脳機能とコレステロール|老化に伴う認知機能低下の予防と改善に不可欠なもの

2022/05/17/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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コレステロールは悪者か?

コレステロールと聞くと、悪いイメージを持っている人は多いと思います。減らさなければいけないものと思っている人多いですよね。

でも、コレステロールは、すべての細胞膜の必須成分で、私達の生命維持にとって不可欠なものです。

科学専門誌『ネイチャー』に脳とコレステロールの研究について面白い論文が掲載されていましたので、和訳要約してお伝えします。

そして、その上で、私達が日常生活の中でできることについてお伝えします。

脳の神経細胞の構造

神経細胞(ニューロン)は、上の図の様な構造をしていて、これで1つの神経細胞です。そして、神経回路とは、神経細胞が連なって、お互いに情報をやり取りするための複雑な配線のことです。

神経細胞から長く伸びている胴体を「軸索」と呼びます。軸索の末端にシナプスと呼ばれる構造があり、他の神経細胞の頭の樹状突起にあるシナプスと接合して回路が造られます。シナプス間で神経伝達物質(ホルモン)がやりとりされます。

ミエリン膜の役割

神経細胞の軸索は、ミエリン(髄鞘)と呼ばれる膜(カバー、サヤ)によって覆われています

ミエリンは、オリゴデンドロサイトが何重にも重なってできています。神経細胞の軸索を絶縁して神経伝達を高速で行うことを可能にしています。

しかし、ミエリンは軸索全体を均一に覆っているわけではなく、1つの長さはわずが1mm~0.1mmで、それが連なって軸索を覆っているため、ミエリンとミエリンの間には、数マイクロミリほどの極わずかなギャップが存在しています。神経信号は、このギャップをジャンプするように次々に流れていきます。

脳は自分でコレステロールを造る

人間を含む哺乳類のコレステロールは、脳での合成率が体全体で最も高いんです。あなたの腹部ではありません(笑)

体で合成されたコレステロールは、脳の血液脳関門(BBB:blood–brain barrier)によって脳へ侵入できないようになっているため、脳は自分でコレステロールを合成します。中枢神経の全ての細胞(オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ニューロン、ミクログリア等)が合成に関わっていると考えられています。

特に、脳の神経細胞を覆っているミエリン膜の中にはコレステロールが豊富に存在しています。大人の中枢神経を構成するコレステロールの大部分(70–80%)が、ミエリン膜の中にあります

脳内のコレステロールを造る神経細胞

胎児や成長期の脳

胎児や子供の時の脳では、ミエリン膜の形成に必要なコレステロールの大部分をオリゴデンドロサイトが合成します。その他の神経細胞(アストロサイトなど)は、造ったコレステロールをオリゴデンドロサイトに提供しています。

大人の脳

大人の脳ではオリゴデンドロサイトよりも、アストロサイトが必要なコレステロールの合成を継続的に行いメンテナンスしてくれています

脳内のコレステロールは一定に保たれている

脳内のコレステロールは一定に保たれています。

例えば、コレステロールを合成できる脳細胞のどれかが、コレステロールを合成できなくなったとしても、その他の細胞がそれを補完して、脳内のコレステロールが一定に保たれるようになっています。

しかも、体細胞内のコレステロールは数日で半減するものの、脳で合成されたコレステロールの半減期は約5年と長期間維持されます。

それだけ脳にとってコレステロールが大切なものだということです。

脳内のコレステロールが減少する要因

老化

脳内のコレステロールの合成率は、加齢に伴い減少します。

老化した脳では、アストロサイトの挙動が変化し、コレステロール合成遺伝子のスイッチが次々とオフになっていくと考えられていて、その結果、コレステロールの合成が減退します。

十分なコレステロールが供給されないことで、オリゴデンドロサイトが減り、適切なミエリン膜の形成や再生にとって大きな障害となります。その結果、傷ついたミエリン膜が放置されるようになり、軽度の炎症が脳内で起こります。それが老化現象となって表れます。

その他、ミエリン膜が損傷していく多発性硬化症(MS、神経変性疾患のひとつ)は、脳内のコレステロールを一定に保つ機能の調節不全と関係していることが判っています。

その他の要因

次の様な疾患も、脳内でのコレステロールの合成率を低下させます。

  • 代謝機能不全
  • 免疫機能不全/機能低下
  • 内臓炎症/炎症性疾患

脳内のコレステロールが一定に保たれなくなる原因は、脂質代謝異常/不全だけでなく、脂質代謝とは無関係な疾患によっても起こる可能性があります。

ミエリン修復とコレステロール

ミエリンの損傷は、健康な人でも起こります。でも脳の自己修復機能によって、ミエリン膜は効率的に修復され、神経機能は直ちに回復されます。

脳の自己修復機能

傷ついたミエリンの残骸がそのまま残されていると、ミエリン膜が修復できないため、炎症は治まりません。そのため、まず傷ついたミエリン膜を取り除く必要があるのですが、人間を含む哺乳類はミエリン膜のコレステロールを分解できません。

そのため、具体的には、次の様なリサイクルの仕組みが私達の脳には備わっています。

  1. まず、傷ついたミエリンの残骸から食細胞(免疫細胞)が、脂質とタンパク質を吸収します。
  2. 吸収された脂質とタンパク質は、食細胞内のリソソームが分解してリサイクル可能な状態(代謝再生)にします。
  3. リサイクル可能になった脂質は、オリゴデンドロサイトへ届けられ、オリゴデンドロサイトはミエリン膜を修復し炎症が治まります。

つまり、ミエリン損傷が起こると、食細胞が損傷したミエリンを取り除き、分解し、オリゴデンドロサイトがリサイクルされたコレステロールを使って層を再構成し、新しいミエリン膜が造られると、いうプロセスです。

  • 急性ミエリン損傷の場合|脳内のコレステロールがリサイクルされ修復が行われます。
  • 慢性ミエリン損傷の場合|コレステロールが新規に合成されて、ミエリンの修復(再ミエリン化)に利用されます。

老化や神経変性疾患の悪化などによってミエリン膜の自己修復機能が消耗すると、ミエリンの再生が滞るようになります。

ミエリンの再生が間に合わないと、神経の軸索が露出したままとなり、炎症が放置され、神経伝達に支障が生じるようになり、回復が困難になっていきます。

傷ついたミエリン膜のコレステロールを片付ける仕組み

傷ついたミエリン膜のコレステロールを食細胞が片付ける仕組みについて少し詳しくみていきましょう。驚くほどよくできた仕組みで、体に感謝したくなります。

1. ステロールを合成する

ミエリンの残骸からコレステロールを取り込んだ食細胞内では、コレステロールが一時的に増加します。しかし食細胞内のコレステロールは一定に保たれるようになっているので、食細胞はコレステロールの合成を抑制します

同時に、食細胞は取り込んだコレステロールを使ってステロールを合成します。結果、傷ついた中枢神経細胞からコレステロールが減り、炎症が抑えられていきます。

マウスを用いた研究ですが、ステロールを合成する遺伝子を欠損させると、食細胞がコレステロールで飽和してしまい、泡沫化することが観察されています。結果、神経細胞からコレステロールが排出されなくなり、炎症が治まらないことが報告されています。

2. オキシステロールを合成する

食細胞によるリサイクルが追いつかないほど、損傷したミエリン膜からのコレステロールの蓄積が過剰になると(ミエリン膜の損傷が急激に増加すると)、オキシステロールが合成されるようになります。

オキシステロールは、コレステロール搬出遺伝子のスイッチをオンにするため、傷ついたミエリン膜のコレステロールの除去を助けます

でも、オキシステロールは、ミエリン膜の損傷が急激に増加しているから造られるものなので、あまり増えて欲しくないものです。

実は、オキシステロールは脳細胞だけでなく体細胞でも造られる、動脈硬化の進行を早めたり、様々な疾患の病因やバイオマーカーとなっているコレステロール酸化物なんです。しかも脳の血液脳関門(BBB)を簡単に通過できてしまうため、神経変性疾患のバイオマーカー候補としても検討されている物質です。

ミエリン膜の修復には十分な再生コレステロールが必要

ミエリン膜の再構築には、オリゴデンドロサイトの数と成長が鍵を握っています

その他、血小板由来成長因子、多機能タンパク質、FGF(線維芽細胞増殖因子)なども修復にとって重要な役割を果たしています。

これら全てが、コレステロールが十分に利用可能かどうかによって大きく影響を受けます

ミエリン膜の主要な成分はコレステロールですから、当然、損傷したミエリンの修復にもコレステロールが大きな影響をもっているのです。

コレステロール合成酵素(DHCR24)が抑制されると

コレステロール合成酵素(DHCR24)が抑制されると、コレステロールを取り込んだ食細胞は、デスモステロールを合成するようになります。デスモステロールは、コレステロールになる前の中間体です。

デスモテロールは、コレステロール搬出遺伝子のスイッチもオンにするため、不要なコレステロールも除去してくれ、修復にも活用されるので、炎症が治まります。

実際、多発性硬化症(MS)の脳では、コレステロール合成酵素(DHCR24)が減少してしまうため、デスモステロールが増加することが判っています。脳は何とか自力で治そうとしてくれているんですね。。

なお、アルツハイマー病の脳では、デスモステロールが減少していることが観察されています。

食事による予防と改善の可能性

脳細胞の修復にコレステロールが重要であることはよく分かっていただけたと思います。

マウスの研究では、ミエリン損傷が起きた後に、

  • コレステロール
  • スクワレン(コレステロールの中間体)または、
  • 神経保護作用が報告されているシチコリン(脳機能をサポートするホスファチジルコリンを脳内で増加させる物質)

を補給したら、オリゴデンドロサイトが増え、ミエリンの再構築が起きたことが報告されています。

しかし、冒頭で記載した通り、ヒトでは、体で造るコレステロールはそのまま脳には届けられることはなく、脳は自前でコレステロールを造るので、食事から摂ったコレステロールがそのまま脳細胞に届くことは考えにくいです。

であれば、コレステロールそのものを食べるよりも、コレステロールの材料となるものを食べることが、ヒトにおいては重要ではないかと考えます。

飽和脂肪酸

コレステロールの材料となる主要な成分は飽和脂肪酸です。

飽和脂肪酸の豊富な食品と言えば、ココナッツオイルバターラードですが、ピーナッツオイル、米油、大豆油、ごま油、オリーブ油にも飽和脂肪酸は比較的多く含まれています。

こちらもご覧ください。

スクワレン

スクワレンは、不飽和脂肪酸です。

急性ミエリン損傷の場合は、食細胞がコレステロールをリサイクルしてくれるので、コレステロールよりもスクアレンを追加することによって、ステロール合成が促進されるというエビデンスを踏まえ、急性ミエリン損傷や初期のミエリン損傷などの場合には、スクワレンを摂取することが効果的なのではないかと、研究者は述べています。

スクワレンは、鮫油(肝油)、オリーブ油、綿実油、アボカド油、パンプキンシードオイルなどに含まれています。

こちらもご覧ください。

DHA/EPA

DHA/EPAは、動物性のオメガ3不飽和脂肪酸です。

オメガ3と言えば亜麻仁油やえごま油など植物性のオメガ3を思い浮かべる人が多いと思いますが、私達の脳の約8%はDHA/EPAでできています

植物性のオメガ3は、体内で動物性のDHA/EPAに変換されて利用されます。詳しくは、マインド・ボディ・メディシン講座セルフドクターコースで教えています。

DHA/EPAを多く含む食品は、魚です。魚の脂に多く含まれています。

コリン

脳内でホスファチジルコリンを増やすためには、ホスファチジルコリンの材料となる食品、つまり、コリンを多く含む食品を食べれば良いと考えます。

ホスファチジルコリンとその材料については、『いっつも疲れている?最近物忘れがひどくなった?もちかしたらそのうちに臓器不全を起こしてしまうかもしれませんよ』で詳しくお伝えしています。

シチコリン

シチコリンは天然成分ではありませんので、シチコリンを自然に含んでいる食品はありません

米国では食品添加物としての使用が認められているものの、日本では、まだシチコリンの食品や飲料への使用は認められていません。(2021年にキリンホールディングスの子会社の協和発酵バイオが申請中ですが・・)

ソフィアウッズ・インスティテュートからのご提案

今回は、脳とコレステロールについてお伝えしましたが、もっと詳しく脳機能を保護したり、高めたりする食品やライフスタイルを知りたいという方には、次の選択肢があります。

マインド・ボディ・メディシン講座セルフドクターコース

ソフィアウッズ・インスティテュートのマインド・ボディ・メディシン講座セルフドクターコースでは、あなたが食を通してご自身の主治医(セルフドクター)になるために、必要な知識とスキルを教えています。

「カロリー」のレクチャーの中で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、そしてコレステロールの機能について、また、「脳機能」のレクチャーの中では、脂肪や糖分以外で、記憶と認知機能を高める、頭脳労働者に必要な食事について詳しく教えています。

新学期は、毎年3月と9月です。講座でお会いしましょう。

プライベート・ヘルスコーチング・プログラム

公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。

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参考文献:

ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング