬をどのように代謝するのかを見極めるために、ガスリー博士と共同研究者達は、20人の健康な人達から大便のサンプルを採取しました。各サンプル間のバクテリアの構成には、ほとんど違いがありませんでした。
イリノテカンを用いてサンプルを処理し、イリノテカンに接触したバクテリア(腸内細菌)によって産生された物質を測定しました。
4つのサンプルから、高度に有毒化したイリノテカンを発見しました。
バクテリアによって産生されたタンパク質を分析すると、β-グルクロニダーゼをつくるバクテリアの種類が多く存在していたのは、代謝の高いバクテリアを有している人達でした。
また、彼等は、糖分を細胞に輸送するタンパク質(グルコース・トランスポーター)も高い水準で有していました。
つまり、4つのサンプルは、毒物を吸収しやすく、消化器官に問題を起こしやすい人達だということを示唆しています。
イリノテカンによる下痢などの副作用の原因が、この腸内細菌によるものなのかを突き止めるために、今後研究者達は、イリノテカンの投与を受けている癌患者からサンプルを採取する計画です。
グルクロン酸抱合群を利用して、肝臓は、イリノテカンだけでなく、様々な薬を処理します。
もし、ある種の腸内細菌が産生するβ-グルクロニダーゼが、グルクロン酸抱合群を排除し、他の薬をも有毒化してしまうとしたら、この腸内細菌の影響は、かなり広範になる可能性を示唆しています。
様々な医薬品に影響を与えている可能性
例えば、ある種のβ-グルクロニダーゼは、イブプロフェンなどの抗炎症性の薬も同様に変容させ、長期間の使用によって腸内で毒性を発生させてしまうことが既に発見されています。
また、腸内細菌が、パーキンソン病や抗不安薬などの医薬品を変容させていることを示唆する多くの事例が既に報告されています。
6月2日に発表された論文では、膣の中に塗るジェルタイプのHIV予防薬テノフォヴィルは、ガードネレラ菌と呼ばれる共生細菌が膣内にいる女性には効果がないと報告しています。この細菌は、薬を素早く分解し不活性化させてしまいます。
しかし、その機序はまだ不明で、それを抑制できるのかも判っていません。
創薬への示唆
「医薬品の開発において、なぜ、動物実験段階でヒトへの毒性を完全に排除できないのかを、腸内細菌による干渉よって説明できるかもしれない。なぜなら、動物はヒトとは異なる腸内細菌をもっているのだから」と、ハーバード大学の生化学者エミリー・バルスカス(Emily Balskus)博士は言います。
しかしまだ多くのことが疑問として残っています。
薬を崩壊させてしまう酵素は、まだほとんど特定されていません。
腸内細菌と医薬品との相互作用を理解し、医者が治療の一環として処方でいるようになるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。
とは言え、その内に、人々の共生細菌のスクリーニングができるようになり、どの薬が効くのか判断できるようになるかもしれませんね。
特殊な食事療法が鍵になるかも
「もし腸内細菌が問題を起こしそうであれば、酵素の発生を抑制する薬を処方したり、あるいは、腸内細菌の構成を変えるための特殊な食事療法を提供できるようになるかもしれない。」 と、バルスカス博士は言います。
あるマウスを使った実験では、食事療法によって、腸内細菌によってディゴキシンと呼ばれる心臓病薬の構造が崩壊されないようにすることができたと報告されています。
バイオ個性と腸内細菌
私はヘルスコーチングの中やマインド・ボディ・メディシン講座の中で、バイオ個性と腸内細菌(ボディ・エコロジー)の話をします。
ヒトゲノムの解析だけでは、私達の病気の原因や薬の副作用の原因を説明することができない壁に科学はぶち当たっています。だからエピジェネティクス(ゲノムの発現に影響を与える環境要因)について考えることが大切なのですが、
既に、多くの研究によって、食事やその他の環境要因(ライフスタイル要因)によって、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりできることが報告されています。
そしてまた、ヒトゲノムのみによって、自分に合う食事、合わない食事を考えることにも、当然、限界があります。
限界どころか、ヒトゲノムだけでは、私達に合う食事を約1%くらいしか当てられないかもしれないのです。だって私達は、私達自身のゲノムの100倍もの共生細菌のゲノム(マイクロバイオーム)達から影響を受けながら共生しているのですから。(参照:『バクテリア・コミュニケーション』)
だから、バイオ個性に沿った食事を考えることが求められるのです。
バイオ個性はゲノムだけでなく、ライフスタイルを含めた私達個々人の個性を意味しています。
私は最近、このバイオ個性は、つきつめたらマイクロバイオーム(共生細菌のゲノム)に行きつくのではないかと思っています。
バイオ個性は、時間と共に場所と共に季節と共に人間関係と共にライフスタイルの変化と共に変化し得るものです。
そして、私達の体の内外で共生している微生物達が、食事だけでなく、季節によっても変化すること、一緒にいる人達やペットによっても変化することが、次第に判ってきています。そして、共生細菌の顔ぶれによって私達の心の状態が変化することも報告されています。
共生細菌の顔ぶれは、食事で変えることができます。
だから、
ひとりひとり異なるバイオ個性に沿って食べることが大切なのだと思うのです。
公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。
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参考文献:
“Gut bacteria can stop cancer drugs from working“, 06 June 2017, Sara Reardon
参考:
『腸内細菌の構成には、遺伝子型よりも食事が優位』
『ミクロフローラとプロビオティクス – ボディエコロジーの考え方』
『腸内環境の修復が必要かもしれない11のサイン』
『それはどこにでもいる(翻訳シリーズ)』
『生きている菌と死んだ菌』
『石鹸なし、シャンプーなし、バクテリア満載 – 私の衛生実験(翻訳シリーズ)』
『細菌がどのようにして私達を定義し、形づくり、癒してくれるのか(翻訳シリーズ)』