神経回路の自己修復を助けて認知症を予防する意外な食品(アペリンと同機能)

2022/06/21/

バイオ個性で食べて、心と体をつなぎ、健康と幸せを手に入れるホリスティックな食事法をコーチングする、ソフィアウッズ・インスティテュート代表 公認統合食養ヘルスコーチ(CINHC)、公認国際ヘルスコーチ(CIHC)の森ちせです。

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脳の神経回路にはもともと自己修復力がある

昨年(2021年)の日本語版の『ネイチャーダイジェスト』に、日本の国立精神・神経医療研究センター神経研究所の研究チームによって、認知症や神経変性疾患などの原因となる、衰えた脳の神経回路の修復力を回復させる要素が発見されたことが掲載されていました。

歳をとると記憶力や認知力が衰えてきますが、運動能力も衰えますよね。その理由のひとつとして、神経回路の損傷が挙げられるとのことです。

脳の神経回路には、もともと自己修復する力がありますが、それが加齢と共に衰えることによって損傷が修復されないままになってしまうことで、「老化現象」が起こります。

脳の神経細胞の構造

神経細胞は、上の図の様な構造をしていて、これで1つの神経細胞です。そして、神経回路とは、神経細胞が連なって、お互いに情報をやり取りするための複雑な配線のことです。

神経細胞から長く伸びている胴体を「軸索」と呼びます。

軸索は、ミエリン(髄鞘)と呼ばれる膜(カバー、サヤ)によって何重にも覆われています。ミエリンは、神経パルス(信号)を高速で伝えるための絶縁体の役割を果たしています。

ミエリンは、今回のテーマに関わる「オリゴデンドロサイト」と呼ばれる細胞で造られています。

なお、詳しい神経細胞の構造や自己修復の仕組みについては『脳機能とコレステロール|コレステロールは老化に伴う認知機能低下や認知症の予防と改善に不可欠』をご覧ください。

ミエリンの脱落が神経回路に異常を起こす

神経回路に異常が発生する原因のひとつが、ミエリンの脱落/損傷です。

健康で正常な脳でミエリンに傷がついても、直ぐにオリゴデンドロサイトが造られ修復されます

しかし、歳をとると、オリゴデンドロサイトが十分に造られなくなり、ミエリンが修復されないままの状態になってしまいます。そのため、神経伝達のスピードが遅くなったり、伝達されなくなったりすることで、認知機能など、脳機能に様々な問題が生じることとなります。

脳の神経回路の損傷に腸内細菌が関わっている

そして今年(2022年)2月にネイチャーから届いたニュースレターに紹介されていた論文の中に、腸内細菌が造るある代謝物が、脳に入り込み、神経回路に損傷を与えることが発見されたことが報告されていました。精神疾患や神経変性疾患を起こす原因物質のひとつだとのことです。

その、腸内細菌が造り出す代謝物とは、硫酸4-エチルフェニル(4EPS)です。4EPSは、以前から、うつや自閉症を引き起こす原因のひとつであることが知られていましたが、今回、4EPSが増加し過ぎると脳内に入り込みオリゴデンドロサイトの成長を妨げ、ミエリンの形成が損なわれるようになり脳神経機能の低下が起こることが報告されました。

ミエリンを修復するアペリン–APJ系

でも、神経回路が傷ついても「アペリン–APJ系」を活性化するとミエリン損傷が修復されることも発見されたのです。

アペリン–APJ系

アペリンとAPJ受容体を介したシグナル伝達経路のことです。

  • 血管を新生する
  • 血管内皮細胞由来の一酸化窒素を放出して血圧を下げる
  • 心筋を収縮させる

など多様な働きをしていることが報告されています。

アペリン

アペリンは、血管内皮細胞や肝臓、肺、心臓、腎臓、脂肪、胃、脳、副腎など、さまざまな組織や臓器で造られ分泌される生理活性ペプチドで、APJ受容体とだけ結合する物質APJ受容体のリガンド)です。

APJ受容体

APJ受容体は、血管内皮細胞、脳、脊髄、肺、心臓など、全身に広く分布していて、細胞外の化学的情報を細胞内に伝達する機能を有する膜タンパク質(GPCR)のひとつです。

  • 心臓では心筋収縮作用
  • 神経系では、尿量を調節する抗利尿作用をもつ脳下垂体後葉ホルモンのバソプレシンの発現を制御するなど、体液の調節機構に関与していると考えられています。

アペリンがAPJ受容体を活性化する

試験管試験では、APJ受容体にアペリンを与えると、オリゴデンドロサイトが十分に造られるようになったことが観察されています。

更に、アペリンを与えたマウスは、そうではないマウスと比較し、投与後2週間で運動機能が顕著に改善し、21日目には、ミエリンの脱落/損傷が43%も小さくなったことが報告されています。

研究者によると修復は、次の様な流れで起こるとのことです。

  1. アペリン-APJ受容体系が活性化される。
  2. その下流のリン酸化反応が促される。
  3. MYRFの核内移行が促進する。
  4. オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化が誘導される。
  5. 脱髄したミエリンが再生する。
  6. 神経回路が修復される。
  7. 運動機能が回復するなどの神経機能が回復する。

研究者は、APJ受容体とアペリンが、オリゴデンドロサイトの増加に重要であると結論づけています

アペリン–APJ系と関係している疾患

多発性硬化症|ミエリンの脱髄が起きる代表的な疾患

研究者は、多発性硬化症を起こしたマウスを用いて、アペリン–APJ系の活性化が神経回路を修復させることを確認し、行動レベルでは、多発性硬化症で顕著な震え等が改善し、運動機能が高まることを確認したと、述べています。

次の疾患もAPJ受容体の活性と関係していると考えられています。

  • 皮膚疾患|紫外線による皮膚の炎症、アトピー性皮膚炎、赤ら顔、酒さ、乾癬、リンパ液の漏出による皮膚疾患
  • リンパ浮腫
  • 皮下脂肪蓄積に伴う疾患
  • 頻尿
  • 女性ホルモン低下に伴う疾患や腫瘍
  • 肝硬変
  • 静脈血栓症
  • 肺塞栓症

など

アペリンはどこで造られるのか

アペリンは脳神経細胞と関りが深いため、脳で造られているのかと思ったら、研究者は、脳細胞以外の臓器や組織でアペリンが造られ、血流に乗って脳に運ばれると考えているようです。

その理由は2つあり

  1. 「正常な脳細胞内のアペリン」と「脳の血液中のアペリン」を比べると、後者の方が圧倒的に濃度が高い
  2. 正常な脳細胞内のアペリンの量では、十分なオリゴデンドロサイトを造るには不十分

とのことです。

若いマウスでは、アペリンは肺に最も多く、脊髄、腎臓、脂肪細胞などにも存在するものの、歳をとったマウスでは、全身でアペリン濃度が低いことなどを指摘しています。

アペリンはそのまま薬にするのが難しい

研究者によれば、アペリンは非常に不安定な物質なので、そのまま薬に使うのは難しいとのことです。「今回の実験で使ったAPJ受容体活性化剤は、構造上、医薬品には適していません。」とも述べています。

そこで、アペリンって食品に含まれていないのかしら?と思い、調べてみることにしました。

アペリンと同様の機能成分を含んでいる食品

ヤマモモ、フトモモ、コナラそのもの、または、その抽出物が、APJを活性化して、アペリンと同様の機能をもっていることを発見したという報告書を見つけました。

ヤマモモ、フトモモ、コナラは、肥満予防や脂肪燃焼作用があると言われている植物です。

ヤマモモ(Myrica rubra)

中国大陸や日本を原産とするヤマモモ目ヤマモモ科の常緑樹です。

花は4 ~5月中旬に咲いて、実は6月頃に紅色から暗赤色に熟して食べられるようになります。

実(み)は、生で食べられる他、ジャムや果実酒などとしても飲食でき、様々な商品が販売されています。

フトモモ(Syzygium jambos)

東南アジアを原産とするフトモモ科の常緑高木です。日本の鹿児島県でも栽培されています。

実(み)は、バラのような香のある、淡白な味です。

コナラ(Quercus serrata)

日本に広く分布するブナ目ブナ科コナラ属の落葉広葉樹です。ドングリの木です。

木材は木炭の原料や、シイタケの原木に使われます。

実は、灰汁抜きをすれば、食べられます。縄文人はドングリの実を食べていたと聞きます。

成分の抽出方法

アペリン様の成分は、これらの植物のどこから(樹皮、粘液、果実、種子、花、枝、葉、根)でも抽出できるそうですが、研究者によれば、葉と枝が好ましいとのことです。

果実などはそのまま食べても構わないそうですが、葉や枝は粉末にした後で、熱湯で煮だして(煎じて)飲むか、アルコールなどで抽出して外用にするなどが好ましいとのことです。

生のまま粉末にしても、乾燥させてから粉末にしても、焙煎してから粉末にしても構わないとのことです。

ヤマモモやコナラは手に入りやすいですし、木や葉も入手しやすいので、自宅で乾燥させてハーブ茶として飲んでも良さそうですね。

クチナシとサフラン

栗きんとんなどの色着けに用いられるクチナシの実やサフランの黄色の色素に、クロセチンと呼ばれるアペリンと同様の作用がある成分が含まれていることが報告されています。

クチナシの実は、お料理に使う他、次の疾患の改善のための生薬としても用いられています。生薬名は、山梔子(さんしし)/梔子 (さんし)です。

  • リンパ液の漏出による皮膚疾患の改善
  • 脂肪細胞肥大化の抑制
  • 睡眠の質の改善

などに効果があると言われています。

サフランの詳しい作用については『サフランをお料理に使ったことがありますか?サフランは強力な抗酸化成分をもったスーパーハーブ』をご参照ください。

ミエリン修復を阻害する4EPSの元となる食品は?

4EPSがミエリンの修復を阻害し損傷を起こすのであれば、それをそもそも作らないようにすれば良いわけです。そのため、私は次の質問の答えを探すことにしました。

  1. いったい何を食べると腸内で4EPSが増えるのか
  2. どの菌が腸内で4EPSを造るのか

しかし、いろいろ検索してみたのですが、答えは見つかりませんでした。

私が確認した全ての研究・実験は「4EPSを投与する」ところから始まっていて、特定の食品を食べさせるところから開始しているものが無かったため、何を食べると4EPSが増えるのか分かりませんでした。

菌の種類に関しても、乳酸菌とビフィズス菌が多い腸内環境にすると4EPSの産生が減少することを報告するものばかりで、何菌が増えると4EPSが増えるのかについて報告しているものを見つけることはできませんでした。ただ「悪玉菌」としか記載されていない論文ばかりで非常に残念に感じました。きっと今のところまだ犯人を突き止められていないのかもしれませんね。

菌の種類が解れば、その菌が好む食品を調べ、その食品を避ける、あるいは減らせば良いと思ったのですが残念です。そのため、4EPSになってしまう具体的な食品をお伝えすることはできないのですが、次のことは言えるのではないでしょうか。

発酵食品を食べる

乳酸菌とビフィズス菌が多いものを食べたら、4EPSが減るのであれば、ミエリンの修復を促し、損傷を少なくするためには、発酵食品をしっかりと食べることが重要です。

食品添加物を避け動物性食品はほどほどに

そして、一般的に悪玉菌を増やすものと言えば、食品添加物や動物性食品ですから、食品添加物の多い加工食品は避け、動物性食品は食べ過ぎないことが肝要です。

その他ミエリンの修復効果が報告されている栄養素と食品

ビタミンB群

ビタミンB群の多くがミエリン損傷の修復とエネルギー代謝を改善させたことが報告されています。

ビタミンB群については、まず『意外と知られていないビタミンB群の正しい摂り方』をご参照いただくことをお勧めする他、次の記事もご参照ください。

その他の栄養素

生命維持と脳に不可欠な微量元素ヨウ素は多くても少なくてもダメ

その他の食品

今まで執筆した記事の中で、認知機能や神経変性疾患の予防と改善に効果があると報告された食品やライフスタイルは次の通りです。

ソフィアウッズ・インスティテュートからのご提案

ご家族やご自身の認知機能や脳機能に不安がある方は、今回ご紹介した食品を食事に取り入れてみてはいかがでしょうか。食品はあくまでも食品で、医薬品ではありませんから即効性は期待できないと思います。しかし、日常生活の中に取り入れ、習慣にすることで予防や治療の補助になるはずです。

どちらにしても私達は、毎日食事をするのですから、その食事をご自身やご家族の体や症状をサポートするもの、サポートが期待できるもの、に変えていけたらいいですね。

おひとりでやることに不安やストレスを感じる人は、是非、ヘルスコーチにご相談ください。公認資格を取得しているヘルスコーチと一緒に取り組むことは、新しい習慣を継続させる上でとても効果的です。

公認ホリスティック・ヘルスコーチは、食事だけでなく、あなたを取り巻く様々なこと(環境、仕事、家族、人間関係など)を考慮して、プログラムに反映させ、あなたが、なりたいあなたになれるようコーチングを提供します。

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新学期は、毎年3月と9月です。講座でお会いしましょう。

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参考文献:

ソフィアウッズ・インスティテュート – ホリスティックヘルスコーチング